第2章13話『意図の不明な殺害』
「お前が情報を吐く時を待ってたんだよ」
腰に手を当てながら、ラインは地面に倒れる男に向かってそう言った。
まさか、騎士団のパレードを見ている時にこんな事になるのは予想外だった。しかし、四つ子を変な場所に飛ばしたのが、先日の《腐蝕の呪い》を使用する男と分かった途端、四人はすぐに思考を繋げた。
男から、情報を得るために。
「情報……? 一体何の……? ――ま、さか……」
困惑した表情をしていた男の顔が、一気に変わる。この状況で、四人が得るための情報といえば、決まっている。
それは――、
「僕の……目的?」
「ああ、そうだよ。前聞いた時お前教えてくれなかったしな。なんでカナタとミリアを狙うのかを探るために、俺はやられたフリをした」
「追い詰められた兄さんになら、良い気になって教えてくれるかなと思って。もし出来なかったらすぐに拘束しようと思ってたんだけど、上手くいったようで良かったよ」
男がどうしてカナタとミリアを狙っているのか。そして目的を探るために、ラインは《虚構の名優》という『権能』で嘘つき顔負けの演技を披露し、男の口から聞き出すことが出来たというわけだ。
――男はまんまと騙されたのだ。
「は、ハッ、僕は調子に乗りすぎたってわけか……。あの程度で君を倒せるはずないとどこかでは分かっていたはずなのに、油断しちゃったな。――でも、僕が言ったことは本当じゃないかもしれないよ?」
最後の悪あがきだ。男が言ったのは全て本当のことだ。だが、嘘をついて、混乱させよう。そう思った。
しかし、
「嘘つくな。お前の言ったことが全て本当なのは、《真偽の審判》で分かってる」
嘘は通用しなかった。相手の言ったことの真偽が分かる、《真偽の審判》という『権能』を用いて、全て事実だということは確認済み。
男の行動はこれ以上上手くいかない。
――だから最後に、もう一つ衝撃的な事実を残した。
「――カナタ君と王女様は、もう一人の僕が襲ってるよ」
「――――」
しかし、四人は別に驚きはしなかった。四つ子とカナタたちを離れさせた時点で、目的は彼らだと分かっている。だが今のところ、この男は引く気配が見えない。それは、まだカナタたちが抵抗していて、攫えていないということだろう。
「もう一人の僕、か」
その中で何より一番驚いたのはそこだった。どういう原理か分からないが、男は今現在目の前にいる彼と、カナタたちを襲っている方の二人がいるようだ。
どちらも同じ力を持っているとすれば、危険なんてものじゃないが……。
(……なるほど。ロエンとサフィナが守ってるのか。そりゃ簡単にカナタたちを攫えないな)
ラインが目を閉じて集中すると、遠く離れた王都の北側で、男と戦っているカナタたち一行の姿が目に入った。
そう、千里眼を使ったのだ。これは吸血鬼の力というわけでも『権能』でもない。彼ら四つ子の内にある"もう一つの力"のおかげだ。
「――余裕みたいだね?」
「別に。今にでも向こうに行きたいが、お前をここに置いておく訳にはいかない。お前も一緒に連れていく」
「そっか。ならあともう少し、驚きそうなことを教えてあげるよ」
動かせない身体を必死に曲げ、仰向けになる。そして地味にニヤリと笑い、
「この僕は複製体で、本物は向こうさ。あと数秒で僕は消滅する。――そして、向こうにいる僕は王都を破壊する力も持ってる。それじゃ、楽しんでよ」
――時間切れだ。男の肉体は霧のように消滅していき、男を拘束していた血液だけがその場に残った。
「セツナ、先に行ってきて。俺たちはあとから合流する」
「分かったよ」
男の発言は全て事実だった。現在、王都にいる彼がそのような力を持っているということは、あのままではロエンたちはやられてしまう。
そのため、四つ子の中で一番合理的な考えの持ち主であろうセツナを、破壊行動を阻止すべく送り出した。
一方、残った三人は――、
「この拘束で集めたデータを、解析して貰わないとな」
野原に落ちたままの血液の拘束を手に持ち、収集したデータを解析してくれるであろう『知恵の神』のもとへ向かっていった。
◆◇◆◇
「――動かないで。怪しい動きをしたら殺すから」
男がカナタとミリアを捕まえようとしたその時、後ろからセツナの声が聞こえた。全身を血液で縛られ、力が抜け、地面に思いっきり倒れてしまう。
「ハハッ、早かったね。それにこの拘束、身動きが取れないだけじゃなくて力も使えないのか……」
「《腐蝕の呪い》では壊せないようにしてるから。あなたはこのまま連れて帰る」
「なるほど……? そりゃしんどいよ。ま、上手くやってるみたいだけど、一つ教えてあげよう」
拘束されても、全くピンチに陥っていないかのような話し方をする男。冷たい目で睨むセツナを無視しながら、男は話し始めた。
「あの複製体は僕と同程度の力と能力を持ってる。僕が造った自信作さ。でも、そんなアレにも出来ないことが一つだけある。それは――」
「――ッ!」
瞬間、男の倒れる地面から現れた、謎の生物。人間の形をしているが、人間でもほかの種族でもないと一目見て分かる。
この期に及んでカナタとミリアを攫って逃げるつもりなのか。そう思ったセツナはすぐさま二人を助け、後ろに下がる。
あの生物に何ができるかは分からないが、少なくとも拘束を外すことはできない。ならば男を連れ帰るだろう。そんな思考が流れ、今すぐに始末しようとセツナが手を向ける。
――しかし、謎の生物が取った行動。
それは――、
「うぐぁっ……!」
「……は? な、にしてんの……?」
自分の主人であるはずの男の心臓を刺し、殺害。意図が読めず、困惑する各々に何も残さず、謎の生物は消えていった。




