第2章2話『吸血鬼』
「妾のドレスはそこのクローゼットに入っておる。取るのじゃ」
「はいはい分かったって……」
自分は動かず、クローゼットを指さす王女様にため息をつき、セツナはドレスを取り出す。それは、赤色で触れるだけで高級さが伝わってくるドレスだった。
「うわ……こんなの着るの? 流石王女様」
「動きにくくて嫌いじゃが、仕方あるまい。それじゃあ、妾は脱ぐから着せるのじゃ」
そう言うと、王女様はベッドから身を下ろし、服を脱いだ。すると、先程までは服に隠れていた胸が膨らんでいるのが二人の目に入る。
「なんじゃ? 羨ましいのか? 同い年のはずじゃが、妾の方が大きいからな。正直に言ったらどうじゃ?」
「別に。私たちあんまりそんな感情ないから」
「ねー。大きい胸にあんまり興味ないもん」
王女にドレスを着せつけながらそう答える二人。すると、王女は「チッ」と小さく舌を鳴らした。
「汝らはそんなものなのか? つまらんな」
「私たちが、っていうか、種族の問題でしょ。バカ兄二人も全然そういうのに興味ないし」
まるで人間では無いのような言いぶりであるが、――本当に人間では無い。何の種族か分からないが、王女様は知っているらしい。
「寿命長いから結婚とかも興味ないもんねー。――ねえセツナお姉ちゃん、私たちもいつか好きな人とか出来るのかな?」
「さあね。でも、私はいつまでも四人で仲良く居れればと思ってるよ。いずれは、私たちの友達はみんないなくなるんだから」
「ちょっとー! あんまりそういう事考えたくないよ! でも、ずっと兄妹で仲良くしようね!」
人間では無い彼らは、寿命が長い。だから、もちろん今いる友達は先に逝くだろう。そんな嫌な未来のことを考えたくはないが、いつかは必ずやってくる。
そんな日々でも、四人一緒なら大丈夫だろう。
無邪気な末妹に「そうだね」と笑いながら返し、同時に王女にドレスを着せ終わった。
「はい、終わったよ。これでいい?」
「おお、なかなかの出来じゃな。褒めてやる。早速外へ出るぞ」
◆◇◆◇
「すっげぇ……。めっちゃ綺麗……」
「当たり前じゃ。妾の国じゃからな」
五人で城から出て街に向かって歩いていく。その所々で大勢の人がいて、さらに美しい装飾がなされていてカナタは魅了されてしまった。
そんなカナタが唯一気になったもの。それは――
「なあ、なんでラインたちはフードで頭隠してるの?」
そう。何故か四つ子全員がフードを深く被り、目から下しか見えないようになっている。こう見ると、男か女かの違いだけで顔は全く同じだ。流石四つ子といったところか。
「いや、別に。日差しが強いから」
「あんまり強くなくない?」
「……」
無視された。何か深く聞けなさそうな雰囲気だ。こちらから何か追及するのはやめよう。そう思った時だった。
「なんじゃ。汝らはこやつに言っていないのか?」
「言ってないって、何を?」
王女が不思議そうに四つ子を見つめ、カナタは何を言われていないのかと王女を見つめる。
「こやつらは吸血鬼じゃぞ」
「……は、え?」
吸血鬼。その単語が耳に入り、カナタは足が止まってしまう。四つ子を見ると、何やら隠したい秘密だったのか、気まずそうな顔をしている。
「きゅ、吸血鬼?」
小声でそう呟く。そうだ、ここは異世界なのだ。人間じゃない生き物もいるに決まっているだろう。それこそ、吸血鬼のようなものも。それに、吸血鬼と聞けば納得する内容もいくつかある。
まず、彼らは戦う時に血液を飛ばしたりしていたこと。また、腕を切り落とされても再生していた。さらに、彼らの母親であるルナミアが年齢に合わない美貌を持っていたことなどだ。
納得したカナタは首を上下に動かす。
「吸血鬼っているんだなー。かっこよくていいじゃん」
そう言って、左手でサムズアップしながら、右手でラインの背中を叩く。
「……そう思うか?」
「ああ。だって、血操って戦えたりするんだろ? めっちゃ憧れるわー」
普通の人間であるカナタからすれば、エルフや吸血鬼などの生き物が戦ってるのはかっこいいと思うし、とても興味深い。
「で、なんでフード被ってるの? 吸血鬼って日光にめっちゃ弱い?」
「いや、ちょっと身体がだるくなるだけだしな」
じゃあなんで被ってるんだ? という質問を見据えたように、アレスが話し出した。
「三百年くらい前に色々あってね。僕たちの家系とは関係ない吸血鬼が沢山の村を滅ぼしたんだ。結局討伐されたんだけど、それから吸血鬼への差別が起きてね。数が減少したんだよ」
「赤髪は吸血鬼にしか無い髪色だから、吸血鬼ってバレたら差別されるかもしれないわけ。あ、この目の色は私たちの家系にしか出ないんだけど」
なるほど。アレスとセツナの説明を聞くと、彼らがフードを被る理由なんてすぐ分かった。赤髪が見られたら、狙われるかもしれないから。
「なるほど……。あ、でも、一緒に商店街とか歩いてても大丈夫だったじゃん?」
しかし、制服を受け取りに行った商店街や、魔法学園では彼らは堂々とその姿を見せていた。もちろん、差別する人なんていなかった。
「まあ、あそこは田舎だからな。別に吸血鬼の被害も受けてないし、エルフとかの種族がいる村も近くにあるし、気にする人が全然いないからな」
「でも、王都となるとね。もちろん、全員が全員吸血鬼を差別する訳じゃないけど、人が多いから分からなくて。フード被ってた方が安心かなって思ったんだ」
王都は見ればわかる通り、大勢の人がいる。例えば、この中の誰かに吸血鬼を嫌う人がいれば、すぐ嫌がらせでも受けてしまうだろう。そんな出来事を防ぎたかったようだ。
――そこで、王女様が口を挟んできた。
「そもそも、汝らは気にしすぎだと思うがな? 妾も父上も全く気にしておらん。そもそも、汝らは事件を起こした連中と全く関わりがないのじゃ。気にする必要があるのか?」
「――フッ」
淡々と自身の意見を述べる王女様にラインが笑うと、黄金に輝く瞳をギロッと向けて睨みつける。
「なんじゃ? 気色悪い笑みを浮かべおって」
「酷いな……。ただ、お前が王女様で良かったって思っただけだ」
「ふん、当たり前じゃ。妾以上に王女に相応しい者などいるわけなかろう」
二人の会話を聞いて、カナタは「王女様って優しいんだな」と思った。
初対面で軽く侮辱してくる酷い王女様というイメージしかなかった。
しかし昨日のラインの話では、注文が多い、人の話を聞かない、うるさいなどと言われていたが、優しいとも言われていた。その優しいの意味が、今分かった。
ただ吸血鬼というだけで差別されるかもしれない四つ子とも普通に接し、彼らを気にしすぎとも考えている。口は少々悪いが、優しい人なのだ。
そう考えていたカナタの耳に、王女様の声が響いた。彼女を見てみると、指を真っ直ぐ向けていた。そして、ニヤリと口角を上げ、呟いた。
「さて、まずはそこの店に行くのじゃ」




