第3章1話『キレた妹たち』
第3章開始です!
「――おはようございます。……寝不足ですか? 眠そうですね」
「ああ、うん。昨日夜更かしして本読んでたからさ……」
朝、眠そうな目を擦りながら階段から降りてきたカナタを見て、銀髪の獣人メイド――セレナは朝食を作りながら心配そうにカナタを見る。
それに対し、カナタは平気なように振る舞いながらソファーにぐったりと座った。
「はぁー……」
昨日は深夜三時くらいまで、様々な魔法の本を読み尽くしていた。カナタにそこまで原動力は、ラインたちに迷惑をかけないように自分が強くなることだ。
そのために、まずは魔法を極めようと知識を蓄えたのだが、眠過ぎてそれどころじゃない。
「お疲れですね〜。水どうぞ〜」
「あ、ごめん、ありがとう」
ぐったりしているカナタに水を持ってきてくれた金髪ツインテールのメイド――エルフィーネに感謝を伝え、一気に飲み干す。
少し、眠気が収まった気がする。
「今日が休みで良かったですね〜」
「だよな。今日も学校あったら先生に雷魔法連発されるとこだった」
なんと、今日は週末。学園は休みだ。良かった、そうカナタは思う。もしこのまま学園の授業を受け、眠ったりなどしたら先生にボコボコにされてしまう。とりあえず、今日は安心だ。
「――ねぇ、ラインたちどこ行った? 誰もいなくない?」
「アレス様は商店街に買い物へ、セツナ様とレンゲ様は外で花のお世話をしていますよ。――で、ライン様は……」
――セレナが教えてくれた次の瞬間、爆発したような音とともに地面が揺れた。地震か!? と思い、身を屈めるのだが、振動はすぐに止まる。
「え、な、なんだ?」
「あっちです。あっち」
困惑して身体を起こし、周りを見渡すカナタに、セレナは料理を作りながら指差しで教える。
「一体なんなんだよ……」
そう思いながら、エルフィーネと一緒に玄関の扉を開けて、入ってきた陽光を手で抑えながら外を見渡す。
すると、広い庭では、
「……なーにやってんのあいつら」
「戦いの訓練ですよ〜。激しいですよね〜」
ラインと『剣聖』アッシュ、そして『魔導師』グレイスが戦っているのが目に入った。
◆◇◆◇
「――おら、止まんなよ!」
「お前魔法使いなのになんでそんな接近戦してくるの!?」
「遠距離からちまちま撃ってもおもんねえだろ」
魔力で全身を強化し、一気にラインに接近するグレイス。魔法使いのくせに接近戦を挑んでくるグレイスに驚きながらも、ラインも格闘で応戦。
すると、
「はっ!」
「――っぶな……怖すぎ」
一気に距離を詰め、手に持った長剣を水平に振るアッシュ。即座に作った血液の刃で受けたラインだったが、アッシュの刃は確実にラインの首を切断する勢いだった。
「お前、俺がいくら死なないからって容赦なさすぎない?」
「その方が僕としても訓練になるしね。力を抜くのあまり得意じゃなくてさ!」
「あ、ちょ!」
アッシュの剣撃に対抗しようと、ラインも血液の刃を使う。がしかし、『剣聖』であるアッシュに剣でかなうわけがない。ラインはただ、防戦一方になっている。
「はい、エクスプロード、エクスプロード、エクスプロード」
怒涛の炎魔法。最高火力の大爆発を起こすそれが、空高く舞うグレイスから放たれた。
「うげっ、マジかあいつ」
これを受けるのは少々きついなぁ、と思ったラインは後ろに引いた。しかし、未だアッシュは「エクスプロード」の到達点で立っている。
防御魔法で身を守るつもりか、それとも長剣で?
――答えは、そのどちらでもなかった。
「《空間操作》」
それは、アッシュの『権能』の一つ。異空間の穴を開け、武器を収納出来るもの。それを使うと、アッシュは腕を穴に入れ、引き抜いた。
その手には、普通の剣とはレベルが違うと直感で感じる剣があった。取り出された瞬間、空気を凍てつかせる強力な冷気が流れるのが、三者ともに分かった。
「――――」
それを一振りすると、降り注ぐ炎が一気に凍り、砕け散ったのだ。
「――『神剣』フロストリア」
それは、『剣聖』の家系に代々引き継がれる七本の『神剣』のうちの一つだ。炎、水、氷、雷、風、光、無属性があり、今回はそのうちの氷属性のものを使用した。
「マジかよ。エクスプロード、エクスプロード、エクスプロード、エクスプロード、エクスプロード――」
これでもかと、炎魔法のオンパレードだ。アッシュは避けたり氷漬けにしながら全てかわし、空に舞うグレイスに向かって、飛び上がる。そして剣を振ろうとしたら、グレイスが「終わった……」といった目をしているのが目に映った。
「え、どうした――の?」
剣を止め、ふとグレイスの向いている地面に目を向ける。――その先には、「エクスプロード」の流れ弾を受けた、大量の花壇があった。
「――あ」
アッシュもそう声を出してしまう。なぜなら、花壇に立っている二人の女子――セツナとレンゲが腰に手を当てながら、ゆっくりこっちを向き――、
目が合った。普段の可愛い顔からは思えない、冷たい緋色の瞳がじっと見てきて、アッシュとグレイスは止まってしまう。
「……ねえ、セツナお姉ちゃん」
「うん、分かってる」
二人とも怖い声色だった。その瞬間、空に飛んでいるアッシュとグレイス、そしてついでに、地面に立って空を見あげていたラインが血液で強く縛り付けられた。
「はい」
セツナが小さく呟くと、男子二人はそのまま地面に向かって落ち、ラインも引っ張られて三人でぶつかった。
「レンゲ、行ってきて良いよ」
「はーい」
ゆっくり歩いてくる末妹を見て、ラインは焦ってくる。やばい、やばい。このままじゃやばい。
そう思うのだが、逃げたら逃げたで何されるかわかったもんじゃない。それは、一緒にいる二人も同じようで――、
「ど、どうする、一斉に謝るか!?」
「それしかないよね……」
そう話していると、レンゲは目の前まで来ていた。一気に三人の背筋が凍る。
「れ、レンゲ、あの、ごめ――」
ラインがそういう前に、三人はレンゲによって空高く蹴り飛ばされてしまった。
そしてレンゲは「ふぅ」と言って、口に手を当てて叫ぶ。
「私たちの大切な花壇をめちゃくちゃにして! 許さないからね!」
そう言って、レンゲは「全くもう」と不満そうにしながら花壇に戻っていく。
空では、身動き取れず飛んでいく三人が、「ごめんなさいー」と叫んだ気がした。
――そんな朝の様子を玄関から見ていたカナタとエルフィーネ。
カナタは空を飛んでいく三人と、怒ったままの二人を交互に見て、呟いた。
「――なにこれ」




