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第3章45話『無属性魔法』


『はぁ、混合魔法に治癒魔法に闇魔法か。特に面白みもない試験だな』


 カナタの視界をそのまま共有するビフロンは、心の中でそう呟く。別に難しくもなんともない試験を見せられてもワクワクしないし、何も面白くない。

 早く終わってくれ。そう、思ったときだった。


「じゃあ、無属性魔法を使ってみろ」


 それは、カナタの担任であるカイラス先生の発言。

 一気に笑みが――いや、現在身体の主導権を握っていないから表情はうごかせない。が、予想外の試験が最後に来て笑みがこぼれそうになった。


『ハッ、面白いことをいう教師だな。無魔法は誰にも使えやしない。まあそんなことを人間が知るわけないから、こんな試験を持ってきたのだろうがな』


 無属性魔法は、現在世界で失われた魔法だ。そんな魔法があったということは、国内最高峰の学園に通う生徒や教師はもちろん知っているが、一般人は知らない。

 それくらい、身近ではないものだ。


 これまで世界中の魔法学者が解明しようとしてきたが、詠唱ももたらす効果も不明のまま。今の人間たちが、どう足掻いてもできる品物ではないのだ。


「――。はぁ、絶対に何も文句言わないでくださいよ……?」


「言うわけないだろ。挑戦くらいしてみろよ」


 そんな会話を聞きつつ、ビフロンはカナタが構えるのを待つ。


 指を前に向け、魔力を集め、いざ魔法を放とうと詠唱を考えるカナタの口が開く。


「――――」


『――ヴォイド』


 それより先に、ビフロンが体内で詠唱。その声はカナタ以外には聞こえないものだ。

 同時に、指先から魔力が漆黒の物体に変化し、


「うえっ!?」


 ――発射される。それは真っ直ぐ、奥に生えていた木にぶつかり、その木を消滅させたのだ。


「え、は、はぁ?」


 ビフロンの声が聞こえたと思えば魔法が発動し、カナタは腰を抜かしてその場に倒れてしまう。


「お、おい!? 何してんだ!?」


『無魔法を詠唱してやっただけだぞ? 良かったな。試験クリアだ』


「ま、まあそれはそうだけど……。な、なんでお前詠唱を知ってたんだ……!?」


『簡単だ。それは俺が――』


「ちょっと待て!!」


 そう、先生が叫ぶ。

 カナタとビフロン。本人格と別人格が会話中であるが、別人格の声は外には聞こえない。そのため、先生からすればカナタが一人で突然喋り出すヤバいやつに見えた。


 ――だがそれよりも、先生が生きてきた中で見たことない魔法に驚いたのが、今の発言を引き起こした。


「お、お前、今のどうやったんだ!?」


「へ……? あ、え、えと、なんか勝手に……」


「勝手にだと!? そんなわけ……。あ、そうだ、もっと詳しく聞かせろ!!」


「ちょ、な、なんでそんなにはしゃいでるんですか……」


 今までで一番はしゃいで見える先生に詰められ、カナタは地面から立ち上がろうにも立ち上がれない。

 そうしているとクラスメイトたちの視線もこっちに向かってきて、野次馬になってきた。



 ――ど、どうすればいいんだ? 俺はなにを……。ていうか、ダメなことやっちゃったんじゃ……?



 そう、思ってしまう。無属性魔法がこれまで人類が使えなかったのであれば、それを成功させてしまったカナタは間違いなく尋問を受けるであろう。

 どうして使えたのか、詠唱を知っていたのか、どうして世に公表しなかったのか。などなど、そんなことを聞かれるのではと思ってしまう。


 ――それは、本当にまずい。


『なんだ? なにを怖がっている?』


 この状況下でも、詠唱をしやがった本人はこのザマだ。もうなにも文句を言うつもりもないが、こっちの気分も察して欲しい。


『――。ああ、そうか。確かに危険なことをしたかもな。質問攻めされるんじゃないか?』


 誰のせいだと思って……。

 と思ってしまうが、口には出さない。とりあえず今すべきは、この状況を打破することのみ。

 どうにかして、誤魔化せないだろうか。


 ――無理だ。何も、案が思い浮かばない。


 どうしろって言うんだ……?


 そう、弱音を吐く。


『ハッ、ここが学園で良かったな』


「はぁ……いきなりなにを言うんだよ……?」


 ここであれば、何としてもカナタから情報を引き出したいと考えるやつに拷問されずに済むとか、そういう意味だろうか。

 そんな嫌な考えをしていると、再度ビフロンは笑う。


『そんなことを言っているんじゃない。ここは魔法学園だろ? いるじゃないか。あいつが』


「あいつ……? 誰のこと言って――」


「はいはーいー。みんなーこっちに注目ー」


 カナタと野次馬たちの声をかき消すような大声が、空から。

 全員がパッと見上げると、そこにはピンク髪の少女、サフィナ・カレイドがいた。


「サフィナ……?」


 カナタだけでなく、誰もがそう思ったはず。そんな声が、チラチラと聞こえてきた。


 真っ直ぐ、生徒たちはサフィナを見つめる。

 それにサフィナは動揺もせず、右目を手で隠した。

 そして、ピンク色の左目を開眼させ、瞳が満月のような銀色に輝いた。すると――、


「――《夢虚(ムーンフェイン)牢城(・セラリウム)》」


 そう、謎の言葉をつぶやく。

 そして次の瞬間、


「――あ、え……?」


 カナタの……いや、先生に生徒たちの意識は途絶えた。



◆◇◆◇



 ――流石だな、サフィナ。

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