第3章8話『捕まえた』
――リガル。
それは、ある男が生み出した拘束魔法。今現在、世間一般に広がっている拘束魔法とは違い、男が考え、男しか使えない完全なオリジナルである。
その効果は、男が拘束対象に設定した力を持つ人物――理外の力を持つ者にのみ働く。
魔力で作られた漆黒の鎖は、対象の力を一時的に停止させ、無力にさせる。
そしてその拘束を外すことは、何人たりとも出来ない。
なにせ、その魔法は最高峰の理外の力で作られているから。
――そして「リガル」を生み出したあの男。それは突然この場に姿を現し――、
「――リガル」
詠唱され、漆黒の鎖がターゲットの人物、つまりはヨナギ・カナタを縛り付ける。
拘束は理外の力を持たないミリアを無視し、カナタにだけ的中。
一気に全身の力を取り除き、カナタは地面に倒れる。
「は、ぁ……?」
声も、出ない。驚愕の声しか出なかった。何も喋れない。口を開けない。全身の力が、文字通り消え去った。
「なっ……! 貴様――」
「もう君には用はないからさ。じゃあね」
『暴食』ヴェルドに剣を振り下ろすはずだったミリアは呆気に取られ、男に意識が向く。目が合った男はカナタを見つめてそう言って、
「――《斥力の王》」
瞬間、斥力が発生してミリアは遠くに吹き飛ばされ――、
る前に、一瞬で反応したアッシュがミリアを抱えて助け出す。
そして後ろに下がり、ミリアの無事を確認すると、アッシュが――。
否、この場全員の視線が、男と【大罪冠】二人に向けられる。
「お、まえ……」
「あれ、まだ喋れるの? 出来ないように鎖を作ったんだけどなぁ。弱かったか。――ま、いいや。《斥力の王》」
そして再び斥力の力が使われ、カナタの意識をはるか遠くに飛ばし、眠らされた。
◆◇◆◇
男がカナタを眠らせた直後。ラインはカナタを助けようと一歩踏み出す。
「カナタ!」
「止まれって。全身その場を動かないでよ。さもないとカナタ君を殺す」
すぐさま走ろうとしたラインに手を向け、男は制止する。それに従い、全員は静止。そうしていると、『暴食』と『強欲』が男のもとに集まった。
「あのー、何しに来たんですか?」
「……はぁ?」
「いえ。なんもないです」
『暴食』ヴェルドが男の後ろから聞くが、無関心のような、怒っているような瞳が向けられ、萎縮してしまう。
「お前らが無断行動をして、リオネたちが助けに行きそうだったからね。先にお前らを回収しに来ただけだ」
「申し訳ありません……」
「怒るかどうかは別だけど、許しはするよ。こうやって、カナタ君を捕まえられたし」
そう言って、漆黒の鎖で縛ったカナタをお姫様抱っこする男。
その姿を緊張しながら見ている一行だが、一つ驚いたことがあった。
それは、
「あいつって謝れるんだ……」
ということ。さっきまで散々傲慢な態度と口調を貫いてきた『傲慢』バエル。しかし、彼は男に『申し訳ありません……』と、本当に申し訳なさそうに謝っていた。
それが、全員に衝撃を与えたのだ。
――とりあえず思考を変える。面々に緊張が走る中、ラインは男を見つめて尋ねる。
「カナタを捕まえてどうするつもりだ」
「分かってるくせに。僕のために一緒に動いて貰うんだよ」
それは、分かっている。ラインが知りたいのはそこじゃない。だから、
「でも、カナタが裏切ってもお前らは殺せない。――カナタの力が必要だからな。人質がいないのに連れ帰って、カナタを従わせられると思うのか?」
「ま、それもありだと思うんだけどね。でも、今はその方法は捨てたよ。もっと良い方法を考えたからね」
「もっと良い方法だと?」
「うん。――あ、教えないよ? ここから先はプライベートな内容だしさ」
「そうかよ。――なら」
そりゃあ答えてくれる訳はない。――だが、しかしだ。今の白髪白眼のラインなら、理外の力で思考を読み取るなど造作もない。だからすぐに男の脳内を読み込もうと――。
「――はー、おっかない。でも、無理さ。そんなことされないように対策はしている」
思考を読もうとしたが、遮られた。それはラインの力と同質、もしくはその対称となるどちらかの力で。
「なんで……」
「まあ、こっちにも色々あってね。それくらいのものは作ってる。――というわけで」
次の瞬間、空間が揺れる。男たちの傍の空間が裂け、穴のようなものが出来る。
――逃げるつもりだ。させない。カナタを連れて、そんなこと。
この場の誰もがそう思い、足を踏み込もうと――。
「じゃあね、『創世神』たち。『知恵の神』にも『時間の神』にも『生と死の神』にもよろしく言っておいてよ。――憎き、あの女たちに」
「は、ぁ……?」
――そして、男と二人の【大罪冠】は闇へと消えた。




