第3話-1『記憶にある人物』
――これが俗に言う異世界転移ってやつか?
ヨナギ・カナタは呆然と空を見上げた。
元の世界に戻るには、あの男を探すしかない。だが、そもそもこの世界のことを何も知らない。
「大丈夫か? 見ない格好だけど。――どこから来た?」
「あ、俺は……」
そこまで言って、止まった。異世界から来たと言えばどうなる。どう考えても、おかしな奴だと思われる。自分が同じ立場なら、確実に引くと、分かる。
――今は黙っておいた方がいい。
「えっと、遠くの方から……。 ッ!?」
「!? どうした!?」
突然、カナタは頭を抱えて崩れ落ちた。同時に、少年がすぐにしゃがみ込み、背中を支えてくれる。
――またか。
子供の頃からずっと繰り返してきた痛みだ。病院では異常なしと言われ続けた。
フォトグラフィックメモリー、つまり見たものを写真のように記憶する能力を持っているせいで、脳が疲弊しているのではないかと言われたこともある。
でも、違う。そうじゃない、とカナタは確信していた。
だって、この痛みが来るたびに、見たこともない映像が流れ込んでくるから。
真っ赤に染まった空。知らない人物。地球とは思えない空間。
そして今回は――、真っ白な髪と瞳を持つ、少年と少女の姿だった。
「痛ぇ……」
地面に額を押し当てていると、ふっと痛みが消えた。
「あれ……?」
「これで大丈夫そうだな」
「何かしたの?」
「まあちょっとな。今だけだけど」
少年がなにかしてくれたらしい。
異世界では頭痛まで治せるのか。便利だ。
そう思いながら顔を上げ、二人の顔を見た。
そして、カナタは思わず息を呑んだ。
「どうしたの?」
「……いや、なんでもないです」
なんでもない、わけがなかった。さっきの映像の中にいた顔と、目の前の二人が重なって見えたのだ。あの映像では髪と瞳が真っ白だったが、輪郭も表情も、確かに一致している。
なぜ、今会ったばかりの人間が、頭に出てきたのか。
――考えても、今は分からない。
異世界転移に加え、こんなことも起きてきた。
一旦、カナタはその疑問を頭の隅に押し込んだ。
そして――、
「この辺のことが全然分からなくて。良ければ案内してもらえませんか?」
カナタの頼みに二人は目を合わせてから、こちらを見た。
「良いよ」
「ありがとうございます」
「敬語じゃなくて良いよ。そうだ、名前は?」
少年が手を差し出してくる。
「夜凪叶向。二人は?」
「俺はライン」
「私はセツナ。これの妹」
「これって言うなよ……。ま、良いか」
ラインとセツナ。カナタはその名前と顔を、写真を撮るように記憶した。
――だが、この二人と、どこかで関わったことがある気がする。その感覚はまだ、うまく言葉にできなかった。




