第3章11話『『異能力』』
――次に黒い羽根のような霧が現れたのは、冷たくて暗い空間。世界のどこに属しているのか分からないといった場所だが、ロエンとサフィナは分かる。
「……久しぶりに来ましたね、ここ」
「そうだねー。あれから来てないもんねー」
最後にここに来たのはいつの日だろうか。なんてわざわざ考えずとも、その日は一番記憶に残る出来事があったから忘れるはずもない。
「行きましょう」
そして二人はゆっくりと歩いていく。この道も何度も通った。いくらまだ目が慣れていなくて暗くても、身体が覚えている。
「……ん」
廊下の隣にドアがあった。二人は顔を見合せ、ドアノブを回して部屋に入る。
「あー、ロエンの部屋だねー。そういえば、全部ここに置いたままだもん。色々あるね」
「そうですね。私のものが沢山置いてあります。変わらないものですね」
なんて呟きながら二人は部屋を出て、歩き続ける。何が潜んでいるか分からない。出来るだけ足音を極限まで減らし、ゆっくり、早く歩く。
「どうやって戦うとか決めてる?」
花のように綺麗な桃色や黄緑色が入った対の扇――「フロリーレ」を手に持って、サフィナはロエンに尋ねる。すると、
「そうですね、ミレーナがいたら少しは心強かったんですけど……私たちがどこまでやれるかですよね」
と答えた。――ミレーナ・ネフェリア。
ロエンとサフィナの友人である彼女だが、実は戦闘能力は二人より遥かに強い。そんな彼女がいればもう少しこの場は心強かったが、どうせまだ寝てるだろう。
「連れてくれば良かったですよ……」
そんな後悔をしながら進むと、目の前に巨大な扉があり、少しだけ開いていた。
「サフィナ、周りを見ていてください」
「りょーかーい」
小声でそう言って、サフィナは周りを警戒する。その間、ロエンは扉の隙間から中を覗き見する。
すると目に入ったのは――、
「あれは……カナタ……? なぜ彼がここに……?」
そこにはロエンのクラスメイトであるヨナギ・カナタがいたのだ。そして、もう一人別の人物と会話をしている。上手くは聞こえず、内容は分からない。
――それを見届けようと思った。だがしかし、突然男の方がカナタに近づくのが見えた。だから、ロエンはサフィナの手を取って扉の中に強引に入り込み――、
「――《斥力の王》」
と、斥力を放つ『異能力』を発動した。
それは男を壁際にまで吹き飛ばし、鈍い音を鳴らして衝突させた。
「ロ、エン……?」
そう口を紡いだのは、カナタである。「なんでここにいるのか」と、そう言いたそうな彼の前に二人は立つ。
「あなたこそ、なぜここに?」
「ラインたちの家にいたら、【大罪冠】って奴らに襲われて、それでここに……」
「なるほど」
端的に言われた情報をすぐ理解し、二人はカナタを守るように男の前に立ち塞がった。
「――なんで、ここに……?」
そう言ったのは、男。それは、王都であったのと同じ存在の声だった。
「あなたこそ一体何者ですか? なぜ彼を襲うんです?」
「カナタ君の力が必要だからさ。僕の目的のためにね。――そのためにも、邪魔される訳にはいかないんだよ」
瞬間、男は目の前から消えた。どこに、行った。ロエンとサフィナが周りを見渡す中、カナタは叫ぶ。
「《腐蝕の呪い》を使ってくる! 触られないようにして!」
カナタの言った通り、男は《腐蝕の呪い》を手に纏ってロエンの目の前に手を近づけた。
しかし、
「はーいさせないよー」
サフィナがフロリーレを垂直に振り上げ、男の右手を切断。続けて、蹴りを腹に入れて飛ばした。
「……あいつ、私を腐敗させようとしましたよね? 普通に殺す気はあるんでしょうか?」
「さあ? どっちにしろ、アタシたちは殺す気でやらないとねー」
「そうですね」
「お、お前ら、待てって」
尚もカナタを守ろうとする姿勢の二人を、カナタは理解出来ない。四つ子と比べてもまだ一緒にいる時間は浅く、そこまで関係を深められた気はしない。なのに、どうしてそこまでしてくれるのか。
「なんで、そこまで守ってくれるんだよ……?」
その問いにロエンは「フッ」と笑い、
「私たちの恩人が、あなたを大切にしているから、ですかね」
そうとだけ言って、ロエンは男を見つめる。
「あなたは、私たちのことを知っているのですか?」
「――。それは、どういう質問で?」
「そのままの意味です。私たちと親しい人物だったのか、そうではないのか。それをはっきりさせたいです」
男が結局、ロエンたちの考えた人物のうちの誰かなのか。それを確認しないことには始まらない。だから、質問した。そしたら少しの間が空いて男は口を開き、
「――ま、少なくとも、僕は君たちに悪い思い出はないよ。君らがどうかは知らないけどね。だから僕のやるべき事は」
一度、男は間を置く。そして、
「――《亡者の印》」
「なっ……!」
男の発動した『異能力』が聞こえた。それは、まずい。ロエンとサフィナはすぐにそれを感じ取った。
その力を使われたら、一体どんな攻撃が男から来るか予測できない。カナタを連れて、部屋から出るしかない。
そう考え、ロエンとサフィナはカナタに近づく。
だが逃げ出す間もない。なぜなら、
いつの間にか天井に設置された血液の刃が、ロエンたちに目掛けて降り注いで来るのだから。




