第2章15話『記憶の中にいた姿』
――時刻は既に夕方。陽は西にゆっくり沈み、空は綺麗な夕焼けが占めている。
まだ外では祭りをやっていて、人々は楽しんでいる最中である。そんな中で、カナタたちがいるのは王女様であるミリアの部屋。
そしてそこにはアッシュと、彼の祖父――ヴァイン・レイ・フェルザリアも居座っている。
どうしてこんなことになったのか。それは簡単。ラインの提案だ。あの男に、ミリアも狙われている。そんな彼女が城に留まり、多くの騎士が守っていてもあの男なら関係なくミリアを攫えるはずだ。
そのため、ミリアを『剣聖』の家にしばらく泊まらせて、安全を確保しようというのがラインの提案。
本来ならばファルレフィア邸に身を寄せて貰いたかったが、あいにくミリアの泊まる部屋がないため、彼女の好きなアッシュのいる場所なら良いだろうと考えた。
そして今、ミリアは父親の国王陛下に了承をもらいに行っている最中。まだ帰ってこない。
「大丈夫かなミリアさん。俺、王様と会ったことないから分からないけど、めちゃくちゃ厳しい人だったりするの?」
「それはないよ。国王陛下はミリアにとても優しくて、甘いからね。まあ、ミリアがうちに泊まるのを認めるかは分からないんだけど」
カナタの疑問に、アッシュは答えてくれた。どうやら、厳しい人じゃなさそうで少し安心だ。
「それにしても、ミリアと二人きりになってよく生きてたね。戦ったの?」
「いや、俺は全然。ほとんどミリアさんが戦ってくれたよ。あの人が強くてびっくりしたよ。王女様なのに戦えるんだ!? って」
「ミリアは素の身体能力が高いからね。それに、『権能』も戦闘に向いているから。王女様なのに、戦闘系の『権能』を与えられたの面白いよね」
「……なぜ俺を見る?」
何やら不思議な笑みを浮かべて見つめてくるアッシュに、ラインは腕を組んでそう答えた。何やら意味深そうにお互いを数秒見つめあっていると、アッシュが「いや別に」と言って視線が戻る。
以前アッシュが教えてくれたが、『権能』とはこの世界を創り出した『創世神』という神様が生まれた者に二つ与える特殊能力だ。
今になってもなお、どうして異世界転移したカナタがそれを持ってるのか彼自身分からない力なのだが、アッシュの言う通り、王女様として生まれたミリアが《武神》という戦闘に特化した『権能』を与えられているのはたしかに面白い。
それを『創世神』が狙ってやったというのなら、かなりいいセンスをしていると思う。それならいつか、話してみたいなーなどとカナタは思っていた。
しばらくしていると、ドアが開けられる音がした。一斉にその方向を向くと同時に、開いた扇子を口に当てながら、堂々と部屋に入ってくるミリア。
どうだったのか。国王から許しは貰えたのか。部屋がシーンと静まり返っている中、ミリアは口を開いた。
「良いそうじゃ。妾はアッシュらの屋敷に泊まることとしよう」
どうやら、許しを貰えたようだ。みんなが胸を撫で下ろす中、ヴァインがミリアに近づく。
「ミリア様は当家で厳重にお守りいたします」
「うむ。期待しておるぞ。妾のボディーガードとなった連中は、変な場所に飛ばされるわ、妾より脆弱と、恵まれなかったからな」
「弱くて悪かったな!?」
「あれは仕方ねえだろ!」
冷たい目つきでディスってきたミリアに、カナタとラインは全く同時にそう言った。すると、ミリアはフッと笑い、
「まあ、感謝してやらんこともない。貴様が闇魔法で時間を稼がなければ、妾は捕まっていたかもしれぬ。そしてライン、貴様は扇子を作ってくれたしな」
やはり、この王女様はただボコボコ言うだけじゃなく、良かったところも見つけてくれる。そりゃあ国民からも信頼されているのだろう。
――いや、初めからボコボコ言わなければ良いのでは? といった疑問が脳内に浮かぶが、すぐに捨てる。
「さて、妾はこれから準備をするのじゃ。貴様らは部屋から去れ」
「ああ。それじゃあ、俺たちはもう帰るから。アッシュとヴァインさん、ミリアのことお願いしますね」
「うん。任せて」
「ええ、もちろん。丁寧にお守りしますよ」
そう言って出ていくラインに、兄妹とカナタはついていく。一件落着、という訳にはいかないが、とりあえずはなんとかなりそうだ。
また明日から学園生活が始まるというのに、カナタは凄疲れてしまった。
「はぁ、疲れた。まだ夕方なのにめっちゃ眠い……」
「俺らは吸血鬼だから夜は全く眠くならないんだよな。ま、すぐ帰るか。掴まれ」
「え? あ、うん」
ファルレフィア邸からこの城まで来るとき、カナタはラインにおんぶされて来ていた。空をものすごい速さで駆けてここまで来たのだが、今度は違う帰り方をするのだろうか。
首を傾げながらも、ラインに近づく。
すると、
「……え? は? なにこれ」
一瞬だった。瞬きしたら、既にファルレフィア邸の玄関にいたのだ。しっかり、カナタ以外の四つ子もいる。
そういえば、さっきもカナタたちを狙ってきた男の後ろにセツナが突然ワープしていたこともあった。
四つ子には、遠く離れた場所にもワープできる『権能』でもあるのだろうか。
「お、お前らこんなこともできるの?」
「まあな。あいつのせいで無駄に力使わされたし、どうせなら良いかと思って」
そう言って真っ白な髪をかくライン。その姿を見て、カナタは質問することを決めた。
本来なら、カナタとミリアが襲われているところを助けに来てくれたあの時に聞きたかった。しかし、タイミングが合わなかった上に、誰も反応しなかったため聞けなかった。
「――――」
「ん? どした?」
何やらじっとラインを見つめるカナタと目を合わせ、ラインは首を傾げる。
カナタはふぅ。と呼吸を整え、瞬きをする。よし、決めた。聞こうと。
「――どうして、俺の記憶にいた姿と全く同じ姿をしてるんだ……?」




