第2章25話『【大罪冠】』
※ちょっと残酷描写あります。
「サフィナ……じゃないみたいだね。君は誰?」
カナタと、サフィナもどきの少女だけだった夢の世界。そこに、赤い光と共にアレスがやってきた。立ち上がるとすぐに、目の前の少女がサフィナではないことに気づき、血液の刃を構えて戦闘準備をする。
「あ、アレス……」
なんでここに? と、カナタは続けて聞こうとしたが、その声はかき消され、代わりに少女の声が響いた。
「……なんでここに来れてるの? 私の世界なのに。誰も入れないようにしてたんだよ? なんで?」
「そういうのは、僕に聞くより『あの方』に聞けばいいんじゃない? 僕らのことを知っているようだし」
「――そうだね。確か、髪が真っ赤の四つ子に気をつけてって言われてたなぁ。あなたたち、特別なんだって? 凄い強いんでしょ? ずるいなあ、良いなあ」
アレスが強いということが妬ましいのか、嫉妬するように言葉を並べる。だが、アレスはそれに動じず、彼女の外見について質問する。
「君はなんでサフィナと同じ姿をしているの?」
「――――」
「答えられない?」
「そう言われても、私は生まれてからずっとこの姿だし。あの方は、旧知の仲の奴らに合わせたって言ってたと思うけどね」
旧知の仲。その言葉を聞いて、アレスには少し緊張が走る。その理由をカナタはわからないが、彼の反応から、何か思い当たることでもあったのかと感じた。
「――つまり、『あの方』っていうのは、サフィナのことをよく知っている人ってことかな?」
「あなたも質問ばかりする人? 私そういうの嫌いなの。……いいや。まあそうじゃない? 私はあの方の過去とか詳しく教えてもらったことないし、そのサフィナって子とどんな関係か知らないけど」
質問ばかりされて嫌なのか、不機嫌そうにそう答える。するとアレスは「分かった」と静かに答え、
――戦闘を開始した。
「っと、急だね。いきなり女の子にそんなことするなんて、モテないよ?」
「あいにく、僕は恋愛面に興味無い種族だからね。あまり傷つかないかな」
「あ、ちょ、強……」
少なくとも、力ではアレスの方が強いようだ。血液の刃と拳を交えた様々な攻撃に少女は完璧には対抗できず、何発かは食らってしまっている。
「い、今のうちに俺も!」
いつの間にか治っていた下半身を見つめ、カナタは走りながら手を構え、
「ライトニングスパーク!」
「――ッ」
詠唱された雷魔法が、ピンポイントで少女に直撃する。顔をしかめた。どうやら効いているようだ。このままアレスの邪魔をしないように、少女の邪魔をする。そのために走りながら手を構え、魔法を――、
「――大事なこと、忘れてない?」
「あ、ぅ……!?」
「――手が……」
突然、カナタの下半身とアレスの腕が吹き飛ばされ、二人とも地面に崩れ落ちてしまう。
アレスは痛みに慣れているのか平気にしているが、さっきから尋常じゃない痛みを食らっているカナタはそうはいかない。しかも、下半身ばかり狙われて発狂寸前。
必死に声を抑え、少女を睨みつける。
「ここは私が創った夢の世界。私の思い通りって言ったよね? 現実でどれだけ私より強くても、この夢想にいる限り、私には勝てないよ」
そう。ここは、彼女の創った世界。その全ては彼女の思い通りであり、アレスがいくら強くても、ここで彼女に勝つことは出来ないのだ。
「あなたは拘束しておくね。私しか外せない拘束だから、抵抗しても無駄だよ」
アレスは謎の鎖で全身を拘束され、身動きが取れなくなってしまう。外すのは無駄だと悟ったのか、諦めたように、あるいは、何かを信じているかのようにため息をつく。
「じゃあ、もう一度聞くね。私と一緒に来てよ」
「い、嫌だ……」
「まだそれ言う? もう諦めなよ」
「せ、せめて、俺を連れ帰って何したいのかくらい言えよ……!」
どうしてもカナタを連れ帰ると言うなら、その理由だけは聞かせてもらわないと納得できない。そう思って聞くと、
「さっき言ったでしょ? あなたは世界を滅ぼせる力があるって。だから、一緒に世界を滅ぼして、あの方の望む世界を創ろうよって」
「は、はぁ……?」
世界を滅ぼして、新しい世界に作り変える。それが、彼らの目的というわけだ。そんなおぞましい計画を教えられたら、尚更行く訳にはいかない。
「い、行く訳ねえだろ……!」
「はぁ、あなためんどくさいな。ならもう無理やり――」
頭をかきながらゆっくりカナタに近づく少女。しかし、その動きは止まり、なにかに気づいたようにすぐに後ろを振り向いた。
「……なんで拘束外れてるの?」
「それは教えたくないね」
「自分は質問ばかりするくせに……。はぁ」
拘束が外れ、起き上がっているアレスを見て、少女はため息をつく。そして、
「――まあいいや。今日は見逃してあげる」
――どういう訳か、カナタを連れ帰るのを今回は諦めたようだ。おそらく、アレスがいるこの状況で、そんな簡単にカナタを連れ帰ることはできないと判断したためだろう。
「あ、そうだ。あの方から、あなたに言っておいてって言われた言葉があるんだった」
何やら物騒なことを言いながら、少女は足を曲げてカナタの耳元に口を近づける。
そして――、
「【⬛︎⬛︎⬛︎】『⬛︎⬛︎⬛︎』⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎・⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
「は、ぁ? ――ッ!? あ、ぁ、うぅぅ……!」
それがなんだったのかわからない。カナタからすれば、絶対に聞いた事のないものだった。しかし、何故か感じた懐かしい感じ。
それと同じものを感じたのは、ロエン、サフィナ、ミレーナの名前を教えてもらったときである。
懐かしい、何やら安心できる雰囲気を感じる中で、頭の中で大量の情報が動き、脳がぐるぐる回る。
「あ、ぁ……」
話も満足に出来ない中で、少女はゆっくり立ち上がると、カナタとアレスを交互に見て、言った。
「――私は【大罪冠】『嫉妬』のリオネ。名前だけでも覚えて、気絶してね?」
「たい、ざいかん……?」
――初めて聞く組織名と、彼女の名前が聞こえ、カナタの意識は途切れた。




