第2章3話『王国の祭り』
「さて、まずはそこの店に行くのじゃ」
王女様が指を指した店に五人は歩いていく。大量の人の隙間をくぐり抜けながら店まで着くと、店員の少女がこちらを見てきた。
「ここは何の店じゃ?」
「はい! ここは飴の店で……。えぇっ!?」
凄い笑顔で店の紹介をする少女が突然叫び、カナタは一瞬ビクッとしてしまった。
「もしかして、ミリア様ですか!? 本物ですか!?」
「なんじゃ騒がしい。妾は貴様の思った通りの王女様じゃ」
「凄いです! 握手してください!」
「仕方ないのう」
騒がしく喜んでいる少女の手をぎゅっと握り、呆れたような顔をしたままの王女様。そんな二人を見て、カナタは思考を巡らせた。
(この人って人望あるんだ……。傲慢だし、口調もアレだし嫌われてるのかと思ってたけど……)
そんな偏見を持っていたのだが、どうやら慕われていそうだ。今のところは。
と、そんなことを考えている間に、いつの間にかよく分からない果物が木の棒に刺さった飴が五つ買われていた。王女様が買ってくれたようだ。
「別に自分で買えたのに」
「妾のボディーガードのお礼じゃ。まあ、汝らに奢って貰うのは癪に障るのもあるのじゃが」
ラインにそう答え、王女様はカナタたち全員に飴を配ってくれた。
(へー……なんだこの果物。りんご飴? みたいに見えるけど違うな……)
見た目はりんご飴そっくりなのだが、色がオレンジでどちらかといえばみかん飴みたいな感じだ。
さあ舐めてみようか。そう思っていると、王女様が「おい」と話しかけてきた。
「貴様、先程妾が民に嫌われているものだと思っておったな?」
「……!? え、いや、そんなこと無いですよ……?」
バレていた。突然追及されたことでしどろもどろになってしまい、視線がラインと王女様の両方に行き来する。それを見て図星かと思ったのか、王女様は「フッ」と不気味に笑った。
「いい度胸じゃ。妾を前にしてよくそんな事を考えたものよ」
「あ、え、えと……。すいませんでした!」
カナタは頭を深く下げ、なんとか許してもらおうと考えた。しかし、王女様の追及は止まらない。
「そも、貴様は妾の名前も知らなかったと見える」
「い、いやぁ、知ってますよ?」
「ならば答えてみよ」
「え、えと……」
名前を答えよと来るとは思っていたが、名前すら知らないと答えるとまた追及されそうだったため嘘をついてしまった。が、それが間違いだった。
困った様子で動けなくなったカナタをギロッと睨み、王女様はため息をついた。
「妾の名前はミリア・レガリアじゃ。よく頭に刻み込んでおけ。この国にいて妾の名を知らぬとは、愚かじゃのう」
「すいませんでした……」
本当に申し訳なさそうに頭を下げるカナタを上から目線で見つめるミリア。そんな彼女の肩を、ラインが叩いた。
「なんじゃ?」
「まあそこまでにしてやれ。こいつは最近この国に来たからお前のこと知らなくて当然だって」
「だからなんじゃ。それが妾の名を知らない理由にはならん」
「王女様、その辺にしよ?」
さらに後ろからレンゲがミリアの背中をさする。一瞬「チッ」と舌打ちを決めたが、カナタにいじわるすることは無くなった。
「まあ良い。じゃが、妾の名は必ず覚えとくのじゃぞ?」
「覚えますって。俺記憶力良いので」
そう言うカナタを信じられないような目で見ていたが、ミリアは再び歩き始めた。
(甘っ。でも、どっちかというとパインみたいな味だなこれ)
ミリアについて行きながら飴を一口かじる。外側は砂糖の甘みが強かったが、果肉が口に入るとパインのような酸味が口に広がった。
「美味しいなこれ」
「ね。美味しい飴を久しぶりに食べた気がするよ」
隣に歩くアレスとそう会話を続けながらひたすら歩く。もうひたすら歩き続けた。
「ミリア、どこに行くつもりなの?」
「? 特に決めておらん。歩いてるだけじゃ。店の数も多いからな。すぐに見て回る必要がある」
「てか、本当に屋台多いな……。あれは食べ物、あそこも食べ物……あ、あそこはアクセサリーか?」
ミリアの言う通り、店の数が尋常じゃない。十メートル間隔で色々な店があり、その全てに大量のお客さんが行っている。流石王都だと思う人数だ。
(うわ、あれも美味しそうだな。たこ焼き? みたいに見えるけど……。お、あれも美味そうだな)
それぞれの店が掲げてある看板に見える食べ物に目を通し、次はどれを買おうかと悩むカナタ。
その瞬間、辺りの雰囲気が変化したのが分かった。
なにかあったのだろうか。これまで店に並んでいた人が一斉に後ろを振り向く。
「な、んだこれ……」
カナタも続けて振り向くと、そう声が漏れてしまう。なぜなら人々が避け、出来た通り道を腰に剣を携えた騎士たちが歩いてきたからだ。
「み、ミリアさん、なんですかこれ……?」
「様を付けよ。……まあよい。これから騎士団のパレードが始まるのじゃ。一年に一度、この日しか行われない。ゆえに、観客も大勢いるのじゃ」
隣にいるミリアに尋ねると、そう答えてくれた。ざっと三百人程だろうか。それ以上いるかもしれないが、だいたいそれくらいの騎士が綺麗に整列している。
(すっげぇ綺麗……。学校の体育の授業の整列がぐちゃぐちゃに見えるな……)
などと思っていると、騎士団の中でも貫禄がありそうなおじいさんが前に出てきた。
「私は騎士団団長、ヴァイン・レイ・フェルザリア。これより、我が騎士団のパレードを始める!」
おじいさんとは思えない強い声だった。それに、フェルザリアといったか? アッシュの名字と一緒だし、彼こそがアッシュの祖父なのだろう。
(ってことは、アッシュもどこかにいるのか? えっと、青みがかった銀髪は……)
アッシュの髪色を探そうと顔を左右に振る。意外とすぐに目に入った。今まで学園の制服の姿の彼しか見ていなかったが、騎士の正装に身をつつみ、大人びて見える。
(って、恨みたくなるほど美形だな。この世界、顔整った人多すぎ)
カナタ自身だって、決して顔が悪いわけはなく、良い方だ。それでも、この世界で今まで会った人たちはどいつもこいつも顔が強すぎる。
すると、こちらの視線に気づいたのか、アッシュの目がこちらに向いた。
(お、目があった)
左手をあげて手を振る。綺麗に並んでいるため、さすがに手を振り返してくれることはなかったが、アッシュはニコッと笑ってくれた。
「ライン、アッシュがあそこにいるぞ……。え?」
ミリアの右隣にいるラインにそれを教えようと肩を叩こうとした。しかしその前に、隣のミリアの顔が目に入った。
「……」
少し頬を赤く染め、恥ずかしそうに扇子で目から下を隠すミリア。それを見て、カナタは心の中でこう思った。
(この人、まじでアッシュのこと好きだったんだ……)




