第3章13話『残りの⬛︎⬛︎』
――《亡者の印》。それは、全部で十七個ある『異能力』の一つだ。
効果は至って簡単である。命を奪った相手の能力を、使用できるというもの。
無論、神の力のような理外のものは不可能だが、それ以外であればなんでも使えるようになる。
魔法に『権能』に、あとはそう、特定の種族だけが持つ力とか。
だから男は――、
「――《亡者の印》」
それを使った。瞬間、男が使用したのは、昔に殺害した吸血鬼の力。髪は赤く染まり、体内の血液を自由自在に体外へ出せるようになる。
するとすぐに、男は天井に血液の刃を大量に設置した。それは地面にいるロエンたち目掛けて――、
――降り注ぐ。
「あーもう、めんどくさー。ロエンが適当にどっかに集めてよー」
対の扇、フロリーレを振り回しながら、サフィナは降り注ぐ刃を全てはじき飛ばす。そしてロエンに頼むと、「あ、そうですね」と答え、
「《引力の王》」
引力が発生して、血液の刃を壁際にまで集めることで、ロエンたちに刃が降ることはなくなった。
「《造物》」
また、男は何か『異能力』を使った。すると、男の手には真っ白の剣が現れる。それで、戦うつもりだろうか。一気に身体を下げる三人を目前にして、男は――、
「え?」
ロエンが、そう呟く。攻撃されなかったから。だって、男は剣先を地面に突き刺したのだ。わけがわからず止まっていると、
「『エルフ』×『吸血鬼』」
またもや、男は殺した相手の力を使う。吸血鬼の能力は分かるが、エルフはというと――、
「エクスプロード、ブリザード・レイ、ウィンドカッター」
炎、氷、風の魔法を男は詠唱。三つ同時に放たれるのだが、それは、
「なんて、威力ですか……!」
防御魔法で全身を守るロエンだが、一気に破られ、三つの属性に全身をやられる。だが、その全身は黒い羽根のような霧が包み込み、
「《斥力の王》……!」
突如、男の後ろにワープしたロエン。男が振り向くより先に斥力が男を魔法まで吹き飛ばした。そして自分の放った魔法を防御無しに喰らってしまう。
「――あぁ、痛いな……。エルフの力で魔法の威力と魔力効率を上げたからかな。いつもより痛かった」
なんと、無傷である。痛いなどと言っているが、全然身体に傷がついていない。――いや、傷ついた後、何か別の力で治した場合もある。
一瞬、戦いの手が止まったところで、カナタが声を出す。
「お前、なんで魔法使えて……。使えないんじゃ……」
それは、質問だった。さっき、カナタはここで魔法を発動できなかった。にも拘らず、男は使ったではないか。疑問を口にするカナタを男は見て、その指を先程地面に刺した白い剣に向けた。
「アレで、ここのルールを書き換えたのさ。魔法を使える部屋にね」
「じゃあ――」
刹那、サフィナは駆けて剣を奪おうとする。しかし、
「《引力の王》」
ロエンではなく、男が発動した。すると、地面に刺さった剣はサフィナの手に捕まることなく、男の右腕に戻った。
「さてと。――《空断の呪い》」
また、違う技を使った。だが、何が起こるかカナタは何となく分かってしまう。だから、
「二人とも伏せろ!!」
腹の底から叫び、ロエンとサフィナは身体をかがめる。その瞬間、彼らの後ろにある壁が粉々に砕かれた。
「うげぇーやっばー。あんなの当てようとしてたのー?」
こんな状況で怖がらずにそんなことを言えるサフィナにカナタは驚くが、まあそれは良い。そのまま立ち上がって男を見ると、男は興味深そうに話しかけてきた。
「なんで分かったの?」
「さっき、ラインたちと『傲慢』のバエルってやつが戦ってただろ? 『暴食』と戦いながらチラ見してたんだけど、見えない攻撃を使ってた。それなら、お前もそれを使うんじゃないかって」
「――まあ要するに勘ってことですよね? 長々言ってますけど」
「それはそうだけど要約されるの恥ずいからやめてくれる!?」
胸を張ったカナタの長ーい推理を、ロエンが立ちながら笑いかけてくる。確かに彼の言う通り、要するに勘なのだが、それを改めて言われると恥ずかしさが勝ってしまう。
それで、ちょっと頬を赤く染めて恥ずかしがるカナタ。
それを見てちょっと申し訳なさそうにするロエンと――、
「はぁっ!!」
突然襲いかかって来る男。それは、ロエンとサフィナを完全に無視し、カナタに突っ込んできた。カナタは「うぇぇ!?」と情けない声を上げながらも、
「《創造》――ッ!!」
一瞬、『権能』で武器を作ろうとしたが、『権能』はまだ使えないようだ。だからすぐに魔力を流し込み、氷の武器を作って男の白い剣と交える。
「へぇ、やるじゃん。反応できるとは思わなかったよ」
「記憶力は、良くてな。お前の行動パターンは何度も見てきたからな……。大体予想はついてる……!」
何度、男に襲われたと思っている。元の世界、グレイスとの魔法の特訓の日々、商店街、王都、そして今。何度襲われた。ここまで来れば、新たな攻撃をしてこない限りは大体の行動に予想はつく。
――それら全てを対処できる、とは言えないが。
「フッ、そっか」
「その薄ら笑いもぶっ壊してやるよ……。――シャドウ・エクリプス!」
闇魔法を発動し、一気に男の視界を奪う。さらに魔力を手に集め、
「エクスプロード!!」
炎魔法最高火力のそれを、一直線。魔力の消費は激しいが、効果は感じられた。カナタの正面一直線は燃え、焼けてぐちゃぐちゃだ。冷たい部屋だったのに気温も高くなって、汗もだんだんでてくる。
「や、やったのか……?」
「カナタ、やるじゃないですか! 私と戦ったときより強くなってますよ。昨日ぶりなのに」
昨日、学園の授業でロエンにボコボコにされたカナタであるが、ちゃんと夜に魔法の本を読み漁った。そのおかげでもあるし、ロエンと戦えたおかげでもあると思う。
「じゃ、じゃあ、早く逃げ……」
「そうですね――」
「――《再誕の輪》」
一刻も早くここから逃げようと。そう動く三人の耳に、消し飛ばしたはずの男の声が聞こえた。
「――ッ!?」
三人同時に振り返ると、手で服をパッパッと払う男の姿が。そして男は三人をじっと見つめ、
「――やるじゃないか。残り、9998だよ」
――とだけ、呟いた。




