第24話『『知恵の神』』
――見慣れた天井。そうカナタは思った。なぜベッドで寝ている? 確か、昨日は制服を取りに行った帰りに、変な男に襲われた。そこまでは覚えているが、それ以降のことを思い出せない。
「ん……」
ゆっくり身体を押し上げると、足を組んで椅子に座っているラインと目が合った。
「あ、起きたか。身体は大丈夫か?」
「うん。全然なんともない。昨日の記憶が曖昧なんだけど……」
「昨日、変なやつに襲われただろ? あの後、アレスがお前をここまで運んだんだが、全く起きなかったらしい。疲れてたのかもな」
ああ、そうだった。アレスが担いでくれたのだった。後で会ったらお礼をしなければ。そう思っていると、ラインが突然質問を切り出した。
「お前も一度、身体を腐敗させられたんだろ?」
「ああ、そうだよ。あれは本気で死ぬかと思った。俺の《破壊》って『権能』が発動して、取り払ってくれたんだ。その後、治癒魔法で身体を治して……。あれ?」
「どした?」
昨日は何の不思議も思わなかったが、今ラインと話して、違和感を覚えた。首を傾げ、カナタを見つめるラインに「あ、いや……」と返し、
「グレイスが言ってたんだ。腕を無くしたりしたら、魔力の燃費の関係で再生できないって。でも、俺の身体は溶けて、皮膚もぐちゃぐちゃだったんだ。なんで再生できたんだろ……」
「……さあな。火事場の馬鹿力ってやつじゃないか? とりあえずは運が良かったと思えばいいだろ」
と、ラインは答えた。正直あまり納得しないが、原理も分からないし、これ以上考えるのはやめた。
「なぁ」
ラインに呼びかけられ、カナタはゆっくり立ち上がりながら目を向ける。
「頼みがあるんだけど、ちょっと来てもらえるか?」
「え? もちろん良いけど、なんで?」
「昨日の男の腐敗させる力。あれを解析する」
◆◇◆◇
「昨日の男の腐敗させる力。あれを解析する」
そう言ったラインの後ろに続いて、カナタは廊下を歩いていた。相変わらず広い屋敷だと思うが、端まで着くと、ラインが左手側にある扉に手をかけた。
そして、ゆっくりと開くと、大量の本棚が置いてある部屋が目に入った。
前は、グレイスの屋敷にある図書室に入ってしまったことがあるが、それとはまた違って、ここは図書館のような空間だ。
「すっげぇ……。本が沢山……。え? 誰?」
タイトルが読めないずらっと並んでいる本に目を通して、奥まで目を向けると、椅子に座っている白銀の髪の女性がいた。
「――おや、来たようだね」
優しくもミステリアスな声色で、開いた扉の方に目を向ける女性。その瞳も、髪色と同じく白銀で、そして何よりも、
(めっちゃ美人……。え、えぇ? 綺麗……)
もう言葉で言い表せないほどの美人だ。神秘的な美貌を持ち、びっくりするほど綺麗な正面顔がカナタの瞳に映った。
「……はじめまして、だよね?」
「あ、えっと……。は、はい。はじめまして、ですね」
何か変な質問だとは思ったが、カナタは上手く言葉が出てこなくなり、焦りながらそう答えた。
一定の間があり、女性は「……そっか」と呟き、
「君の名前は知ってるから、私の自己紹介をさせてもらうね」
「は、はい」
「――私の名前はアステナ。『知恵の神』でもある。好きな方で呼んだら良いよ」
……は? 今何と言った? 『知恵の神』とそう言った。彼女は神様なのか。そりゃ異世界だし、そんな強い力を持つ人がいてもおかしくはないが、こんな普通に話してくれる感じなのか。
「え、か、神様なんですか?」
あまりの衝撃で敬語になってしまう。すると、女性はクスッと笑い、
「いや、別に敬語じゃなくていいよ。――とまあ、お話はこの辺にして、三人を呼んだのは、君たちが腐敗の攻撃を受けたからだ」
三人? 今ここにいるのはラインとカナタだけ。残り一人は……と考える間もなく、もう一人は現れた。
「僕は身体に広がる前に腕を切り落としたから、役に立てるか分からないけど……」
「一応ね。人は多い方がいいよ」
もう一人とはアレスのことだった。彼も腐敗の攻撃を受けたのだが、一瞬の判断で腕を切り落とし、全身まで広がることはなかった。
それでも、攻撃を受けてはいるので、何か情報を得られるかもと感じ、アステナはアレスも呼んだのだ。
「それじゃあ、早速始めるね」
アステナはゆっくり立ち上がり、そう言った。
その瞬間、カナタ、ライン、アレスの身体に銀色のオーラが光った。
(え、な、なにこれ!?)
そう声に出そうになりながらも心の声で我慢し、ラインとアレスがしているように目を閉じる。
――二分くらいたっただろうか。身体にまとわりついていた銀色のオーラが段々と消えていくのを何となく感じる。
「はい、終わりだよ。ちょっと解析に時間かかっちゃったね」
たった二分程度で見知らぬ技を解析出来るのは流石神様だと思う。
――っと、それよりも解析結果を知りたい。カナタが質問するより先に、ラインが急かした。
「それで、どうだったんだ?」
「簡単に言わせて貰うけど、君たちが受けた攻撃は……」
三人とも唾を飲み込み、その口から紡がれる言葉に聞き耳を立てる。
そして、アステナが呟いた。
「――呪いだよ」
そして、知恵の権化はニヤッと笑った。




