第2章5話『平穏は続かない』
「……騎士団のパレードなのに、魔法使いすぎじゃない?」
「それは……そうじゃな」
カナタが騎士団のパレードを見て思ったことを伝えると、ミリアも同じことを考えていたようだ。騎士団のパレードだというのに、今のところ魔法しか使っていない。まあ、こんなところで剣で暴れられても困るのだが。
そう思っていると、騎士団を含め、この場にいる全員がエレベーターに乗ってるかのように上に上昇していく。
「うわぁ!? 足元が……!」
先程、魔法騎士が展開した半径百メートルの結界。それが、人々を乗せて空に上がったようだ。
「騒ぐな。結界が足場になっているようじゃな。人だけを空に連れてゆく。一体何をする気じゃ?」
「王女様なら知っててよ……」
「パレードは毎年変わると言ったじゃろう。妾は何も知らぬ」
「なんでドヤ顔!?」
知らないのに何をドヤ顔を決めているんだ……と思っていると、騎士たちが数十人横に避け、中央に残りの騎士が集まった。
「なんだ?」
首を傾げていると、整列する騎士一人一人が、腰に付けてある長剣を引き抜き、構えた。
無音。微動だにしない騎士を見て、カナタは息を飲む。瞬間、彼らは一斉に剣を振り始めた。
無駄な動きが一切なく、流麗な剣技が続く。
切断や突き、攻撃を受け流すような剣技が美しい。
「空手の型を見てるみたいだな……」
「空手? なんじゃそれは。武術か?」
「まあそんなもん。――それにしても、動きすげえな。みんな全然ブレないじゃん」
「そうじゃな。――ん? また次の出し物か」
どうやら、また別の演目に変わるようだ。中央に集まっていた騎士たちが全員横にはけると、二人の騎士が木刀を持って中央に入った。
「ん、今度はなんだ? 戦うのか? てか、木刀なんだ。普通の剣じゃないのか」
「そりゃそうじゃろ。殺し合いをさせる気か」
「いや、そういう訳じゃないけどさ……。てか、アッシュは出ないんだな。『剣聖』なんだったらこういうの出そうだけど」
「あやつが出たらこんな茶番、すぐに終わる。何も面白くない戦いになるぞ」
唇に扇子をくっつけながら、ミリアがそう教えてくれた。『剣聖』であるアッシュがこの演目に出てしまえば、一瞬で決着がついてしまうらしい。
そんなにアッシュと他の騎士で実力が違うのか、と気になったカナタは質問をする。
「アッシュって、そんなに強いの?」
「……は?」
カナタからすれば、一度戦ったことのある相手。そりゃあ適うことなんてないほど強かったが、彼の本気は見たことないし、どれくらい強いのかを知りたかった。
が、今の聞き方はまずかったようだ。目の前にいるミリアは、恐らく……というか確実にアッシュを好きである。
アッシュを侮辱したわけではないが、ミリアには、「アッシュってどうせ強くないんでしょ?」のように思われた可能性がある。
まさに今、これまでで一番の冷たい目を向けられている。
「あ! そ、そういうことじゃなくて! アッシュって本気ならどれくらい強いのかなーって思っただけ! 強くないなんて全く思ってないからね!? 一度ボコされてるし」
「……チッ」
舌打ちをしたミリアを見て、怒ってるな……と心の中で思っていると、ミリアは演目に目を向ける。
カナタも、同じように目を向けた。
二人の騎士はお互いに木刀を構え、静寂が訪れる。
次の瞬間、どこからか爆発した音がした。それが合図だったようだ。
二人の騎士は一瞬で距離を詰め、木刀を交える。木が衝突する音が結界内に響き、流麗な動きが目に映る。
「すっげぇ……。俺だったらすぐやられてるな」
「当たり前じゃ。貴様なら殺されておるぞ」
「いやさすがにそこまでは! ない……とは言えないな……」
正直言って、流石に弱く見られすぎだと思うが、この異世界でなら、木刀で叩かれて死ぬ可能性も大いにある。そのため、殺されるわけないとは言えない。
「てか、ミリアさんはどれくらい強いの? 王女様ってそんな強くないイメージがあるんだけど」
「――貴様は妾の逆鱗に触れるような言動ばかりするのじゃな。少なくとも、貴様よりは数倍強いぞ」
「俺ってそんなに弱く見えるのかな……?」と、少々ショックを受けるカナタはため息をついて騎士の戦いに目を向け直す。
速い。カナタには目で追うのが精一杯の速さだ。
あんな速さで木刀をバンバン振れるものなのかと驚くカナタを無視するように、騎士たちはその力を存分に発揮しているようだ。
(どっちが勝つんだろうな……)
どちらも引かない攻防戦だ。かれこれ五分くらいは戦っているだろう。いつ終わるのかと思っていた。
――その瞬間は、突如訪れた。
カナタから見て、左側にいる背の高い男が木刀をもう一人の首元に軽く当てた。その時、この演目が始まる時に聞いた爆発音が再び響く。それが、終了した合図のようだ。
「おぉ! すっげぇかっこいいじゃん! 次は何するんだ?」
その優美な動きに感銘を受け、次の演目は何だろうと顔を輝かせるカナタと、そんなカナタを横から目を細めて見るミリア。
――刹那、二人の目の前から全ての人が消えた。――否、彼らだけが、別の場所に飛ばされたようだ。
「……え? は? どこだ……ここ……?」
「王都の北側じゃな。じゃが、皆は祭りに行ってここにはいないようじゃ」
「な、なんでそんな平静なの? 俺ら、ワープされたのか? なんで俺らだけ……」
よく分からない技で飛ばされたが、何故か平然と状況を理解するミリアに驚きつつ、カナタは周りを見渡す。本当に、誰もいないようだ。建物は大量にあるのだが、人の気配が全くしない。それくらい、今日の祭りは国民にとって大切なものなのだろう。
「み、ミリアさん、一回戻ろう。そしてラインたちと合流して……」
「いや、無理じゃ」
カナタの提案は、バッサリと切り捨てられた。
「もう一度会ったとて、これほどまでに優れた移動能力を持っているなら、妾たちはまた何処かへ飛ばされるであろう」
「じゃあどうするか……。てか、なんで俺らだけなんだ? ラインたちは向こうに残ったままだよな? ――もしかして」
どうして、あの状況でカナタとミリアの二人だけが移動させられたのか。それは――
「ああ、そうじゃな。ラインたちが邪魔だったのであろう。敵の狙いは――」
扇子を唇に当て、ドヤ顔で続ける。
「妾か貴様のどちらか、といったところか?」




