第2章14話『残りの⬛︎⬛︎』
突如現れた謎の生命体に男は殺害され、その場から消滅。意図が分からず、その場にいた五人は固まってしまう。
世界を支配したいなどと言っていた男が、自ら死を選ぶだろうか。――いや、もしかしたら生きているのかも……。しかし、あの生命体は確実に男の心臓を刺し、その生命を終わらせた。
その上にこの場から肉体も消失し、もはや助かる手立てなどない。
あるいは、なにか生き返る手段が――。
「一体、何なの……?」
「セツナ!」
男が消えた地を眺め続けるセツナの耳に、ラインの声が入ってきた。どうやら、彼の目的は果たせたようだ。
「あいつどうなったんだ?」
「変な生き物が現れて、刺されて亡くなったよ」
「……え? は?」
これにはラインもそうとしか答えようがない。男が殺されるなんて予想は全くしていなかった。
「何をしたんだ……? ――あ、てか、二人とも大丈夫か? 怪我は……してるな」
なんで男は殺されたのか。そんな分からないことを考えても答えは出ない。ラインはセツナが抱えたままのカナタとミリアに顔を向け、質問する。
ミリアはドレスが汚れている程度だが、カナタは皮膚が切れていたり、殴り合いでもしたかのような傷を受けている。
「大丈夫か、カナタ?」
「ああ、なんとか。助かったよ」
「めっちゃ怪我してるな……。戦ったのか?」
ラインがそう聞くと、カナタは少々気まずそうに頭をかく。そうしていると、ミリアが腕を組みながら不機嫌に話し始めた。
「戦ったのは妾じゃ。こやつは何もしておらん。その癖に、妾より傷が多い。呆れるな」
「うぐ……。あ、でも、俺が闇魔法で助けたじゃん!」
「チッ。――まあ、感謝くらいはしてやろう」
ラインは彼らがどんな戦いを繰り広げていたかは知らないが、異世界に来たばかりのカナタも頑張ったんだなーと思っていると、ミリアが「そも」と呟いてラインを睨んだ。
「貴様らは妾のボディーガードのはずなのに、何をしているのじゃ? 妾とこやつだけ残して行くとは。もしも妾が攫われていれば、貴様は処刑じゃぞ?」
「いや、それは悪かったって。お互い変な場所に飛ばされるとは思わなくてさ。――あれ、お前、いつも持ってる扇子どこ行った?」
これ以上責められないように、ラインは話題を変えた。が、それでもミリアは止まらずにラインの額に指を当てる。
「あの愚物に壊されたのじゃ! あれは妾のお気に入りだったのじゃぞ? 貴様らがいれば壊されなかったかもしれぬ。弁償せい」
「悪かったって。――仕方ねえな」
額を突き立てるミリアの手を掴んで下ろさせ、ラインが右手を皿を持つように構える。
すると、真っ白な光がピカピカと光りながら、何かが形成されてゆく。
そして光が消えると、ラインの手のひらにはミリアの持っていた扇子と瓜二つのものが入っていた。
「作ったから大事に使えよ?」
「フン、貴様に言われるまでもないわ」
ラインの手から扇子をパッと取り、開く。その出来に満足しているのか、嬉しそうな表情をしているように見えた。
みんなが平然としている中、カナタは驚いてラインと扇子を交互に見る。そして、尋ねた。
「え、何今の? ラインって扇子とか作れるの?」
「まあ。あ、お前《創造》の『権能』持ってるだろ? お前も練習すれば出来るぞ」
なんでラインが作れるかは教えてくれなかったが、カナタの持つ《創造》でも作れるようになるらしい。それには一体、どれ程の努力がいるのやら。
「えーまじか! 武器とか作れたらめっちゃかっこいいよなー」
「別にかっこよくはないじゃろ」
既に魔法はいくつか覚えているカナタだが、それだと接近戦は出来ない。そのため、武器を使えたらなーとは思っていたのだが、まさか自分が作れる可能性があることを知ってワクワクが止まらない。
しかし、目を輝かせているカナタにミリアは冷たくそう言い放った。
「ロエン、サフィナ。お前らもありがとう。助かった」
「いいえ。私は何もしてませんよ。ほとんどサフィナが戦ってくれましたし」
「えへへー。アタシのおかげだねー。じゃ、アタシたちはもう行くねー。まだまだ祭り楽しむからー」
もしも二人がいなかったら、ラインたちはカナタたちを救えず、連れ去られていたはずだ。感謝しきれないくらい助かった。
ロエンとサフィナは手を振りながら、再び祭りのやっているところに向かって歩き始めた。
そんな二人の背中を見送りつつ、ラインは言う。
「ミリア、一旦お前の部屋に戻るぞ」
「なぜじゃ? 愚物は消えた。もう祭りに戻っても良かろう?」
「一応、な。それに、お前を今後どうするかも話し合わないといけない」
なぜ男がいなくなったのに、祭りに行ってはいけないのか。不満そうな顔をするミリアに、ラインはそう言った。
「妾を今後どうするか、じゃと?」
「ああ。お前を危険から守るためにな」
◆◇◆◇
――暗い空間だ。先程までいた、陽光に当たる地上とは違う。ここには陽光すら当たらず、真っ暗闇だ。
そんな空間に、男は現れた。
「……はぁ」
「おっと。どうしたんですか? 失敗ですか?」
一人で戻ってきた男を見て、カナタとミリアを連れてくる計画は失敗と分かったのだろう。男に向かって敬語で話す少年が、そう言った。
「ああ、失敗だったよ。さすがにきつかったなー」
「それじゃ、次は僕らの誰かがやりましょうかね?」
「ハハッ、そうだね。しっかり準備をしてと。――」
愉快に今度は自分たちがやろうかなどと言っている少年に男は笑いながら返す。
そして、
「――残り9999か」
と、面倒そうに呟いた。




