第2章28話『『権能』の使い方』
「……マジで言ってる? それ?」
「大マジ」
全ての『権能』を使えるとか言い出したラインに、信じられず驚愕の表情で質問するカナタだが、「大マジ」と返され、もう、驚くことしかできなくなった。
「え、じゃ、じゃあなんかやってみてよ」
「ああ。――《創造》、《破壊》、《虚構の創作》、《早駆》、《飛翔》」
なんと一気に五つの『権能』が発動された。
まず、《創造》でラインの手元に先程と同じ野球ボール程度の球が現れた。
そして、《破壊》でそれは壊された。
次、《虚構の創作》でラインが空に絵を描くように手を動かすと、透明な刃が生まれた。
最後に、《早駆》でありえないスピードで遠くまで走って戻って来て、《飛翔》で空を空中ジャンプするように何度か飛んで、再び地面に降りてきた。
「まあ、大体こんな感じ」
「はー……」
なんかもう、言葉が出ない。「こんな感じ」と言われて「あーそうなんだー」と納得できることをやっていない。
今、ラインは五つ使っていたが、全て使えるということはもうほとんどなんでもありということだろう。いくら何でもやりすぎな性能をしている。
――と、思ったところで、もう一つ恐ろしいことに気がついた。
「……もしかして、アレスたちも使えるの?」
「ああ、使えるぞ」
――やっぱり、四つ子全員が全ての『権能』を使えるとみて間違いない。一人だけならまだしも、四人とも使えるなんてめちゃくちゃだ。
「チート能力って、普通俺みたいなやつが手に入れるんじゃないの?」
と、思ってしまう。まあ、何を言ってもそれは変わらないため、ただため息だけつき、口に出すことはしなかった。
「えーっと、それじゃあ、『権能』の使い方を教えて欲しいんだけど……」
――早速、本題に入ろう。せっかく持っている『権能』の使い方が分からないなんて、宝の持ち腐れだ。今日は何としても使えるようになろうと決め、ラインの瞳をまっすぐ見つめる。
「ま、安心しろ。分かりやすく教えてやるから」
ラインが現在使っている《叡智の伝達》。それは、自分がなにかものを教えたときに、どんなに理解力のない相手にも完全に理解させることができるという優れものの『権能』だ。
分かりやすく噛み砕いて『権能』の使い方を教えようと、
「まずはさっきも言った通り、イメージだ。簡単なものでいいから、具体的にイメージしろ」
「妄想は得意だからな。行ける行ける」
せっかくだし、大きいものを作ろう。そう思って、野球バットのような形のものを正確にイメージする。
「で、ここからなんだが、身体の中に、魔力じゃない別の感覚があるはずだ。その力を、手に集めてみるんだ」
「魔力じゃない感覚? ん……」
カナタは目を閉じて視界を封じ、身体の内の感覚に集中する。魔力が血液のように流れているのは分かるが、別の感覚が掴めない。
「ん……」
身体を駆け巡る感覚に集中していると、中心に紫色のモヤがかかっているのに気づいた。
「ん……? これか……?」
そのモヤに集中し、そこから指先に力を流すイメージを行う。魔力と同じように腕を通り、手首を通って指先に――、
「――あ」
ラインの声が聞こえたときには、もう遅かった。
「――――」
カナタの指先から出てきた、紫色のモヤ。それが世界に姿を現すと、一瞬に――、
眩い閃光とともに、モヤが空間に広がり、世界を飲み込んだ。
◆◇◆◇
「あ、え……?」
「――。何ぼーっとしてんだよ」
「え、だって、今……」
――おかしい。カナタから溢れ出したモヤが世界を包み込んだはず。しかし、気が付けばモヤは消えていて、ラインに教わっている最中に戻っていた。
首を左右に振り回すカナタを見て、ラインが「何してんだ」というような目をしている。カナタはそれに気づくと、
「今、俺の身体から紫色の煙が出てきただろ!?」
「――。何言ってんだ? お前、今目閉じて集中してただけじゃん」
「えぇ……? いやでも……」
夢ではない。と言いたいところだが、ついさっきまで【大罪冠】『嫉妬』のリオネの夢に引き込まれていたため、言えない。
――しかし、ひとまずあれは気のせいだと片付けよう。ラインだけでなく、近くにいるロエンや、遠くの生徒たちも何も反応してないのだから。
「――集中したら、身体の中に白いモヤが見えるはずだ。それを指まで流し込め」
「白いモヤ……?」
先程と同じように身体を駆け巡る感覚に集中していると、紫色のモヤが見える。そして、その奥側に白いモヤが浮かんでいるのを発見した。
「あれか……」
また紫色のモヤを流せば、同じことが起きるかもしれない。間違いを犯さないように注意して白い方のモヤに集中する。
「ん……」
それを、魔力を全身に流すように動かし、肩を、腕を、手首を、と通っていく。
そしてついに――、
「お、おぉ!?」
白い光と共に、一本の木製バットが創造され、地面にことんと落ちた。
「で、出来た?」
「ああ。出来てるぞ。じゃあ、今度はバットに触って」
「あ、うん」
少しくらい褒めてくれても良いのに……と思うが、ラインの言う通りに地面に落ちたバットに手を置く。
「今度は、そのバットを壊すイメージを想像しながら、力を流せ」
せっかく作ったのに自分で壊させるなんて……。と愚痴を考えながら、再び白いモヤを手まで流す。
すると、イメージ通りにバットが粉々に破壊された。
「よし、もう『権能』の使い方は覚えたな。それじゃあ今からお前が戦えるように強化していくか」
「ああ、そうだな。で、どうやって訓練とかするの?」
「この授業中は戦っても良いんだ。だから、実戦だな」
自分の腰に手を当てて、そう言ったライン。実戦と、そう口にした。え? ラインと戦わないといけないのだろうか。手加減してくれるのはわかるが、長続きする気がしない。
「ってわけで、ロエン、任せた」
「はぁ、まあいいですけど。――じゃ、よろしくお願いしますね」
「え? あ、うん。よろしく……」
ラインと戦うことは無くなって一安心……とはいかない。ロエンが強いということは、先日、王都で謎の男に襲われたのを助けてくれたので分かっている。どちらにしても、格上と戦うしか無かった。
「それじゃあ、行きますよ」
「ああ。来い!」
カナタはロエンと互いに見つめ合い、ロエンが襲ってくるのに対抗しようと構えた。
しかし、ロエンはそれに乗ることもなく腕を構えて――、
「《斥力の王》」
――突如発生した斥力で、カナタは遠くに飛ばされた。




