第3章6話『仲間思い』
「――まずはお手並み拝見、ってところか」
【大罪冠】『傲慢』バエルを前にして、ラインはそう呟いた。相手の能力もよく分かっていないこの状態で、本気でやってこちらの情報を取られたら元も子もない。
――まあ、ラインたちは戦う手段は無限に作れるから問題はないが、それでも手札を多く見せるのはやめておきたい。
「見た感じ、不可視の攻撃を飛ばしてくるって感じか?」
何も見えない不可視の攻撃だ。今の所は、それくらいしか分からない。
「ま、やってみるしかないか」
妹二人とメイド二人を置き、ラインは一閃。その手には血液の刃をしっかり握っていて、先端はバエルを貫こうとしていた。
――が、しかし、
「カハッ……」
バエルではなく、ラインが血を吐いた。刃はバエルに届いた。でも、ダメージを喰らったのはライン。
痛みを感じる腹を見ると、バエルに向けているはずの刃が、ラインの腹に刺さっていた。
「な、んだこれ……」
「貴様の攻撃など、この俺が喰らうものか。愚か者め」
続いて、ラインの左腕が切断される。それは、不可視の攻撃だった。痛みに耐えながらラインは「チッ」と舌打ちをかまし、後ろに下がる。
「ライン様、大丈夫ですか!?」
「ああ、大丈夫。心臓じゃなかったし、吸血鬼の力で治せる範疇だ」
心配した顔で近づいてくるセレナを、手で制止して立ち上がる。
出来るだけ、『⬛︎⬛︎⬛︎』の力は使いたくない。無駄に疲れるし、相手に技を見せてしまうし。
「――って思っても、吸血鬼の力だけであれを破れるって気はしないな」
「あのバカ兄は何やってんだか……」
「――。あ、俺じゃなくてアレスか。まだ買い物してるんじゃね?」
唐突にセツナにバカにされたと思い、「はぁ!?」と振り向くライン。だがそれは、朝から商店街で買い物をしてるもう一人の兄、アレスに向けているものだと分かって安堵する。
出来ればアレスにも来て欲しい。が、連絡手段がない。
まあ、テレパシーを使えば兄妹は脳内で会話も出来るのだが、それは『⬛︎⬛︎⬛︎』の力を使うから、今使うのは避けたい。
となると、どうする――。
「――ッ!!」
またもや、不可視の斬撃が飛んできた。なんとか、血液の刃で受けて空高く打ち上げ、回避は出来た。しかしこれでは防戦一方。相手の能力が、せめてもう少し詳しく分かれば……。
「その足りない頭で、考えるだけ考えろ。俺に勝つ方法などない。俺は最強の男だからな」
「……いや、そういうの自分で言うやつってあんま強くない気がするけど」
――プツン、と、切れる音がした。
次の瞬間、空間が揺れるのが分かった。これは、どこから攻撃が――
「クッソ、マジかよこれ……!」
四方八方、不可視の斬撃が風を、空間を裂きながら飛んでくる。兄妹三人は当たっても大丈夫だが、メイド二人はそうはいかない。三人で血液の刃を持ってメイドを囲み、迫る斬撃を全て薙ぎ払う。
「――お兄ちゃん、使っていいよ」
「――ああ」
決めた。もう、温存はしない。これほど高度な攻撃を続けられれば、まだ昼で弱っている吸血鬼の姿だけでは捌ききれない。
だから、
「……よし」
刹那、ラインの髪と瞳の色が真っ白に変わり、神々しいオーラが全身から溢れ出た。その姿をバエルは見つめ、
「ほう。それがあの方が言っていた、神の姿というわけか」
「なんでお前らのボスがそれを知ってるか分かんないが、今はとりあえずお前らを撤退させる」
「ふざけるな。貴様ごときが、俺を撤退させれるとでも? 神だがなんだか知らないが、俺の方が強い」
「なんなんだよその傲慢さは。――だから『傲慢』って名乗ってんのか」
ラインの言葉に、バエルは静かに「黙れ」と呟き、空間を裂く斬撃を飛ばした。
◆◇◆◇
『嫉妬』リオネがあの方の部屋から出て、少しのこと。彼女は巨大な扉を開き、暗い空間に足を踏み入れた。
そこには、でかいテーブルを囲んで仲良く談笑をしている四人の男女の姿がある。
彼らの瞳は、入ってきたリオネを見つめ、
「……あれ、リオネちゃん。一体どうしたの?」
椅子に座る四人――男女二人ずつなのだが、そのうち退屈そうにテーブルに身体をだらーっと乗せている水色髪の女が、声を出した。するとリオネは息継ぎしながら、
「バエルと、ヴェルドが、勝手に……」
「勝手に?」
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様が危険って言ってた、四つ子の家に突撃したの!」
――一気に、時が止まったように、全員の動きが止まる。すると、紫髪の男がゆっくり立ち上がり、
「いやいや、流石に冗談は良くないですよ、リオネ。いくらなんでも、あの二人がそんな無謀な真似をするわけ――」
「――あら、するじゃない。ヴェルドはともかく、バエルは結構バカな真似すると思うわよ? 『傲慢』だし」
もう一人の女の声が先に響き、紫髪の男も「それもそうですよね」と納得して椅子に座る。
その四人を、リオネはただじっと見つめる。そして、口を開いた。
「ねぇ、あの二人、助けに行く?」
「えー。めんどくさいなぁ。⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎様はなにか言ってるのー?」
「ほんと、あなたは『怠惰』すぎ。――まあ、あの方は『好きにすればいいさ。助けに行くも、行かないも。無事に戻ってくるなら、僕は何も言わないよ。君も、ヴェルドたちもね』って言ってたよ」
めんどくさそうに机に身を倒す女にため息をつきながらも、リオネは先程あの方の言ったことを同僚に伝える。
そしたら、丁寧な言葉遣いをしていた紫髪の男は顎に手を乗せ、
「――それじゃあ、行きましょうか。バエルとヴェルドの回収に」




