第2章24話『――許さない』
※残酷描写ありです。お気をつけて
「現実でも、あなたの友達たちをこんな風にするしかないじゃん?」
辺りに横たわる遺体を指差し、少女は冷たく言い放つ。
そして同時に、緊張がカナタに走った。まるで、死んでいる人間に全く興味ないかのような冷たい表情。その視線が、カナタの身体を値踏みするように刺していく。
――が、そんな状況でもカナタは声を震わせず、言う。
「『現実でも』ってことは、ここは現実じゃねえってことか?」
「――うん、そうだよ。ここは現実じゃない。私の力で創った夢想だよ」
「そ、うなのか……。良かった……」
友人やクラスメイトの死体が転がっている今が現実の世界じゃなくて安心し、そっと胸を撫で下ろす。――少々、落ち着きを取り戻した。しかし、なぜカナタは彼女の夢に引き込まれているのか。
「俺は、昼ご飯を食ってるときに意識を失った。そして目覚めたらこの世界だった。どうなってる?」
「質問ばっかり? まあいいや。あなたが気絶してから、あなたの友達が保健室まで運んでくれていたんだよ。そして、その子たちがいなくなってから私が接触した」
「俺に?」
「そうそう。私はね、対象を夢に引き込めるの。そして、この夢想の世界は私の思い通りってわけ」
この世界は、目の前の少女によって創られた夢の世界、というわけだ。――ということは、周りに転がっている死体たちも、彼女によって――。
「はい、私の話はおしまい。私たちはあなたが必要なの。一緒に来て?」
これまでの無表情から打って変わって、笑顔で右手を差し出す少女。
実際、クラスメイトであるサフィナ・カレイドと同じ姿をしていて、美少女のため、こんな風に可愛くお願いされたらついて行きたくなってしまうが、そうする訳には行かない。
なにせ、彼女はカナタをいつも襲ってくる男の部下なのだから。
「……さっきも言ったろ。嫌だって」
「じゃあ、現実でこんな風になっても良いのかな? あなたが一緒に来ないと、無駄に人が死んじゃうよ? 良いのかな?」
「う……。み、みんなは関係ないだろ」
「そう? じゃあ、無理やりやるしかないか」
――一気に少女が無表情に戻る。何か、来る。そう感じたカナタは、後ろに隠した手のひらに魔力を貯め、いつでも炎魔法を放てる準備をしておく。
「――――」
だが、少女は動きそうもない。ならば、こちらから動く。
「インフェルノ――」
炎魔法を詠唱し、炎の火柱が上がって少女を襲い――、
「……は」
――それより先に、ヨナギ・カナタの身体は真っ二つに切断され、腰から上が地面に落ちる。
「あ、あ、ああぁぁぁ!?」
遅れてやってきた尋常ではない痛みが、全身を襲う。死ぬ。死ぬ。治癒魔法でと思うが、カナタに下半身を治せるほどの魔力はない。さらに、下半身とは離れてしまい、密着して治すことも出来ない。
「あーうるさいな。ほら」
「はぁ……?」
しかし次の瞬間、全身が治った。痛みもすぐに消え、カナタは目をぱちくりさせながら身体を見渡す。
「お、お前がやったのか……?」
「治してあげたのにその言い方? ま、ここは全部私の思い通りに出来るからね。あなたが拒否する気なら、拒否できないように精神をぐちゃぐちゃに壊してあげる」
「や、やめ……。――あぁぁぁ!?」
またもや、身体が吹っ飛び、腰から下が切断される。しかも、さっきより痛みも上がっている。この夢の世界では、少女が、痛みを感じる強さも変更できるということだろう。
「やめ、やめろ……!」
痛みにもがきながら、カナタは上を向いて少女を睨みつける。――が、それが癪に障ったのか、
「何その顔」
「あ、ぁ……ッ!」
全身をナイフで滅多刺しにされたような痛みが響く。ぐちゃぐちゃな涙が目からこぼれながら、叫び声をあげる。
それを、少女は嫌った。
「何泣いてんの? 私たちに着いてこないのが悪いじゃん。もう精神壊すね」
「あぁぁぁぁぁ!!」
これでもかという痛みを与え続け、少女はカナタの精神を壊す方向に進めることにした。泣きわめくカナタを見下しながらゆっくり歩いて近づき、
「ねぇ、知ってた? あなたって世界を滅ぼせる力があるらしいよ?」
「あがっ……せ、かいを、滅ぼせる……?」
「そう。なんでだと思う? ねえなんでかな? ねえ。ねえなんでかな? 答えてみてよ」
――怖い。狂気だ。情緒不安定になり、怖い顔をしながら淡々とそう呟く。突然の変化にカナタが驚いていても、少女は止まらない。
「なんでかな、なんでだろ。なんであなたはあの方に必要とされてるの? ねぇ。なんで?」
「し、知らな……」
「あの方に必要とされて良いなあ、ずるいなあ。あなたばかり。どうしてどうしてどうしてどうしてどうして」
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さ――。
「――そこまでにしてもらっていいかな。これ以上は看過できない」
瞬間、世界を照らす赤い光とともに、アレス・ファルレフィアが夢の世界に現れた。




