第2章18話『神話と記憶』
「タイトルは……かなり普通だな」
「神話」と、普通に表紙に書かれている本を見てそう呟き、カナタはページを開いた。
◆◇◆◇
むかしむかしあるところに、『創世神』という神様がいた。
神様は星を創って生命の繁栄をもたらし、生まれたものに『権能』という祝福を与えた。
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――千年前。『創世神』が、双子の弟の『破壊神』と、『魔王』と世界の命運を揺るがす戦いを行った。
世界も、村も、国も、人も、あらゆる生命体は終わりを告げた。
――『破壊神』と『魔王』は封印され、世界に平和が戻った。
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――三百年前。四人の吸血鬼が数多くの村を滅ぼし、国をも乗っ取ろうとしていた。
――しかし、初代『剣聖』、初代『魔導師』、貴族の家系の吸血鬼によって阻止され、滅ぼされた。
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――歴史から抹消された一日。
封印が解けた『破壊神』と『魔王』から世界を守るため、『創世神』とその仲間たちは戦った。
攻防の末、『破壊神』と『魔王』は――。
そして、世界に平和が戻った。
◆◇◆◇
「これで終わり、か」
読み終わって、カナタは小さな声で呟く。四つの短い物語があり、詳しくは書かれていなかったが、簡単な物語だった。
「読んで、なにか私に聞きたいことはあったかな?」
「そうですね……。一番気になったのは、最後の……」
「歴史から抹消された一日、ってやつかな?」
四つの作品を読んで、カナタは色々と知りたいことができた。
千年前に封印された『破壊神』と『魔王』とかいうものの封印が解けた理由だったり、初代の『剣聖』などのことも聞きたい。
しかし、それよりもっと興味をそそられたのは最後の物語だった。
読んでいて思ったが、以前グレイスの屋敷の図書室に入ったとき、なぜか日本語で書かれていた本を読んだのだが、その時の物語と同じ話のようだった。
そして確か、前回は『創世神』と『破壊神』のどちらが勝ったかを知る前に頭痛のせいで気絶したはず。そのため、その物語の結末を知りたかった。
「その物語ってどっちが勝ったんですか?」
「『創世神』たちだよ。『破壊神』と『魔王』は倒されて消滅した」
「そうなんですね。てか、他の話には何年前って書いてるのに、これだけ書かれてないのはなんでなんですか?」
「そのままの意味だからね。その日の出来事は、世界の歴史から抹消された。詳細を知っているのは、神々と数人の人間だけさ」
歴史から消えた一日。それを覚えているのは神々と数人の人間だけ。いつ起きた出来事なのかは分からないが、その内の誰かが物語に記したのだろうか。
「あと、『創世神』と『破壊神』って双子なんですよね? 仲悪かったんですか?」
「さあ、どうだろうね。私は彼らが仲違いした後に神になったし、それ以前がどうなのかは聞かないと分からないね」
「そうですか……。――ッ!?」
――このタイミングで、来た。頭を電撃が走るような痛みが襲い、カナタは手で頭を抑える。
幸い、今日は痛みが小さいようだ。気絶するまでの痛みはなく、意識は余裕で保っていられる。
――だが、痛いものは痛い。収まるのを待っていると、脳内に知らない記憶とともに声が流れてきた。
「ア゛ッ……! ッ!」
知らない。知らない場所だ。真っ暗な空間をランタンのような光が照らし、少しだけ視界が晴れてくる。
『……ツ。……ツ。お前にはやってもらうことがある』
『ええ、もちろん良いですよ』
と言った二人の声が聞こえる。敬語で話す男は、その上司か何かのもう一人に頭を下げる。その景色を見る中で、カナタは二つ驚く点を見つけた。
一つは、上司かと思われる男の声が、先日、カナタが初めて《腐蝕の呪い》を持つ男に襲われ、全身が腐ったときに脳内に響いた声と同じだったことだ。
――そしてもう一つ。それは、敬語の男が、今日、本来の姿を見せてきた《腐蝕の呪い》の使い手と全く同じだったこと。
「――な、んであいつの顔が……」
段々と痛みが引いていき、知らない記憶は新たなものとしてカナタの脳内に蓄えられる。驚く中で落ち着きを取り戻していくと、アステナが話し出す。
「なるほど。それがアレス君が言っていたものだね。頭痛がするときに変な記憶を見るというのは」
「ああ……聞いてたんですね……」
「うん。それで、今はどんな記憶を見たのか教えてもらっても大丈夫かな?」
「あ、はい……。俺が見たのは――」
――カナタは、今見た知らない記憶を細かくアステナに伝えた。何か特別に驚くということもなく、聞き終わるとただ「そっか」と呟いた。
「となると、君が記憶を思い出してくれれば敵の正体が分かるというわけだね」
「まあ、そうなる……んですかね?」
「それじゃあ早速……」
「ちょ、ちょ!? 何する気ですか!?」
美人なのに、少し不気味な笑みを浮かべてカナタの頭に手を当てようとする。何されるか分かったもんじゃないカナタは席を引いて少し下がると、
「頭痛を起こして記憶を思い出してもらおうと思って」
「それ、マジで言ってます……?」
危険だという判断は間違ってなかった。一日一回の頭痛をまた体験するなんて嫌に決まってる。嫌悪感満載の顔でアステナを見つめると、
「アハハ、ごめんごめん。嘘だよ。流石にそんな酷いこと出来るわけないよ。――だから、何か別の方法で敵を釣らないとね」
「マジなのかそうじゃないのか分からねえ……」
カナタがそう愚痴をこぼすと、ドアが開いた。突然だったためビクッとなるも、カナタとアステナは同時にドアを見る。
そこには、風呂上がりなのか、着替えているラインがいた。
「あれ、ライン。どうしたの?」
「アステナを探しに来たんだよ」
カナタの問いにラインはそう答え、
「俺は今日疲れたから早く寝るんだけど、アステナはどうする?」
「まだ晩御飯も食べてないけど良いの?」
「ああ。セツナとレンゲが作ってるけど、セレナとエルフィーネが帰ってきてからあいつらが食べれば良いかと思って」
まだ、メイド二人は帰ってきていないらしい。そのため、晩御飯をセツナとレンゲが作っているようだが、ラインは疲れているため食べないようだ。
そんなことをわざわざ伝えに来たのか。その理由は、
「それじゃあ私も食べずに寝ようかな。部屋に行こうか」
「ああ」
――そう言って、二人は図書室から出ていった。
一人残ったカナタが思ったこと。それは――、
「……え、い、一緒に寝てるのか……? あの二人……」
と、今日は何度も驚かされる一日だった。




