第2章4話『優しい王女』
赤く染めた頬を扇子で隠し、騎士団の方をまっすぐ見るミリア。それを隣から見つめるカナタだったが、次の瞬間、大きな音が耳に響いた。
魔法が爆発したような音だった。
なんだ? と思い、騎士たちの方を向く。すると、空に向かって魔法を放った数人の騎士がいた。
空で紫色の魔法陣が展開され、紋章のようなものを空に映した。
「すっげぇ……。ていうか魔法使うんだ。騎士なのに」
騎士はみんな剣だけを使用するものだと思っていたが、魔法を使っていて驚きが口に出る。すると、隣のミリアが説明してくれた。
「あれは魔法騎士じゃ。剣と魔法両方をこなせる精鋭から選ばれる。貴様が通っている学園の卒業生が多いぞ」
「そうなんだ……。てっきり、卒業生は魔法使いとかになるものだと思ってたな……」
「もちろん魔法使いもおる。殆どはそうなるはずじゃ。貴様、卒業後の進路も考えずに魔法学園に入ったのか?」
「いや、俺は別に卒業後の進路を考えて入ったわけじゃ……」
「ならば毎日自堕落な生活を続けるつもりか? 貴様はなんのために魔法学園に入ったのじゃ?」
心に刃がグサッと刺さった感じがした。
カナタはこの世界でずっと過ごそうなんて考えていない。本当は、今すぐにでも元の世界に帰りたい。だが、一人で過ごしたってその目的を果たすことは到底出来ない。
だから、科学なんてものじゃ説明つかない魔法を学び、交友関係を広めて元の世界に戻る方法を探ろうと思っている。魔法学園への入学はあくまでもそのための手段だ。
「俺は……俺が元のところに戻って、いつも通りの生活が出来るようになるために入学したんだ」
「なんじゃ、自分のためか?」
「……悪いかよ。普通はそうじゃないのか? お金を稼いだりとか、みんな自分のために頑張ってるだろ?」
「別に悪いとは思わぬ。貴様の言う通りじゃ。皆自分のために動く。じゃから、妾も自分を犠牲にして他人のためになることをしろ、なんて綺麗事を言うつもりはない」
ミリアはそう区切って、開いていた扇子をピシッと閉じる。
「貴様がどんな場所から来たか分からぬ。そんな気色の悪い髪色、初めて見たからな。じゃが、こうしてこの国に留まっておるということは、易々と帰れないのじゃろう?」
「――っ!」
眉をピクっと動かし反応したカナタを見て、ミリアは不敵な笑みを浮かべた。
「フッ、当たりじゃな。そして貴様は魔法を学び、世の理を歪めるような力で故郷に戻りたいと、そういうことか?」
「その洞察力には驚くよ……。初対面なのに、そこまで分かっちゃう?」
「妾は王女として昔から多くの民と接してきたからな。相手の本質を見抜く力には自信がある。って、それはどうでもいいのじゃ」
そう言って、ミリアは閉じた扇子を指に挟みながらまた新たな言葉を紡ぐ。
「貴様のためにこれからも多くの者が力を貸すことになるじゃろう。貴様は自分のために動いてくれる者たちに感謝出来るのか?」
「あったりまえよ。そこら辺はちゃんと親に教育受けてるしな。そもそも、俺が感謝すら伝えない薄情野郎に見える?」
「初対面なのじゃ。知るか。――だがまあ、それならよい。自分だけ与えられて、他人には返さんというような性格であれば心底軽蔑していたところじゃ」
この王女様はかなりちゃんとした価値観を持っているものだ、とカナタは思った。口調には全く似合わない。彼女自身だって王女様であり、何もかも与えられる立場だろう。しかしそんな彼女がこのような考えを持っているとは驚いた。
「……ミリアさんって優しいんだな」
「なんじゃ急に気色悪い。貴様もラインのようなことを言うようになったな? 癪に障るからやめるのじゃ。それに……」
「……?」
じっとカナタを睨むミリアを見て、息を飲む。なにか気に障ることをしてしまったか? そう思っていると、ミリアは口を開いた。
「貴様、先程から敬語が外れているようじゃが、どういうつもりじゃ?」
「え? あ……」
すっかり忘れていた。四つ子がミリアに全然敬語を使わないせいで、カナタもそれに流されてしまっていたのだ。流石に不敬すぎる。ラインたちのように長年関わりがある訳ではなく、初対面でタメ口をきいてしまった。
「チッ、その様子、忘れていたようじゃな。まあ、好きなようにするがよい」
まさかの許して貰えた。やはり、この王女様は優しい。そんな事を言葉にすると、また睨まれそうだったのでカナタは言葉を喉まで持ってきて、やめた。
その瞬間、先刻の魔法騎士が空に展開させた魔法陣から、冷たい魔法が降ってきた。
「ほう、雪か。それにしても大きい粒じゃな。妾の手のひらくらいのサイズか」
「お、でっけぇ……。雪の結晶じゃん。水素結合で綺麗な六角形になってるなー」
「何を言っておるんじゃ貴様は」
カナタは空から降ってくる結晶を見て、「水素結合で六角形になってるなー」と思った。ふと呟いたが、ここは異世界。ミリアはカナタが何を言ってんのかわからなかっただろう。
扇子を唇に当てて、「なんじゃこやつは」と思ってそうなミリアを横目に空を見上げる。すると、続けて空から炎の玉が降ってきた。
「え!?」
「騒がしいやつじゃな。なんじゃ?」
「『なんじゃ?』じゃなくて! 炎魔法じゃんあれ! 落ちてくるの? 痛いでしょ燃えるよ!?」
「その辺の温度調整はしてあるに決まっておる。せいぜい暖かいくらいじゃろ」
焦るカナタに冷静に答えるミリア。次の瞬間、炎の玉はこの場にいる全員の身体に雨のように当たった。
だが、
「あ、暖かい……」
「ほらな。言った通りじゃろ」
ミリアの言う通り、本当にちょっと暖かいだけだった。冬に暖房で温まる部屋程度の温度だった。それに加え、先程の雪結晶も共に身体に当たり、暖かさと冷たさが交互に全身を襲う。
続いて、この場の半径百メートルが結界によって包まれた。
「今度はなんだ……? ミリアさん分かる?」
「さあな。毎年パレードの内容は変わる。予想もつかぬ」
今度は一体何が起こるんだ? そう思うと同時に、カナタはもう一つ思うことがあった。
「ねぇミリアさん、思ったことあるんだけどさ」
「なんじゃ?」
声をかけてきたカナタを見つめ、首を少し傾ける。
「……騎士団のパレードなのに、魔法使いすぎじゃない?」
「それは……そうじゃな」




