第3章2話『炎上』
「――――」
ファルレフィア邸のリビングで、カナタは椅子に座って、ソファーに倒れている三人――ライン、アッシュ、グレイスを見る。
先程、セツナとレンゲによって空高く飛ばされていたが、地面にすぐ戻ってきたため、ラインの力で戻ったのだろう。
だがしかし、今現在その身は血液でぐるぐるに拘束されていて、ソファーに縛られている。
「ったく、私たちが大切にしてる花壇をぶっ壊してさ。まだ許さないからね」
カナタの隣の椅子に座って、テーブルに肘をつきながら、セツナはそう言った。
あー、めっちゃ怒ってるな、と、カナタから見てもすぐ分かる。
(にしても、怖っ)
ライン、『剣聖』、『魔導師』という強い存在を相手に、ここまで容赦なく出来るものなのかとカナタは恐怖を抱く。
ラインは彼女らの兄だからともかく、アッシュとグレイスは王国にとっても重要な存在であり、そんな彼らをぞんざいに扱えるのは、彼女たちくらいしかいないだろう。
っと、それよりも――、
「――で、それよりも……なんでここにいるの?」
カナタはソファーから目を離して、彼の目の前の椅子に座ってお茶を飲んでいる王女様――ミリアに目を向ける。
アッシュの屋敷で匿われているはずだが、なぜここに?
「当たり前じゃろ。ヴァインは王国、アッシュがここに来たら、誰が妾を守るのじゃ? 一人になって襲われないよう、着いてきたのじゃ」
それは確かにその通りだ。ミリアを一人残すのは危険に決まってる。
というより、そもそも、
「なんでアッシュとグレイスはここに来てるんだ? 誰か呼びに行ったの?」
「あのバカが、妾とアッシュが朝食をとっているときに来てな。『何があるか分からないから、三人で戦いの訓練をしよう』などと言って、ここまで連れてこられたってわけじゃ」
右手でティーカップを持ちながら、左手であのバカ――つまりはラインを指さしてそう言った。
「へー。でも、それならアレスとも戦えば良かったのに」
「アレスお兄ちゃんは、ラインお兄ちゃんがそんなこと言い出す前に商店街行ったからねー。それに、あんまり戦いに参加しないだろうし」
どうせなら、ラインと同じくらい強いであろうアレスも混ぜた方が良かったのに、とカナタは思った。が、それに対してレンゲがそう説明してくれた。
なるほど、そもそもアレスは戦いが好きじゃないのか。ちょっと、意外だ。
「――まあ、それも前にお兄ちゃんとアレスが花壇を壊したときに、私たちにボコボコにされたからだろうけど」
「怖っ」
「え? なんて?」
「いや、なんでもないです」
カナタの反応に、セツナはただ「ああ、そう」とだけ返す。
全く、おっかない兄妹だ。絶対に怒らせないようにしないと。
「――ところでカナタ君。『権能』を使えるようになったんだって? お兄ちゃんが言ってたよ」
「ああ、授業中で使えるようになってさ。武器も作れるようになったし、折角ならアッシュに教わりたいと思ったけど……あの状態じゃ無理そうだな」
あいにく、剣での戦い方を教えてくれそうなアッシュは、今反省させられている。あれを解放すると、カナタにもなにか天罰が下りそうで怖すぎる。だから、やめよう。
そう思っていると、ミリアがカップを置いて、
「なら、妾のためになにか武器を作ってみせよ。このようなものをな」
そう言って、ミリアは黄金に輝く扇子を取り出し、カナタに向かって振り下ろす。すると、扇子がいきなり剣に変わり、金色の刀身が、カナタの目の前まで伸びてきた。
「うおっ!? 危ねえだろ!?」
急に剣先が顔に当たりそうなくらいまで伸びて、カナタは座ったまま後ろに倒れそうになる。それを、後ろを歩いていた銀髪の獣人メイド――セレナに支えてもらい、何とか転ばずに済んだ。
「大丈夫ですか?」
「ああ、ごめん、助かった」
カナタが感謝すると、セレナは「いえいえ」と言って、再びキッチンに戻っていく。
それでもミリアは変わらずに、
「早くするのじゃ。作れ」
「分かった、分かったって!」
さらに剣を近づけてくるミリアにそう叫んで、カナタは《創造》を使用する。
「ん……」
イメージ。イメージだ。頭の中で、白い剣をイメージする。そして、身体の中から『権能』を発動させる何かを手まで持ってくると、
「――よし、出来た。ほら」
「ほう、なかなか丈夫なものじゃな。ほれ」
「ちょ!? 《破壊》!!」
出来た剣の持ち手を取って、ミリアは満足そうにしながら、カナタに振りかざした。それを、カナタはもう一つの『権能』を使ってぶっ壊すことで、なんとか身に落ちる前に耐えれた。
「貴様、何壊してるのじゃ。そこは当たるべきじゃろ」
「俺が斬れるじゃねえか! 頭から真っ二つにする気か!?」
「切れ味が分からんからな。試そうと思っただけじゃ」
――王女様もなかなかぶっ飛んでやがる。カナタに作らせた剣で、カナタを切ろうとするとは。カナタに当てれなかったのが不満なのか、腰に手を当てて少し睨んできた。
「そんな目で見られても、無理なものはむ――」
――そう言い切る直前。カナタの視界は、一気に引っ張られる。
それは、ソファーで拘束されていたはずの『魔導師』グレイスに捕まえられ、空高く飛び上がった証拠だった。
意味が分からず、カナタはただ「は、え?」といった情けない声しかあげられない。
視点を動かすと、カナタと同じように、拘束されていた『剣聖』アッシュに抱き抱えられたミリアと目が合った。
ミリアもまた、意味が分かっていなく、困惑しているようだ。
「な、なんで、急――」
――次の瞬間、ファルレフィア邸は燃え上がった。




