第3話-2『異世界で居候』
「――とまあ、こんな感じか。得意じゃなくてさ、これくらいで大丈夫か?」
「うん、大体分かった」
商店街を歩き、魔法学園を遠くから眺め、気づけば陽が西側に。
異世界を回って、驚くことは多かったが、不思議と見覚えのある景色もあった。
頭痛のたびに流れ込んでくる映像と、所々で重なったのだ。
(異世界ってこんな感じなのか……。てか、言葉が通じて本当に良かった)
文字は全く読めないが、会話ができるだけで全然違う。この世界でひとりぼっちにならずに済む、という安心感は思った以上に大きかった。
――と、気づけばもう夜だ。空気が冷えてきた。
野宿は嫌だが、二人に泊めてくれとお願いするのも厚かましい。どうしたものかと思っていると、ラインが先に口を開いた。
「俺らの家泊まるか? 部屋はないけど」
「い、良いのか? じゃあ頼む」
まさか、ラインから提案が来るとは思わなかった。が、嬉しいことこの上ない。
二人に頭を下げ、後をついていく。しばらく歩いて辿り着いたのは――、
「でかくね……?」
視界に収まりきらないほど巨大な屋敷だった。
広い庭と、庭園には手入れされた花壇が広がっている。
門の前で呆然と立ち尽くしていると、二人はすでに歩き進めていた。
慌ててついていくと、重厚な扉が屋敷の内側から開けられた。そして――、
「お帰りなさいませ、ライン様、セツナ様。――カナタ様、でよろしいでしょうか?」
「え」
出迎えたのは、銀髪をリボンで結んだ少女だった。猫耳と尻尾がついた黒白のメイド服姿で、一目でメイドだと分かる。これが獣人というものか。
――それより、なぜカナタの名前を知っている。
「なんで俺の名前を?」
「私が教えた。さっきセレナにテレパシーで」
セツナがさらりと答えた。テレパシーか。なるほど、そういう手があるのか。この世界では普通のことなのかもしれない。それを深く追求するのはやめた。
「どうぞ」
「あ、どうも」
促されて屋敷に入り、眺める。
天井には磨き上げられたシャンデリアが下がり、壁沿いに並ぶランタンがオレンジ色の光を揺らしている。日本のどこを探してもこんな場所はない――と思う。
「ちょうど晩ご飯なので、食べますか?」
「良いんですか? じゃあお言葉に甘えて」
ダイニングへ向かうと、大きなテーブルに先客がいた。
「おかえり二人とも。その人がカナタ君?」
「おかえりラインお兄ちゃん! セツナお姉ちゃん!」
「えぇ……」
ラインとセツナと同じ顔が、また二つ。性別も背丈も髪型も少し違うが、並べれば見分けがつかないくらい似ている。四人も同じ顔がいるという状況に言葉が出ないでいると、ラインが肩を叩いた。
「俺ら四つ子だからさ。あっちが弟のアレスで、そっとが妹のレンゲ」
「よろしく」
「よろしくねー!」
「あ、うん。よろしく」
落ち着いた目をした少年がアレス、腰まで届く赤髪を揺らして笑う少女が、レンゲ。
カナタは息を呑んだ。
この四人だ。さっきの頭痛の映像で見た、真っ白髪と瞳を持つ四人。今は髪と目の色だけが違うが、それ以外は、全部一致している。
――会ったことも、見たこともないはずなのに。
「ど〜ぞど〜ぞ〜。座ってくださいね〜」
もう一人のメイドに促され、席についた。気だるそうな金髪ツインテールの少女で、猫耳も尻尾もない。
一体どんな料理を食うんだと思って見てみると、テーブルの上には、誕生日かと見紛うほど豪勢な料理が並んでいた。
「……毎日こんな料理食べてるの?」
「そうだな。セレナとエルフィーネが作ってくれてるし」
ラインがそう答えると、全員が席につき、両手を合わせて「いただきます」と言った。
(この世界にもあるんだ……)
その小さな発見に少し笑うと、テーブルに置かれていたフォークをとって、料理に刺す。
――美味い。驚くほど美味い。コンビニ弁当ばかりの一人暮らしに慣れた舌に、染み込んでくる。
気づいたら夢中になっていた。
「そんなに美味しいですか? 良かったです」
「めちゃくちゃ美味しい」
夢中になりすぎた。
だから彼は気づかなかったのだ。
――廊下の角に身を潜め、値踏みするような目でカナタを見つめる、白銀の髪と瞳を持つ女性がいたことを。




