第3章44話『――ヴォイド』
「――次はヨナギだ。早く来い」
「あ、行きます行きます!」
一人一人が早すぎる速度でテストを終わらしていき、すぐにカナタの番になってしまった。
大声を出す先生のもとまで向かうと、先生はカナタをじっと見て、
「じゃ、始めるぞ。魔法を四つ使ってもらう。簡単から応用まで幅広くだからな」
「あ、はい、わかりました」
カナタの返事を聞くと、先生は、
「まずは炎と雷の混合魔法を使ってみろ」
そう来たか、とカナタは思う。だがこれは大して難しいものではない。
この学園への入学試験で、カナタは魔法を混合させる方法を知っている。
あのときは雷と風だったが、今回は炎と雷になっただけである。
それならば、
「それじゃあ……。ライトニングフレイム?」
詠唱がこれでいいのかわからなかったが、とりあえず思いついたのをつぶやく。
炎魔法の「フレイムスパーク」と雷魔法の「ライトニングサンダー」を合わせてみた。
指を構え、魔力を集中させ、雷と炎魔法に変換して外に出す。
――成功だ。
「まずは成功か。良いだろう。次は二つ目だ。手を出せ」
「え? どうぞ――ッ!?」
言われた通り手を出すと、手のひらに軽く切り傷ができた。
突然の痛みに襲われて混乱しながら先生を見つめると、
「治癒魔法をしてみろ」
いくらなんでも、何も言わずに傷をつけてくるのはどうかと思う。
が、それを口に出したところでだろうし、カナタは考えてもいなかったが、この世界は日本のような法律はないのかもしれない。
文句を言うことなく、
「えっと……こうですか?」
以前グレイスに教わったように、魔力を傷に集めて、皮膚を繋げる。そして流れた血液を魔力で補完すれば……完璧だ。
「ま、そうだな。これくらいは序の口だしやってもらわなきゃ困る。さて、次は……」
先生はそうやって唸り、「あ」と声を出す。そして、
「なら、闇魔法を使ってもらうか。シャドウ・パルスを使ってみろ」
「えぇ、なんですかそれ……?」
『シャドウ・パルス』という闇魔法を使え、と言われたが、そんなもの知らない。カナタが知っているのは、相手の視界を奪う『シャドウ・エクリプス』だけである。
そんな魔法は知らな――。
いや、知っている。なにせカナタは、ファルレフィア邸の図書室で何冊もの魔法の書物を読んだ。その中にはもちろん闇魔法についても書かれていたのだ。
「だけど……」
とはいえ、だ。ただ読んだだけで実践できるわけではない。カナタは見た魔法を再現するのはできるだろうが、ただ知っているだけの魔法を使うとなると、これまた違う。
かなり、難しいだろう。
「どうするか……。とりあえず、いつも通り魔力を手に流してみるか……」
書物の内容から、『シャドウ・パルス』は闇属性の衝撃波を出す魔法だとわかっている。だからまずは、手の先に魔力を集める。
「このまま闇魔法に変換していいのか……?」
そう呟きながら、魔力を変換――。
『待て。それじゃあ闇魔法をエネルギー弾みたいに出すだけになるぞ』
と、ビフロンの声が耳に入る。横槍を入れられた気分だが、ここで変に声を出せば先生に不審がられてしまう。
こいつに教わるのは嫌だと思いつつも、カナタは心の中で、「じゃあどうやるんだよ」と考える。
するともちろん、カナタの心を読めるビフロンは笑い声を上げ、
『溜めた魔力を一気に外に出せ。そうしたら魔力が一気に解放されて、衝撃波が出るぞ』
そんなやり方なの?
と心の中で呟き、カナタは言われた通りに、溜めた魔力を一気に外に出す。
まるで雷鳴が落ちたかのような大きな音が耳をつんざく。
顔をしかめ、耳を抑えながらも、手から出た黒い衝撃波を観測する。
同時に先生もそれを見つめ、
「へぇ、やるじゃねえか。教えたことないのによくやったもんだ。本でも読んだのか?」
「ええ、まあ。魔法の本をちょっと読み漁ってたんで」
「なんだ、お前そんなにやる気あったのか? わざわざ自分から魔法の本を読むとはな。どうだ? 俺と魔法の訓練するか?」
「いや、結構です……」
魔法への意欲があるカナタに、直々に訓練をしようとする先生。いつもの怖い先生からうってかわって、かなり優しい先生に思えてきた。
――まあ実際そうなのだろうし、誘いは嬉しい。
が、カナタにはそんなことをわざわざする時間はない。何より一番極めたいのは魔法じゃなく、世界を滅ぼす力なのだから。
誘いを断られた先生は特に表情を変えず、
「そうか。じゃ、最後の魔法だな」
そう言って、先生はどの魔法をカナタに演じてもらうかを悩み始める。顎に手を当てて、「うーん」と唸り、
――ニヤリと笑みを浮かべた。
「お前、本を読み漁ったって言ったよな?」
「え? まあ言いましたけど……それが?」
一体何を言われるのか。と構えていると、先生はその笑みを崩さずに、
「前の小テストでも出したから覚えてるだろうが、無属性魔法を知ってるだろ?」
「ああ、確か、今はない属性魔法じゃなかったですか? 本を読みましたけど、詠唱すら書かれてませんでしたし、何もわからないんですよねー」
以前あった小テストにて、無属性魔法を答える問題があった。しかし、あの後に大量の本を読み漁ってみても、詠唱に関することは何一つ書かれていなかった。
さすが、現在は失われた属性魔法というわけだ。
――カナタには、何やら嫌な予感がした。突然無属性魔法のことを聞かれるなんて、一体どういうことか。
まさか――、
「じゃあ、無属性魔法を使ってみろ」
「……はい? いや、詠唱知らないんですけど……」
「まあこれはもうテストっていうよりはただの実験だ。できなくても別に何も言わん。俺だってできないし。でも、本をたくさん読んだんだろ? 少しくらい挑戦してもいいんじゃないか?」
挑戦は大事、だ。やらないよりは絶対にやった方がいい。しかし、詠唱も、魔法の効果も全くわからないのに、挑戦しようもなにもない。
「――。はぁ、絶対に何も文句言わないでくださいよ……?」
「言うわけないだろ。挑戦くらいしてみろよ」
そんなことを軽く言ってくる先生に、「まじかこいつ」といった目を向けながらも、カナタは右手を前に出す。
詠唱はわからない。だから、とりあえず魔力だけを指先に集めた。
――さて、どうしようか。ここからどうやれば無属性魔法を発動できるのか。
思い当たりもなにもない詠唱だが、適当に言葉を紡ぐだけにしようか。
「はぁ」
そう思考しながらため息をつき、カナタは口を――、
『――ヴォイド』
次の瞬間、漆黒の物体が射出された。




