第3章15話『闇に引きずれ』
「――二人とも寝てるようですし、私たちは商店街にでも行きますか?」
「そだねー。行こっかー」
リビングでソファーに座ってそう話している二人の声が、聞こえた。二人ともはまだミレーナとヴァルクが寝てると思っているようだが、ミレーナはちょうど今起きたところである。
廊下から入ろうと思っていると、商店街に行こうとしてる声が聞こえため、身体を隠した。
「ふーん、それならあーし、こっそり着いて行っちゃおっかなー」
二人には聞こえないようにそう言って、さらに静かに、
「《透明化》」
そう言葉を紡ぎ、ミレーナの身体は消えていった。
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「僕は買い物しに来ててね。二人も買い物? 相変わらず仲が良いね」
「まあそんなところです。ミレーナとヴァルクは家でまだ寝てるんですよ。ほんと、だらしないですよねあの二人は」
「あの二人は朝が弱いイメージがあるし、そんなものじゃないかな」
商店街でしばらく二人の後ろに着いていっていると、アレスと出会った。どうやら彼は一人で買い物に来ているようだ。
――ロエンにだらしないと言われたことに、ミレーナは頬を膨らませて怒っているが、その表情は気付かれない。誰にも見られないから。
「全く、あーしはここにいるのになー」
そう口に出したくなるが、抑える。――しばらくしたらロエンとサフィナが後ろを向き、歩き始める。だからミレーナもまた、音を立てずに着いていく。
――そして森に入った途端、二人が止まった。
「……ロエン、家に帰る気ないでしょ?」
「――よく分かりましたね」
「どこ行くのー?」
なんと、家に帰るのではなくどこか別の場所に行くようだ。ミレーナは「えー?」と思いながらも顎に手を当てる。
「どこ行きたいんだろー。二人だけで遊び行くのかな? やっぱ姿見せちゃおっかなー」
二人だけで遊びに行くなんて、ずるい。どうせ着いてきたなら自分も行きたいなーと思って、姿を現そうとするミレーナ。しかしその前に、サフィナの声が耳に入った。
「【十執政】……?」
――それからの話は、よく聞こえなかった。突如、ここ数ヶ月もしくは約一年聞くことなかった組織名がサフィナから口に出され、ミレーナは止まってしまったのだ。
そうしていると、ロエンとサフィナは行こうとしている。
――【十執政】が使っていた本拠地に。
だから、
「――あーしも、行こっかな」
心の中でそう思って、ロエンが生み出した黒い羽根のような霧に入っていった。
◆◇◆◇
「――ってわけでー、あーしはずっと一緒にいたんだけどねー。タイミングが思いつかなくてさ、今が良さそうと思って」
背後から『暴食』ヴェルドを蹴り飛ばし、その姿を現したミレーナ。その姿に驚くカナタとヴェルド、そして何も驚かない三人。
驚いてくれなかったロエンとサフィナに愚痴を言いたくなるも、ミレーナはその先、ヴェルドと共に壁にぶつかった男を見つめる。
「で、あなたは何者? ロエンの『異能力』の他にも、あーしの知り合いの『異能力』を使ってたけど」
「さぁ? 君に教えるつもりはないしね。ってわけで、エクスプロード」
一直線、男は最高火力の炎魔法を放った。しかもそれは『エルフ』の力で威力が上がっている。直撃すれば、かなりのダメージが入るはずだ。
しかし、
「《透過》」
そう呟くと、魔法はミレーナを貫通して後ろの壁に激突。ミレーナの命を奪ったわけではない。当たらなかったのだ。まるで、そこには何もないかのように。
「ど、ういうことだ……? あいつ死んでないよな……?」
そんな縁起悪いことを言い出すカナタをサフィナが軽く叩き、
「《透過》のおかげだよー。ミレーナには攻撃効かなくなるからさー」
「何それ強すぎ」
ミレーナの『異能力』である《透過》。それは、発動中、彼女にはあらゆる干渉が効かなくなる。無敵、という感じではなく、全てがミレーナをすり抜けるのだ。だから、当たらない。
「――まあいい」
男はそれに対して驚かず、切り替える。その瞳はカナタだけをじっと見つめる。カナタを連れ去っても、ロエンたちに邪魔をされ、カナタと話す機会が上手く作れなかった。
――ならば、今しかない。他に数人聞き手がいるが、もう、良い。
このまま決めてやる。ヨナギ・カナタを引き込む方法を。
「――ところでさ、カナタ君」
これまでの態度とはうってかわって、柔らかい口調。それに不気味さを覚えながらも、名前を呼ばれたカナタは「なんだよ」と反応。
「君をこっちの世界に連れてきた僕が言うのもなんだけど、君はこの世界で何をしたいのかな」
本当に、どの口で言っているのかと思う。カナタも、男自身でも。だがこれを言うことが、カナタの心を変えるように繋がるなら、行う他ない。
「何をって……俺は俺の世界に戻りたいだけだ。勝手に異世界に連れて来られて、俺がどれだけ迷惑してるか――」
「そのことを、君は仲間たちに話したかい? 例えば、あの四つ子に『俺は元の世界に戻りたい』みたいなことを言ったかな?」
「それは……」
突然の問いに、カナタは頭を回す。カナタは、言ったことがある。男の言い方とは違いがあっただろうが、元の世界に戻りたいということは何度か伝えている。
「そりゃ、俺の目的がそうなんだし、アイツらも俺が帰れるように色々教えてくれた。それが何だって言うんだよ?」
カナタとしては、感謝してもしきれないほどの恩が四つ子や周りの人たちにある。この世界に来て、盗賊から守ってくれた。住むところのなかったカナタを住まわせてくれた。魔法を、文字を、『権能』を教えてくれた。
カナタがいつか元の世界に戻るために、そうやって何度も、何度もサポートを――。
――男の口元が、ニヤリと、不気味に上がった。そして――、
「四つ子は君を元の世界に帰せるのに、わざとそれをしていないって言ったら、君はどう思うかな?」




