第2章7話『時間稼ぎ』
「おぉ! すっげぇかっこいいじゃん! 次は何するんだ?」
騎士同士の演目に感銘を受け、次の演目を楽しみに待つカナタと、そんな彼を目を細めて見るミリア。
先程までの彼らの話に踏み込むことはなかったが、ミリアの右隣にいるラインはアレスに声をかけた。
「カナタとミリア、結構仲良くやってるな」
「そうだね。でもまあ、ミリアはいつも通りちょっと冷たい気もするけどね」
「確かに。なあミリア、お前ら意外と仲良く――。あれ? は? ミリアとカナタは……どこ行った?」
アレスと談笑し、ミリアをからかおうと左を向くライン。しかし、数秒前までそこにいたはずの二人の存在がいなくなってしまっていたのだ。
「ちょ、兄さん、早く探しに行かないと――。え?」
次の瞬間、目の前から全ての人が消えた。――否、四つ子だけが、どこか別の場所に飛ばされたようだ。
「はぁ? どこ? お兄ちゃんなんかした?」
「いや、俺はなんもやってねえよ。誰かに飛ばされたのか……」
何故かセツナに自分のせいにされたラインはそう返す。
周りを見渡しても、建物も人影も何もない。ただ風が吹くだけの野原に四つ子全員が放り込まれたようだ。
「ま、ここがどこか分からなくても、元の場所に戻れば良いだけだ。行くぞ」
ラインが右手を肩の位置まで上げると、空間が一気に圧縮されるような力が溢れ出す。そしてそのまま、元の座標まで戻ろうと――
「――おっと、つれないことを言わないで欲しいな」
「……誰?」
「腐敗の呪いを使う人、って言えば分かるかな? 先日はどうも。良い戦いだったよ」
それは、カナタをこの異世界に飛ばし、先日のあの腐敗させる呪いを使用する男だった。その顔は先日と同じように、彼のものではない顔だ。
「君たちに戻られると面倒なんだよね。だから、足止めさせてもらおうかな」
「そりゃどうも。わざわざ四人同時に相手にする馬鹿とは思わなかったよ」
「酷いな。でもまあ君の言う通り、四人同時の相手はしんどいんだよね。でも、僕の目的は時間稼ぎ。勝てなくても、時間を無駄に食ってもらうよ」
――次の瞬間、男は四人に急接近した。そして、その手を四人に触れ、それぞれに腐敗の呪いをかけた。
――はずだった。
「まずはこれから――っ!?」
「ごめん! 私たちにもうそれ効かないんだ! 克服したし!」
そう。四人は既に腐敗の呪いを克服済みだ。まさか、先日の一回だけでもう無効化されるとは思っていなかった男は、四人の中で一番瞬発力の高いレンゲに蹴り飛ばされてしまった。
「――って、克服したっていうよりは触られた瞬間に治しただけなんだけどね。でも、今喰らって解析したし、もう私たちは完全に無効化できるよ」
「相変わらずの化け物具合だなぁ。こりゃ骨が折れるよ」
「前も気になってたんだが……」
今の数秒の攻防だけで、腐敗の呪いを解析し、再度触れられても無効化出来るようになった四つ子に冗談を言う。
すると突然、ラインが男に話しかけた。
「お前、俺らとどこかで会ったことあるのか? 『前より強い』とか、『相変わらず』とか言ってたけど。――何より、俺らの力を知ってるみたいだし」
「そうだね。僕は君たちと会ったことあるよ。戦いもした。だから君たちの面倒な力は知ってるよ。正面からやり合って勝てないことも。だから――」
瞬間、男は右手を横に振る。掌からは四つの丸くて小さな石のようなものが飛ばされ、それぞれが四つ子の元に落ちる。
そして――
「「「「――っ!?」」」」
全身に電撃が走り、四人とも倒れてしまう。もう身体が動かせなくなってしまったのだ。まさか、これは――
「そうだよ。吸血鬼の意識を奪う電撃を浴びせる道具さ。四人仲良く眠っていて……。ん?」
「――いくら意識を保つためとはいえ、心臓を潰すのは痛すぎるから勘弁して欲しいんだけどな」
他の三人が気絶し、草原に寝転がっている中で、ラインは胸と口から血を流しながらゆっくりと立ち上がったのだ。流石のこれには男も驚愕の表情でラインを見つめている。
「自分で心臓を潰して、その痛みで眠る意識を覚醒させたと? 怖っ……。――あれ、吸血鬼の弱点って心臓でしょ? それ死なないの?」
そう、自ら心臓を潰し、その痛みで意識を保つといった普通では耐えられない方法をラインは行ったのだ。
しかし男の言う通り、吸血鬼の弱点は心臓である。心臓以外の部分がどれだけ粉々にされようと、心臓さえ残っていれば復活出来る。逆に言えば、心臓だけでも潰されてしまえば死に至ってしまう。それが、この世界の吸血鬼だ。
この世界に生きる吸血鬼にとって、絶対に崩すことの出来ないルール。
それにもかかわらず、自ら心臓を潰したラインはこうして生きている。それはつまり、ラインは吸血鬼という枠組みから外れた存在だということを意味している。
「死なないの? って、俺が死なない理由知ってるんだろ?」
「まあね。ってことで、始めようか。――」
男が右手を肩まで上げると、ラインは後ろに向かって吹き飛ばされてしまう。まるで、反発しているかのような挙動だった。
(これって……)
今の技を食らって、ラインは違和感を感じた。何やら、この技を見た事や受けたことがあるといったところか。
例えばそう、彼の友人にこんな力を使う者がいたはずだ。
「――さ、思う存分、時間稼ぎの時間といこうか」
――遠く離れたラインには聞こえない程の小さな声で、男がそう呟いた。




