第3章9話『【十執政】』
――目が、覚めた。とてつもなく冷たい空間で。
カナタはすぐに立ち上がり、冷えすぎて痛くなった腕を優しく擦る。
そして周りを見渡した。
「どこだよ、ここ……」
真っ暗で何も見えないのだが、段々と目が慣れてきて視界が広がってくる。
「――ああ、起きたんだ」
「――っ!」
聞いた事のある声。間違いない。先程魔法で拘束される前に聞いた、あの男の声だ。それは後ろからした。だから魔力を右手に集め、
「フレイムスパ――」
「無理さ。魔法は使えない。この空間はそういう作りのものでね。僕は君と話をしたいと――」
「《創造》!」
魔法が使えないなら、『権能』だ。男が言い切る前に、カナタは『権能』を発動して剣を創り、首を斬ろうとした。
しかし――、
「発動、しない……?」
「『権能』も発動できないよ。ここではね。残念」
なんと、それを行使することも出来なかった。そうなればもう、魔力を全身に巡らせて肉弾戦に持ち込むしかない。
「はぁっ!!」
「――《引力の王》」
「あがっ!?」
殴りかかろうとした矢先、カナタは重力で地面に倒される。起き上がれない。どうやっても、無理だ。
「ここでは、『権能』使えないんじゃ……」
「そうだね。でも、今使ってる『重力』は『権能』じゃないからさ。大丈夫なんだよね」
男が使う力は、男曰く『権能』ではないとの事。それぞれの大罪の呪いといい、この力といい、どんな特殊能力なんだろうか。
――だがそれよりも気になることがある。それは、
「この力って、ロエンの……」
そう。そうなのだ。男が使用する、《引力の王》と《斥力の王》。
それは、カナタのクラスメイトであり友達のロエン・ミリディアの『権能』と同じ名称、同じ効果なのだ。
この男がロエン? などといった場合も想定しなくてはならない。
――否、その心配は必要ない。他人を行動で記憶できるカナタが、これまでの男とロエンの行動を脳内で見比べて見ても、重なる部分は少ない。完全なる別人である。
それなら、それならなんで、
「お前がそれを持ってんだ……?」
「ああ、そうか。君、クラスメイトなんだっけ。王都で会ったきりだけど、ロエンとサフィナは元気かな? あとミレーナも。あ、ヴァルクとレヴも元気?」
――唐突に五人の名前を聞かされ、カナタは「はぁ?」といった顔をする。ロエン、サフィナ、ミレーナのことは知っている。だが残り二人は知らない。完全に、初見の名前の――、
「あ、ぁ……!? な、んで今……?」
最悪の、タイミングだ。強烈な頭痛がカナタを襲い、カナタはすぐに地面にうずくまる。久しぶりだ、ここまでの痛みは。そして今日は、何やら会話も聞こえてきた。
それは、男が言った人数と同じ、五人の声だ。
『私は【十執政】『第七位』ロエン・ミリディアです。以後お見知り置きを』
『アタシは【十執政】『第八位』サフィナ・カレイドでーす。よろしくー』
『あーしは【十執政】『第五位』ミレーナ・ネフェリア。よろしくねー』
『俺は【十執政】『第十位』ヴァルク・オルデイン』
『俺は【十執政】『第九位』レヴ・ダイナス、で良いか』
と、それぞれの自己紹介が流れる。全く聞いた事ない組織名と、おそらく組織内の順位であろう数字。それを名乗った友達三人と、知らない二人。
知らない組織名、知らない名前。知らないはずなのに――、
「な、んだこれ……?」
カナタを襲うのは、謎の感覚。それは恐怖ではなく、安心感だ。何故か、心が落ち着く。――ような気がする。知らない組織名と、名前があったはずなのに、実家のような安心感。
と似たような感覚がする。
その違和感に戦慄していると、頭痛がゆっくり収まる。
すると、
「頭痛が来たってことは、思い出したかな?」
「思い、出した……?」
「うーん、まだか。――ま、良いや。今じゃなくていいし」
何をわけの分からないことを言っているのか。カナタはゆっくり立ち上がり、その瞳を男に向ける。
「――で、俺を連れてきて、何のつもりだ……?」
「君の力が必要なんだよ」
「断る」
「そう?」
人質がいない今、カナタが男たちに従う必要はない。
カナタの力が必要ない男たちは、カナタを殺せないのだから。だから、カナタがどれだけ拒否しても殺されることはない。――それ以外を、どの程度されるかは別だが。
ただ少なくとも、これまでカナタを死なない程度に痛めつけて無理やり従わせる、といった方法を取ってくることはなかった。ならば、強気に出ても良いだろう。
それに今は知りたいこともある。
「さっきも聞いたけど、なんでお前がロエンの『権能』を……? 全く同じものを持って生まれてきた、ってわけでもないよな?」
「ま、そうだね。――ていうか、さっきも言ったけどこれ『権能』じゃないし」
「『権能』じゃないってなんだよ。お前らが使ってる呪いみたいの特殊な力か?」
「君は質問が多いなぁ。ちょっとは落ち着きなよ」
質問ばかりしてくるカナタに、男は頭をかいて、ぶん殴りたくなるような笑顔でため息をつく。そして、
「これは『異能力』っていう力でね。全部で十七個ある力さ」
「きり悪い数字だな……で、それは一体なんの力――」
「『破壊神』と『魔王』に貰った力さ」
「な、はぁ……?」
男の口から出た二つの単語を聞いて、カナタの動きは止まってしまう。
『破壊神』と『魔王』。それは以前、ファルレフィア邸で『知恵の神』アステナとともに読んだ「神話」というタイトルの本に乗っていた存在だ。
なぜそれを男が知っているのか。尋ねようと――、
「『破壊神』と『魔王』に仕えていた【十執政】って組織があってね。『異能力』はその彼らが持ってる力さ」
「――は? い、いや、待て、待て待て……」
「神話」の本の記述内容から、『破壊神』と『魔王』は世界を滅ぼそうとしていたと分かっている。それに仕えていた組織があることも、分かった。ただ、それはどうでも良かった。
今、カナタの思考を覆う情報。それは、
「ロエンたちが、【十執政】……? 『破壊神』たちの部下……?」
同じ学園に通う友達が、世界を滅ぼそうとしていた者たちの仲間だったということ。にわかには信じられないが、先程流れていた記憶で、友達三名はそれを名乗っていた。
わけが、分からない。
「ここまで来たら分かってるだろうけど、君の問いに答えてあげる。――《引力の王》と《斥力の王》は、ロエンが持ってる『異能力』さ」
「あいつが、そんな危ない組織の人間……? そんなバカな……」
「まあそういうことだからさ。僕は君の質問に答えたし、君は礼として僕に従ってよ」
「断る……!」
せっかく色々答えたのに、従わないカナタを見て男は困ったようにため息をつく。
「それなら僕にだって考えが――」
「――《斥力の王》」
次の瞬間、斥力が男を壁に飛ばした。男が発動させたわけではない。
ただ、その力を持つ本家の男の声が、響いた。




