第21話『相次ぐ被害者』
「あ、う……。――痛っ!?」
突然、頬に強い痛みが走った。何事かと一気に目が覚め、開く。すると、目の前には屈んで心配そうにラインを見ながら、彼の頬を強く引っ張るセツナがいた。
「せ、セツナ? どうして……」
「お兄ちゃんが倒れてたのをアレスが見つけてね。ここまで運んだわけ。何かあった……の――!?」
突然ぎゅっと抱きついてきたラインを離れさせようとするが、ラインの方が力が強く、できなかった。
「……ねえ、気持ち悪いんだけど。どいてよ。何で急に抱きついてくるわけ?」
「良いだろ別に。本物のセツナで安心しただけだ」
「意味わかんないんだけど。……好きにすれば」
セツナのフリをしていた謎の存在との戦いを終え、本物のセツナと会ったラインは心が落ち着いた。
「あ! ラインお兄ちゃん起きたー! 大丈夫!?」
ラインの身体が起き上がっているのを見て、遠くからそう叫び、はしゃぎながら来る末妹のレンゲ。そちらに目を向けようとしたラインだが、
「うえっ!?」
と、声が漏れてしまう。なぜなら、そこは――というより、この空間が不思議な場所だったからだ。さっきまで戦っていた大草原でもなければ、彼らの家でもない。
目に映るのは、金色の空に、光が流れる滝などといった神秘的な光景だった。
なんでここに? と驚いて周りを見渡していると、後ろから声が聞こえてきた。
「あら、起きたの? 良かったわ。アタシのおかげね」
そう言って歩いてきたのは、薄い青色のストレートヘアーと水色の瞳を持った美少女だった。
「え、アクアさん? なんでここにいるんですか?」
「アレスがアタシのところまで飛んで来たのよ。ラインがどうやっても起きないからどうにかしてくださいって」
ラインに「アクア」と名前を呼ばれた女性はそう言って、胸の下で腕を組みながら話し続ける。
「アレスも突然無茶なこと言うわよね。ま、良いわ。身体の傷は治したけど、痛くはない?」
「あ、はい、大丈夫です。どこも痛くないですね」
「アタシが治すまで、腕は腐って溶けてるし、全身が酷い状態だったわよ?」
ラインは自らの持つ力を使って身体を浄化した。それは、彼の身体を蝕んでいた何かを消し去っただけで、傷を治す前に彼は気絶してしまっていたのだ。
それをアクアが治したことで、今に至るというわけだ。
「一体何があったの?」
「実は……」
――アクアの質問に、ラインは答えた。セツナのフリをした謎の存在と戦ったことと、腕を触れられた途端に身体が腐り始めたことを。
「触れられただけで? そんな技聞いたことも見たこともないわね。魔法でも『権能』でもないでしょ? ――って、アタシが深く考えなくても良いわよね。知識の権化みたいなやつがいるし」
どれだけ考えても出てくるはずがない相手の正体を考えるのをやめ、アクアは何者かにそれを託した。
「ま、ラインお兄ちゃんが起きたし良いよ! 帰ろ!」
レンゲにとっては兄が起き上がったことが嬉しくてたまらない。元気に両手を上にあげ、喜んだ。
「ああ、帰るか。――身体治してくれてありがとうございました」
「良いのよ。――あ、ちょっと待って」
三人で帰ろうとしているところを、アクアは声をかけて制止した。
そして、
「これ、渡しとくから持ってなさい」
と、右手を前に出してそう言った。すると、彼女の掌から青色の光の粒子が一粒だけ放出され、それがラインの身体へと入っていった。
「え、良いんですか?」
「良いも何も、元々ラインたちのものだわ。それに、少しだけだから気にしないで良いわよ」
何かを分け与えてくれたアクアに頭を下げ、三人はこの空間から消えていった。
◆◇◆◇
(はぁー、やっっと終わった……。制服買うまで長すぎだろ……)
商店街にある服屋から姿を現し、カナタは大きくため息をつく。
意外と、サイズを測るのに時間がかかってしまった。さらに、店員さんの話も長く、普通に制服を受け取るより倍以上の時を食ってしまったのだ。
「えーっと、アレスは本屋にいるんだっけ? でもこんな長い間本を見てないよな。まあとりあえず探すか」
いくら本を買うとはいえ、こんなに長い時間を本屋で過ごしているわけはない。そう感じながらも、合流するためにアレスがいる可能性のある場所は片っ端から見ていこうと考えた。
「――――」
制服を入れた袋をぶら下げながら、ゆっくり歩く。段々と人の気配が無くなっているのを感じる。
「……ん?」
前からゆっくり近づいてくる男が見えた。普通なら何も気にとめないが、何故か足が止まってしまった。陽光による眩しい光を手で遮りながら、まっすぐ見るカナタ。
「なっ……! カナタ! 逃げて!」
「え? ……あっ」
その男よりさらに向こうからアレスが走ってくるのが目に入った。「逃げて」と、その声が耳に届いた時には、――もう遅かった。
「――さあ、見せてくださいよ」
カナタの目の前に瞬時に現れ、彼の腕に触れて一歩下がる。
その男こそ、つい先程までラインと戦っていた、謎の存在だった。
――腐敗の攻撃が、一気に広がった。




