第2章21話『昼食の時間』
「――よし、三限終わりだ。食堂で昼食を取ったあと、魔法実習場に来い。遅れたら雷落とすからな」
三限が終わった合図のチャイムが鳴ると同時に、カイラス先生はそう言って教室から出ていく。これで、座学の授業は終わり。ご飯を食べて、残り三時間は外で魔法の訓練だ。
「食堂、早く行かないとな」
カナタは小さく呟いた。初めての学園生活の日、つまりは一昨日のこと。昼食の時間に食堂まで行くと、もうほとんどの席は埋まっていて、座れなかった。今日は、そんなことが起きないようにすぐ行きたい。
もう、多くのクラスメイトたちは食堂に走っていってしまった。
カナタもすぐに行かなければ。
「ライン、行こうぜ」
「ん? ああ良いよ」
少し遠くの席にいるラインに近づいて誘うと、ラインは椅子を引いて立ち上がる。そして二人で廊下を歩き、階段を下ってまた廊下を歩く。
そして扉を横に開くと、食堂に着いた。
「うげっ、もうめっちゃ多いな。早く買って席取らねえと!」
「あ、おい、急ぐなって……」
早く昼食を買って席を取ろうと急ぐカナタに、ラインはゆっくりついていく。
「ん……どれ食おうかな? オススメある?」
「オススメはそれだな。メニューの中で一番美味いって好評だぞ」
ラインが指差すのは、豚肉を炎魔法で焼き上げたパリパリの皮とジューシーな肉で定番の「豚の炎焼き」とかいうメニューだ。正直ネーミングセンスは微妙だが、味は学園のメニューの中で一番美味いと言われるほどである。
「豚の炎焼きを……」
「二つください」
「あれ、ラインも食べるの?」
「そりゃそうだろ」
どうやら、ラインも食べるとのこと。注文を聞いた食堂の係の人から番号を書かれた紙を渡され、少し離れたところに立つ。
「110番、111番来てくださーい!」
「!? めっちゃ早くね!?」
なんと、三十秒ほどで呼ばれ、手元の紙と受け取り口を二度見してしまう。受け取り口まで行くと、確かにそこには「豚の炎焼き」が二つ置かれていた。
「これか」
自分の分をそれぞれ取って、二人が席を探していると、カナタとラインの名前を呼ぶ声が聞こえた。
「あれ、どこだ……?」
辺りを見渡し、声がしている席を探す。
――見つけた。真っ直ぐ見つめた先に、ロエンがいた。
「よし、行くか」
ラインとともに歩き、ロエンの座っている六人掛け程度のテーブルに昼食を置いて、椅子に座った。
そして腕をテーブルに乗せて前かがみになり、カナタは呟く。
「ロエン早いな。こういうのゆっくり来るタイプだと思ってた」
「そうですか? 早く席取らないと後々面倒くさいですからね。それに、一緒に食べる人たちがマイペースすぎて、私しか席を取ろうとしないんですよ」
ため息をつき、ロエンはそう言った。一緒に食べる人というのは、多分、昨日も彼と一緒にいたサフィナ・カレイドのことだろう。彼女の話し方といい、たしかにマイペースな気がする。
――そんなことを思っていると、女子の声が耳に入った。
「ちょっとー。アタシがマイペースみたいじゃんー。アタシ全然そんなことないしー」
「……それ正気で言ってますか? あなためちゃくちゃマイペースですよ?」
昼食を手に持って来たサフィナが頬を膨らませながら否定するが、ロエンは「何言ってんですか?」といった表情で彼女を見つめている。
その態度が気に食わないのか、サフィナは「もーう」と言いながらロエンの隣に座った。
(……いや、この人はマイペースだろ)
カナタもロエンと同意見だ。口には出さなかったが、心の中で呟いた。
――そしてご飯を食べようとすると、また別の女子の声が聞こえてきた。
「えーサフィナはそんな感じだからいいんじゃーん。ロエンは分かってないなー」
今度は知らない人だ。水色の長い髪を持った美人な人だ。
「言っときますけど、あなたもマイペースですからね? サフィナよりも酷いですよ」
「あーしが? いやいやーそんなことないっしょ? サフィナの方がマイペースだよー」
「いやーミレーナの方がマイペースだってー」
どっちがマイペースかを張り合っている二人。そんな女子二人を、男子三人は呆れた目で見ている。
「お前らどっちも変わんねえだろ……」
「そうですね」
ボソッとラインとロエンが呟くと、二人ともラインをバッと向き、納得いかないように頬を膨らませながら椅子に座った。
そんな中で――、
(ところで、この人は誰だ? サフィナがミレーナって呼んでたっけ?)
彼ら四人は仲良さそうだが、カナタは「ミレーナ」と呼ばれた少女を知らない。クラスメイトではなかったと記憶しているため、ほかのクラスの生徒なのだろう。
「あ、あの、君の名前は?」
もう、直接聞くことにした。今の会話を聞いていた感じ、話しやすい人だと思ったから。
そして、その判断は間違いではなかった。
「え? あーし? あーしはミレーナ・ネフェリアだよー。君のこと見たことないなー。あ、もしかしてロエンたちのクラスに来た転校生?」
「あ、そうだよ。一昨日から来た転校生」
「なーるほど。でー、名前はー?」
「夜凪叶向」
カナタから名前を聞いたミレーナは、「そっかー。よろしくねー」と陽気に言って、会話は終わった。
「早く食べましょうか」
そういったロエンに、全員が同意し、食事を口に運ぶ。
「辛っ!? 痛ぇ!」
「そんな辛いか? 大袈裟だろ」
一口食べた豚の炎焼きが、舌を焼くような痛みとともにとてつもない辛さが襲ってきた。カレーの激辛を食べているような感じだ。
しかし、それが効いていないのか、ラインは平然とした顔でパクパクと口に運ぶ。流石のこれにはカナタだけでなく、ほかの三名も「えぇ……」と引き気味で見ていた。
(よくあんな平気で食えるな……。辛っ!? 美味いけど、辛すぎだろ……。何入れたらこうなるんだ!?)
そう愚痴を心に零しつつも、カナタは一口一口食べ進める。味は本当に美味しく、かなり満足できる。辛さが強すぎるのだけがキツい。
(……ロエン、サフィナ、ミレーナ。……なんか、不思議な感じだ)
言葉で言い表せないのだが、何故か彼らの名前は懐かしい感じがしてしまう。今まで会ったことなどないというのに。「変な感覚だな」と思って食べ進めていると、その瞬間は訪れた。
「――ッ!? 痛ぇ……」
昨日と同じく、気絶するまではない程度の頭痛だ。そして、知らない記憶が流れてくる。
「あ、う……」
――そして、ヨナギ・カナタの意識はプツリと切れた。




