第18話『入学試験の結果は』
「ん……あ、れ……ここは……」
「あ、起きた?」
カナタが目を覚ますと、見知らぬ天井が目に入った。ふかふかのベッドの感触に埋もれながら、声のした方に顔を傾けると、心配そうにカナタを見つめるアレスがいた。
「俺、確か頭痛がして……」
「うん。だから、僕の部屋に連れてきたんだ。頭痛持ちは大変だね。昔から?」
「ああ、子供の頃からだよ。動けないくらい酷い痛みが来るからさ、マジでキツい」
そう言いながらゆっくり立ち上がろうとするカナタを手で制止し、グラスに水を入れて目の前にある机に置いた。
「とりあえず飲んで」
「ありがとう」
ゴクゴクと喉を鳴らし、水を飲む。喉が乾いていたので、かなり美味しく感じた。そしてグラスを机に置くと、アレスはまた話し始めた。
「頭痛ってどんな感じ? 痛みだけが襲ってくるだけで、それ以外は何もないの?」
「え? いや、それだけじゃなくてさ。見た事ないような記憶がずっと流れてくるんだよ。自分で言うのもなんだけど、俺は記憶力めっちゃ良くてさ。そんな景色は絶対に見たことないわけ」
「変だね。夢みたいな感じなのかな? どんな景色が見えるの?」
「よく見るのは赤い空とか真っ白の髪を持った人とかなんだけど。後さ」
そこで言葉が途切れる。首を傾げ、カナタを見つめるアレス。彼の緋色の瞳をじっと見つめ、カナタは呟いた。
「この世界みたいな景色もあったんだ。俺は、ここに初めて来たっていうのに。おかしいとは思わないか? 俺の、気のせいって可能性もあるけどさ……」
「……。異世界人の君に、僕たちの世界の景色が流れてくるのは奇妙だね。残念ながら、僕たちは君以外に異世界から来た人を見た事はない。でも、調べてはみるよ。なにか原因があるかもしれないね」
そこまで言った瞬間、部屋の向こうから大声が聞こえた。
「おい! 降りてこい! カナタ、お前の結果が届いたぞ!」
「え!?」
一気に頭が真っ白になる。どういうことだ? 結果が来るのは明日ではなかったのか? もしかしたら、受験者がカナタだけだったし、すぐに結果を出したという可能性がある。
だがそれよりも、可能性の高いことと言えば――
「――なあ、もしかして、俺って頭痛で倒れてから一日寝てた?」
「うん、そうだよ」
と、いうわけだった。最悪すぎる。カナタにとっては、試験の結果が一瞬で届いたみたいなものだ。心の準備など出来ていない。
「それじゃあ、降りようか」
そう言って部屋から出ていくアレスに着いていき、階段をゆっくりと降りる。その先には、茶色い封筒を持って立っているラインがいた。
「おはよう。一日ぶりだな。これがお前の結果だ」
「ああ、ありがとう」
ラインから受け取った茶封筒を手に取る。
軽い。紙が何枚か入っている程度の重さしかない。
「あ、開けるぞ」
心臓をバクバクさせながら封を切り、中にある紙を引き出す。まだ裏面だ。表に返したら、合格か、不合格かが分かる。
「ふぅ……」
「大丈夫だって。グレイスのキツい修行を耐えたんだろ? 自分を信じろ」
ラインにそう言ってもらい、覚悟を決める。目を閉じたまま深呼吸し、開眼させた。
そして、紙を表に返すと――
「合、格!? 合格だ! 合格してるじゃねえか!」
そこには、この世界の文字で「合格」としっかり書かれていた。ラインが大声でそう言ってくれたので助かったが、正直に言ってカナタは、
(……何これ? なんて書いてるんだ? どっち?)
と思ってしまった。この世界の文字を読めないし、当然だろう。しかし、合格ということで段々と嬉しさが込み上げてきて、頭を抱えながら顔を上に上げる。
「凄いね。元々この世界の人じゃないのに、魔法を教わってすぐに合格出来るなんて」
「グレイスのスパルタ訓練が効いたんだろうな。こいつ、記憶力も良いみたいだし、飲み込みが早かったんだろ。――ん? 下になんか書いてあるぞ?」
カナタが合格した嬉しさで、それ以降を見るのを忘れてしまった。目線を下げ、小さく書かれている文字を見る。
「えーっと、制服を受け取り、準備を終わらせて三日後から通えって書いてあるな」
「あ、三日後なんだ。結構猶予あるね。……制服か。受け取りってどういうことだ? 学校で貰えるの?」
「商店街に服屋があって、そこで受け取れるんだよ。まあ、誰でも貰える訳じゃなくて、この合格通知書を一緒に持っていかないといけないけどね」
そうか、通うには制服も必要なのか。一体、どんな制服なんだろうか。
そう思っていると、先にラインが突然、空を振り払った。
「まあ、男用の制服は全部こんな感じだ」
彼の手には、先程まで無かったはずの制服があった。異世界だから、なにか特別な感じか……と言われるとそうでもなかった。
紺色のブレザーに白シャツ、そしてズボンという、なんとも普通のものだった。
「これ、耐久力凄いんだ。普通の魔法くらいなら耐えられるし、ほとんど傷もつかない」
それは凄い。この服を着ておけば、何かと危険なものから身を守れる。かなり優秀な制服だなぁと感心するカナタだったが、疑問が浮かんできた。
「え、そういえば、今どうやって制服を出したの? 持ってなかったよね?」
先程、ラインが空を手で振り切ると、彼の手には制服があった。どういう理屈だ? 魔法? それとも『権能』なのか。質問を受けたラインはアレスと目を合わせ、
「……まあ、魔法みたいなもんだ。うん」
と答えた。
「なんだそれ? ハッキリしないなぁ」
「ま、良いでしょ。合格通知書も届いたことだし、今から商店街に行こうか」
はぐらかすラインに不服そうな顔を向けるカナタだが、アレスがクスッと笑い、商店街に行くことを提案した。
二人ともそれを承諾し、三人で玄関まで歩いていく。
ギギギ……といった音を出し、開く大きな扉から外に出て、その身に陽光が突き刺さってくる。
再び、音を出しながら閉まる扉。玄関の向こうには――
「……はぁ、危機感がないというか、なんというか」
――そう呟く白銀の髪を持つ女性の手には、先程までラインが持っていたはずの、彼の制服が大切そうにぎゅっと握りしめられていた。




