第2章10話『クラスメイトの助け』
「それじゃあ、二人とも連れていくね。大丈夫、酷いことはしないからさ。僕のためになってよ」
男の声が、脳内に響く。男は誘拐しようとその手をカナタとミリアに伸ばす。何とかしようと考えるが、二人とも地面に強い重力で押さえつけられ、逃げる隙すらない。潰される。
(ま、まじでやばい……。逃げられない……)
為す術なく、絶望に落とされるカナタ。
――しかしその瞬間、男の耳に声が入った。
「――《斥力の王》」
それが聞こえると、カナタ達を襲っていた男は吹き飛ばされ、遠くの地面にぶつかり横に倒れた。
◆◇◆◇
「――《斥力の王》」
その声が耳に入り、男は理解した。聞こえた声が、かつて何度も聞いた事のあるものであったと。
「――」
地面を転がりながら何かを呟くと、男の顔は彼のものではない別の顔に変化する。
地面で擦れ、傷ついた皮膚を治しながら足をつき、立ち上がる。
「……やっぱり、か」
その瞳は真っ直ぐカナタたちの方へ向く。そこに映ったのは、間違いなく、男が考えていた少年だった。
「痛ぇ……。ミリアさんも大丈夫……?」
「妾は問題ない。じゃが、武器が壊されてしまったな。これはもう逃げに徹するしか無さそうじゃ」
二人を押さえつけていた重力から解放され、カナタとミリアはお互いの傷の確認をする。カナタは全身がボロボロになるくらい痛いが、ミリアは丈夫なのか、綺麗なドレスが汚れているだけ。
カナタはほとんど何もしていないのに、カナタの方がボロボロで少し悲しくなった。
「大丈夫そうで良かったですよ。こんな所で何をしてるんですか?」
後ろから聞こえる声。おそらく、この人が二人を助けてくれたのだろう。感謝しよう。そう思って振り返ったカナタは度肝を抜かれた。
「えぇっ!?」
驚きで、そう声を上げてしまった。なぜなら、目の前にいる少年は、魔法学園で同じクラス、隣の席のあの男。
ロエン・ミリディアだったのだ。目にかかった紫髪を手で払い、カナタを見つめる。
「こんな所で会うとは思いませんでしたけどね。そちらは王女様ですよね?」
「妾を助けてくれたことは感謝しよう。で、誰じゃ貴様は? 名を名乗れ」
「ああ、ロエン・ミリディアです。よろしくお願いしますね」
こんな態度で助けてくれた人と話せるのはミリアくらいだろうなぁ、とカナタは思いつつも、ロエンに話しかける。
「えっと、ロエンはなんでここに?」
「私も友達と一緒に騎士団のパレードを見ていたんです。あなたたちとラインたちが一緒にいるのを見かけて、話しかけるか悩んでたんですよ。そしたら――」
「転校生君もライン君たちもいなくなっちゃってねー。何かあったのかなーって思って探してたんだー」
……ん? 途中から女の子の声が聞こえた。どこから? そう思っていると、ピンク髪をした少女がこちらに向かって歩いてきた。
しかも、その少女は、
「あれ、商店街でロエンと一緒にいた人!?」
そう。以前、魔法学園の試験が終わり、ファルレフィア邸に向かう時に商店街で会った少女だったのだ。あの日もロエンと共にいたし、今日も共にいる。仲がいい二人なんだなーと思っていると、少女は言った。
「そーそー。ってー、アタシのこと覚えてないのー? 同じクラスなったでしょー?」
「……え? 同じ、クラス?」
「うん。だって転校生君でしょ? アタシは同じクラスだよー」
まさかの、彼女もカナタたちと同じ二年A組の生徒だった。フォトグラフィックメモリーを持ってるカナタがなぜ彼女を覚えていないのか。理由は簡単だ。
最初の自己紹介の時、周りのカラフルすぎる髪色に圧倒されてカナタはラインたちを見ながら自己紹介をしていた。
それに、魔法学園に通ったのはまだ昨日の一日だけ。さすがに一個人を覚えることはできていなかった。
「ご、ごめん。覚えてなくて……。名前聞いてもいい?」
「アタシはサフィナ・カレイドだよー。よろしくねー」
なるほど。サフィナ。良い名前だなと思うと同時に、懐かしい気もする。変な感覚を抱きつつも会釈を交わしていると、後ろから声が響いた。
「自己紹介、終わったかな?」
ロエンが吹き飛ばした男が、段々と近づいてくる。かなり強く地面にぶつかっていたように見えたが、それだけで終わるほどの男ではなかったというわけだ。
「で、あなたは誰ですか?」
「……さあね。僕の狙いはカナタ君と王女様さ。君たち二人はどっか行きなよ」
あくまでも男の狙いはカナタとミリア。二人邪魔が入ったところで、彼らは眼中にないようだ。
「ラインたちはどこへ?」
この場にはいないラインたちがどこへ飛ばされたのか。そう思ったロエンが男に質問をする。
「四人はまた遠い場所に送ったよ。来られたら面倒すぎるからね。でも、そっちの対処も……ああ、今終わったようだ」
「終わったってなんだよ?」
「全員戦闘不能ってこと。良かった、上手くいったみたいだ」
四つ子は戦闘に巻き込まれ、それは終了したらしい。しかも、四つ子の負けで。
カナタはまだ四つ子との関係は浅い。そのため、気持ちとしては「ラインたち負けたのか……。まじか……」といったものだ。四つ子の強さは知らないし、めちゃくちゃ驚くということはなかった。
しかし、一方のミリア、ロエン、サフィナ。ミリアは腕を胸の下で組んで平然としているのだが、残り二人は信じられないといった顔になってしまっている。
そんな二人を気にもとめないように、男はこちらにゆっくりと進んでくる。
――そして、一瞬で距離を詰める。
「や、やばい、来るぞ!」
見えなかった。次に男が視界に映ったのは、カナタの半径五メートルに入ったとき。ヤバい! と思う間もなく、《腐蝕の呪い》を纏った手が触れ――
「はいストップー。どーん」
突如として割り込んだサフィナ。花のように綺麗な桃色や黄緑色が入った対の扇を両手に持ち、それが振られると花の軌跡が描かれる。
男の両腕は切り落とされ、さらに蹴りでまた遠くに飛ばされてしまった。
「――はぁ、勘弁してよ、サフィナ……」
――飛ばされながらも、彼らには聞こえないほど小さな声で男はそう呟いた。




