第3章14話『残りの残機』
「ど、ういうことだ……? 全く魔法が効いてない、って感じじゃねぇよな?」
炎魔法で消し炭にしたはずの男は、無傷で立ったまま。カナタたち三人は信じられないといった目で見ていると、男はブツブツと呟き出した。
「まさか君に殺されるとは思わなかった。防御をするのを怠ったし、まあ当然の結果といえばそうかな」
「えぇ……? 殺されたってことは、死んだのか……? じゃあなんで生き返って――」
そこまで言って、カナタは思い出す。王都で彼と戦ったとき、彼は自分で部下を呼んで殺害させていた。
つまり、男は何度か生き返れるということ。
その数はおそらく、
「あと9998回も倒さなきゃならないのか……?」
『――やるじゃないか。残り、9998だよ』
その男の発言から、カナタはそう推理した。ただでさえ強い男をあと約一万回も倒さなければならないのか。そんな途方もないこと、行う前にこちらの精神がおかしくなる。
「――そうだね、あと一万回近く僕を殺すなんてこと出来ないか」
「ていうか、なんでお前そんな色々能力持ってんだよ!?」
思わず、カナタは叫ぶ。今まで見た能力だけに区切ると、魔法といった基礎的なものから、《腐蝕の呪い》などの呪い、そして《引力の王》などの『異能力』。まだまだあるかもしれないが、ひとまずカナタが見たのはこれくらい。
――にしてもレパートリーが多い。カナタなんて、魔法、『権能』しかないというのに。
「ってなると、逃げるしかないよな……でもどうすれば……」
「――仕方ありません。一気に引きますよ」
「あ、ぇ?」
突然、ロエンがカナタとサフィナの手を取って引き寄せる。この状況でどうやって引くというのか。どうにか走って逃げるのか。そういった疑問が口に出る前に、
「――おーっと、逃がさないよー。折角捕まえたのにさ?」
後ろから、そう声が聞こえた。――最悪だ。なぜなら、声を発した男は、【大罪冠】『暴食』ヴェルドだったから。
まずい、三対二になった。こちらは依然劣勢のまま。さらに逃げにくい状況になってしまった。
「ふ、二人とも、どうす――」
「――セルヴィ?」
サフィナがヴェルドを見ながら、そう呼んだ。するとヴェルドは「ん?」と首を傾げるとすぐに「あー」と言って、
「セルヴィって、僕のこの姿のモチーフの人でしょ? 会っとことないからよく知らないんだけどね」
そして、男はロエンとサフィナをじーっと見つめて、
「ってことは、君らは僕の同僚のモチーフってことかな。女の子の方はリオネと似てるし、男の子の方はバラムと似てるね」
「知らない名前出さないでもらって良いですか?」
「えぇ、先にセルヴィとかいう名前出したのそっちでしょ……」
ヴェルドが少々引いた目つきでロエンを見る。それにロエンは何も返さず、ただじっと睨み返すだけ。
「そんな睨まないでよ……あ、もしかしてセルヴィって人と仲が悪かったとか?」
「まあそういうところですね。嫌いでしたよ、私は」
淡々とロエンが会話している中、カナタは顎に手を当てて思考を整理し始めた。
ヴェルドの口から出された『嫉妬』リオネと、バラム。バラムが誰か知らないが、ヴェルドの発言からしてロエンと同じ姿をした【大罪冠】なのだろう。
――友達と同じ姿のやつが敵だなんて、嫌に決まっている。
「――にしても、この状況をどうやって抜け出すか……」
正面には男、背後にはヴェルド。このまま戦いを続ければ、ほかの【大罪冠】たち全員が集結してくる可能性もある。ロエンとサフィナがいくら頼りになると言っても、この状況はとてつもなくキツい。
「目くらまししたって、意味ないよな……」
闇魔法の「シャドウ・エクリプス」を使って視界を奪っても、短時間で逃げ出すのは無理だ。
それに、今ここにいるのは、気分次第でカナタたちが魔法を使えるか否か設定できる男と、デバフ効果を撒き散らしてくるヴェルド。
ヴェルドのそれに対抗するには光魔法を纏わなければならない。となると、カナタたちがどう動いても、詰みだ。
「クソ……」
必死に、必死に考える。考え尽くす。なにか手がないだろうか。頭をかき、考え、考え――、
「――さて、僕らはカナタ君に用があるだけ。君ら二人が素直に帰ってくれるなら、何も危害は加えないよ?」
「それはどうもーって納得するわけないよねー?」
「だろうね。僕もそう思ってた」
今カナタを置いて逃げるなら、襲うことはしない。それが、男たちの意見だ。だが、それを二人が飲み込む訳はない。答えを聞かなくてもわかっていたことを、男はわざわざ聞いた。
――男としても、ロエンたちが意見を曲げないなら、それを尊重するのが流儀だろう。
ならば、
「《亡者の印》。『吸血鬼』×『エルフ』×『獣人』」
と、過去に殺したそれぞれの力を身に纏う。もう、準備は出来た。ヴェルドと共に三人を襲って、カナタだけ連れ出す。そうしようと、まずはその一歩を――。
「ガハッ!?」
踏み出す直前、ヴェルドは何者かによって蹴り飛ばされ、男の方へ一直線。これには男も想定外だったのか、引力や斥力を操る『異能力』を使う前に激突し、壁まで吹き飛ばされてしまった。
「え!?」
カナタも驚愕の声を上げて、ヴェルドがいた位置を見る。だが、誰もいない。となると一体誰がヴェルドを蹴り飛ばしたのか。
その答えは、カナタには分からなかった。――カナタと、ヴェルドには。
しかし、その正体を理解したのが三人。共に、同じ人物を頭の中に浮かべた。
その人物は――、
「サフィナとロエンの買い物にこっそり着いて行ったら、こんなところまで来ちゃったよ、あーし。マジびっくり」
そこにいなかったはずの人影が一気に姿を現し、声を出した。
水色の長髪を触って、腰に手を当ててギャルっぽい喋り方をする少女。
――それこそが、ミレーナ・ネフェリアだった。




