第2章6話『狙われたのは』
「妾か貴様のどちらか、といったところか?」
「まあそうなるよな……。――でも、見た感じ誰もいないみたいだし、とりあえずどこかに隠れる?」
辺りを見渡すが、ただ建物しかない。二人を襲いに来たであろう連中もいないため、とりあえずは身を潜めようとカナタは思った。
「そうじゃな。適当な店に身を……。――やめじゃ」
カナタに賛成し、ミリアも周りを見て、身を隠せる店がないか探す。――しかし、それは無理だと悟ったようだ。
「――やあ、久しぶりですね。先日はどうも」
「お、前……」
後ろから声をかけられ、カナタは振り返る。そこには、カナタをこの異世界に飛ばし、先日のあの腐敗させる呪いを使用する男がいたのだ。
「あ、僕の顔に戻したんだけど、僕とこの前君らを襲ったやつが一緒って分かってるみたいだね? 仲間と情報を共有して気づいたのかな? それとも、知恵を司る誰かが教えたのかな?」
「――前者だ」
「ああ、そうですか? でもまあ、後者も間違いではないでしょう? 話し合いくらいはしてるんじゃないのかな?」
この男が言った『知恵を司る誰か』はおそらく、『知恵の神』アステナのことだろうとカナタは思った。だが、それを知られたら何か不都合なことになるかもしれない。
何か情報を与える訳にはいかないため、カナタはこれ以上返答することはしなかった。
「貴様、あの男と知り合いなのか?」
「ああ、俺をこの国に連れてきた上に、何回も襲ってきてるヤバいやつだよ」
「なるほど。――おい、そこの愚物よ。愚物の狙いがこの男であるなら、妾も連れてくる必要はあったのか?」
男の狙いがカナタであるなら、なぜ王女様であるミリアまでこんなところに移動させたのか。その問いに、男は素直に口を開いた。
「僕は彼に一緒に来て欲しいんだよ。でも、全てことごとく他のやつに邪魔されてね。彼一人を無理やり連れ帰ることは出来るけど、どうせあの吸血鬼どもが助けに来る。なら、王女であるあなたも誘拐すれば、容易に手出しできないと思ってね」
「ほう? 妾を人質にするというわけか? それが王国中を敵に回すと知っているのか?」
「そりゃもちろん。でもね、そんなことどうでもいいんだよ。どうせ、いずれ僕の望む世界になるんだからさ」
自分の理想を話す男をミリアは睨んでいる。突然、ミリアの手をカナタが握った。
「……おい貴様、妾に触れるでない。殺すぞ?」
「そんなこと言ってる場合か!? あいつに触れられたら全身が腐るんだ! 逃げるしかねえ! 良いから行くぞ!」
「あ、おい、引っ張るな!」
カナタに手を握られて顔を赤く染める――なんてことは一切なく、本当に嫌なようだ。ギロッと冷たい目で睨まれているが、今は逃げるのが先。そんなのを気にしている場合では無い。触れられる前に、どこかへ逃げ込まなければ。
「ああ、逃げちゃうか。今のあなたは面白くないなぁ。――じゃ、やれ」
二人の逃げる背中を見つめながら、男は追いかける素振りすら見せない。しかし、彼が手を空に向けた瞬間、二人の逃走を拒む存在が現れた。
「早く、早く逃げねえと……! ――って!? マジかよ!?」
なんと、二人が走っていく先から、こちらに向かって走ってくる人影が見えた。だが、人ではない。人の形をしているが、カナタには、それは絶対に違う種族だと何故か理解できたのだ。
足を踏み込めて加速を止め、今度は再び後ろを向く。が、もちろんその先にはあの男がいる。さらに、その方向からもこちらに向かって走る謎の人影が迫ってきているのだ。
(ま、ずい……。どうする、どうする!? 敵の狙いは俺だ! 何とかして、ミリアさんだけでも逃がさないと……)
「おい、貴様、どうする気じゃ?」
「い、今考えてるから! ミリアさんだけでも、何とか逃げ……」
もう逃げ道はどこにもない。敵はだんだんと迫ってくる。どうにかして王女様だけでも逃がそうと考えるが無理だ。どこにも道はない。――詰みだ。
「……ミリアさんって一人で逃げれる?」
「……貴様、一人で残るつもりか?」
「二人捕まるよりは、その方が良いだろ? 俺は魔法使えるし、何とか時間は稼ぐからさ」
「……」
――既に、謎の生物は二人の正面と背中を取った。
「み、ミリアさん! 早く逃げ……」
「邪魔じゃ」
「うぇっ!?」
襲ってくる奴らの隙間にミリアを飛ばし、逃がそうとしたカナタ。だがそれより先に、カナタは左に向かって蹴り飛ばされてしまったのだ。
まさか、俺を囮に? などと思ってしまったカナタ。しかし、それは間違いだった。
「無礼者が」
なんとも優雅な動きで、正面から迫る攻撃を躱し、その全てを背後にいる敵に向かって蹴り飛ばす。
「み、ミリアさん?」
「言ったじゃろう。妾は貴様より数倍強いと。貴様のような男に助けて貰うほど妾はか弱い乙女ではない。――今は話の途中じゃ! 下衆め」
痛みなどないかのように襲ってくる謎の生物を、扇子で叩きながら攻撃を身軽に避ける。
(ま、マジで強いんだこの人……。嘘だと思ってたんだけど……。カッコつけたの恥ず……)
まさか、本当に戦えるタイプの王女様とは思わなかった。カッコつけて逃がそうとしたことに恥じらいつつも、カナタはゆっくりと立ち上がる。
「――もう面倒じゃ。終わらせるぞ」
そう呟いた瞬間、扇子が剣へと変化したのだ。
「はぁ!? なにそれ!?」
カナタの叫びには耳も向けず、薔薇色に展開された刃で一閃を決める。――刹那、謎の生物は切断され、元々この場にいなかったかのように消滅してしまったのだ。
「す、すっげぇ……」
「貴様、ボーッとしてる場合では無い。愚物が来るぞ」
剣を正面にいる男に向かって向ける。それでも、男は何の変化もなく、ゆっくりと歩き進んで来る。
「王女様って強いんだね。僕は少々、あなたを見くびっていたかもしれないな」
「ハッ、妾を過小評価したこと、身をもって知るがよい。《武神》の『権能』を持つ妾に容易く勝てるとでも思うな」
ミリアの口から出た、彼女の『権能』。それを聞いて、男はニヤリと興味深そうに笑みを浮かべる。
「そっか。じゃあ、王女様のお手並み拝見といかせてもらおうかな?」




