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第3章12話『『時間の神』』


「――ただいま。あれ、どうしたのみんな? 空気がどんよりしてるけど……」


 商店街からファルレフィア邸まで帰りついたアレス。その玄関の巨大な扉を開けると、何やら空気が重い。


 外に出るときまでいなかったアッシュ、グレイス、ミリアが集まっていてビビるが、その全員が椅子に座って何か悩むようにしている。


「……あのー、何か答えてくれないと怖いんだけど」


「カナタが誘拐された」


 瞬間、耳を疑う内容がラインから発せられた。だからアレスは「は?」と呟き、


「えっと……え? カナタが? 誰に?」


「【大罪冠(たいざいかん)】たちに」


「え、えぇ……?」


 まさか自分が出て行っている間にそんなことになっているとは思わなかった。それに、兄妹がいるのにカナタが連れ去られるわけないとも思う。だって、兄妹は皆強いから。


「兄さんたちがいたのに、攫われたの? どういうこと?」


「【大罪冠】を率いるボスが、俺らを『創世神』だって分かってる。――まあ、それにはなんとなく気づいてたから問題はそこじゃない」


 『創世神』。それは宇宙を創り、この世界を創って生命をもたらした神だ。

 そして、生まれた者に『権能』を与える神。


 その血が、四つ子には入っている。吸血鬼と『創世神』のハーフなのだ、この四つ子は。

 その正体を知る者。この場にいる全員は知っているが、他はあと数人の知り合い程度しか知らない。


 それなのに、それが敵にバレている。――まあ、以前戦ったときにラインがかなりやりたい放題やっているし、勘のいい奴なら気づくかもしれない。それも、ほぼないだろうが。


「だが……」


 だがしかし、あの男は別の神の名も言った。


 

『じゃあね、『創世神』たち。『知恵の神』にも『時間の神』にも『生と死の神』にもよろしく言っておいてよ。――憎き、あの女たちに』


 そう、言っていた。『知恵の神』、『時間の神』、『生と死の神』。

 『知恵の神』は言うまでもなく、ファルレフィア邸に住み着いているアステナである。

 とはいえ、そんな神がいることを人類は誰も知らない。彼らが知るのは、『創世神』という神だけなのだから。

 

「あいつはアステナたちのことを知ってるってことになる。そうなるとかなり相手は絞られるんだが……」


「でも、あの三人はめっちゃ長く生きてるし、昔に会った奴って場合もない?」


 ラインが腕を組んで上を見あげて悩んでいると、セツナがそう呟く。

 四つ子はまだ二十年も生きていない少年少女なのだが、他の神たちは数えるのも嫌になるくらい昔から生きている。となると、彼女たちが昔に会った相手なのでは? と、セツナは考えたのだ。


「――ま、本人と会ったほうが早いか」


 と言って、ラインは立ち上がった。


「それじゃ、俺は行ってくるから」


 次の瞬間、ラインはリビングから居なくなった。



◆◇◆◇



「――っと」


 ラインが着いたのは、神秘的な空間だった。現実ではありえない美しい景色を見て、後ろを向く。

 すると、白く巨大な神殿が目に映った。


「行くか」


 そう呟いて、ラインは神殿に向かって歩いていく。中には、ラインの目的の神様がいるはずだ。


 そう思って歩いていると、


「――あれー、どうしたの? 遊びに来たのー?」


「うわぁ!?」


 突然後ろから声を掛けられ、驚いてしまう。全く、気配を感じなかった。バッと振り返ると、雲のようにふわふわしたものに座って空を浮かんでいる女性がいた。


 腰まで伸びている銀髪には星型のヘアピンがいくつも散りばめられていて、藍色の瞳がラインをじーっと見つめてきた。


「なんだ、フォカリナさんか……びっくりしたんですけど……?」


「ハハ、ごめんねー。久しぶりにここに来たからどうしたのかなーって思ってー」


 柔らかい声で喋る彼女もまた、神である。――まあ残念ながら本日の目的の神ではない『夢の神』なのだが、このふわふわさには安心する。


「アスタリアさんに用があって来たんですよ。いますかね?」


「いるよー。アスタリアーラインくんが遊びに来てるよー」


 見た目から思えない大声で、目的の神様の名前を叫んだ。それにラインは「遊びに来たわけじゃないんですけど……」と言おうと思ったのだが、やめた。


 それから暫くして、


「――あ、本当だ。どうしたの? ライン君が来るなんて珍しいね」


 本命の女性が、やってきた。

 腰まである金髪に金色の瞳を持った美しい女だ。その姿を見て、ラインは単刀直入に、


「カナタが誘拐されました」


「――うん、え? はい? わたし、聞き間違えたかな?」


「間違えてないですね」


 懐疑的な目でじーっと見てくるアスタリアに、ラインは真剣な眼差しをただ向けるだけ。そしたら彼女も分かってくれたようだ。


「なるほど。それで、『時間の神』であるわたしのもとに来たのはなんでかな? 悪いけど、カナタ君が攫われる前に時間を巻き戻せ、はダメだからね? 世界が本当に危ないとき以外、そういうことはしたくないからさ」


 『時間の神』であるアスタリアは、時間を自由自在にいじる大権を持っている。制限なく、時空に関することはなんでも出来てしまうのだが、それを本当に自由に使いまくるのは彼女のポリシーに反する。

 

 彼女が時間を戻すのは、修正できない危機が世界に襲ったときだけだ。だから、ラインの望みがもしもそれなら戻せないと最初に忠告をした。


 ――だが、ラインの目的はそうではない。彼はただ、

 

「ああ、大丈夫ですよ。そんなつもりないので。ただ、ちょっと聞きたいことがあって」

 

「そう? ならいいよ。言ってごらん?」


「前に宇宙空間に飛ばした【十執政】を探しに行きましょう」

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