第3章43話『学園生活』
「――じゃ、今日はちょっと魔法のテストをするか」
魔法実習場での五限目の授業が始まるとすぐに、担当のカイラス先生はそう言い出した。クラスメイトたちが「は」や、「えー」と嫌がる声が聞こえるが、先生は腕を組み、
「なんだ、お前らがちゃんと魔法を覚えてるか訓練しないと意味ないだろうが」
「えー。じゃ、どの魔法のテストするか教えてくださいよー」
「教えるわけないだろ。全員ランダムで行くぞ?」
それは難易度とかの観点で評価できるのかと思いつつも、カナタは黙って隣の『魔導師』グレイスを見る。
「なんか、余裕そうじゃん」
「あ? そりゃそうだろ。俺はどんな魔法でも扱えるからな」
「ズルいなお前……」
流石『魔導師』だ。一人だけ動じず、腕を組んで立っている。――いや、動じていないのは他にもいる。
ラインたち四つ子にメイド二人、ロエン、サフィナと動じず立っている。
――一方で、友達で一人だけ焦っているような、悩んでいるような姿をした少年を見つけた。
「――っと」
カナタはフッと笑ってその場を動き、銀髪に青みがかった少年のもとへ向かう。そして肩を叩き、
「なんか心配そうじゃね?」
「――。うん、そうだね。僕は魔法が凄く得意という訳じゃないからさ。抜き打ちのテストは困ったものだよ」
両手を横に広げ、参ったと言わん顔をする『剣聖』アッシュ。剣の腕はそれはもう素晴らしいというのに、魔法が苦手なのはちょっと面白い。
「――じゃ、出席番号順に始めるから、テストを受けない奴らは各々練習でもしとけ。一番は今からやるぞー」
「は、今からですか!? いや、ちょ……」
「早く来い」
その圧に圧迫され、出席番号一番の生徒は渋々と先生について行った。
「えーっと、俺は夜凪だから結構後ろのほうか。ラッキー」
誰かと一緒に練習するのも良い――とは思うが、カナタは一人で少し離れたグラウンドに行った。
◆◇◆◇
「――さてと。そろそろ出てきてもいいぞ?」
『別に場所を変える必要はなかったのではないか?』
瞬間、カナタには声が響く。それは、別人格であるビフロンのものだ。
その声が聞こえると、カナタは目を細めて、
「人がいるところで独り言呟いてたらヤバいやつに思われるだろうが。お前俺に話しかけてきすぎ」
『別に良いだろう。俺はお前だ。自分同士で会話することの何が悪い?』
「悪いっていうか、めんどくさい。一々話しかけてくるな」
さっきから、ビフロンは何度もカナタに話しかけてきていた。その声はカナタにしか聞こえないとはいえ、流石に話しかけられすぎて邪魔に感じる。
そのことを伝えても、ビフロンは悪びれもせずに、
『全く冷たいものだな。――で、お前は魔法の練習でもするのか?』
「うーん、どうしようかな。どんな魔法出されるかわかんないから、俺はテストの様子を観戦しとこうと思って」
カナタは、一度見た魔法は原理がわかれば使用出来る。そのため、先生に出されるテストを受けていくクラスメイトの姿を見て、魔法の記憶を蓄えようと考えたわけだ。
『それならば、俺がテストを受けてやるから身体を渡せ』
「渡すわけないだろ。どの立場でお前言ってんだよ」
昨日、ビフロンを信じて身体を貸したが、なんとこいつは『時間の神』と『生と死の神』に喧嘩を売りやがった。
何もしないと言っていたくせに、だ。
さすがに信用出来ず、カナタは身体を渡すことを強く拒んだ。
『仕方ないだろう。先に俺を脅したあいつらのせいだ』
「責任転嫁するんじゃねえ。とりあえず、俺はお前に身体を貸す気はないからな。この身体は俺のものだ」
『俺のものだ』
「俺のものだよ」
『いや俺のものだ』
「だから俺のもの!」
「何してんだよお前……」
後ろから急に声をかけられ、カナタはビクッとして振り向く。そこには、呆れたような顔をして腕を組んでいるラインがいた。
「――また、二人で話してるのか?」
「ああ。俺の身体の主導権がどっちかって言い合いをな」
「ハッ、仲良いじゃねえか。なあ、ビフロン?」
『――――』
昨日、カナタは四つ子にもメイド二人にも『剣聖』にも『魔導師』にも王女様にも、別人格がいることを伝えている。
しかし、ビフロンはあからさまに、四つ子に話しかけられたときはこうやって何も答えなくなるのだ。
もしや、神様である四人が怖いのではなかろうか。
――否、彼は『時間の神』などにも喧嘩を売るやつだ。神様どうこうは関係ないのだろうか。
――と、考えていると、
「相変わらずなんも話してくれないな。嫌われてんのか、俺」
「どうなんだろうな。神様とか関係なく、普通にラインたちが怖いだけとか?」
「――。いや、別にそんな交流ないから怖がられるわけないんだが……」
二人で「うーん……」と唸りつつも、わからない。ビフロンがなにか答えてくれたらいいのだが。
「まぁ、いいや。ところでライン、お前ってテストをクリア出来る自信ある?」
「ん? まあ、魔法は普通にできるからクリアできると思うけど」
「だよな。お前に聞いたのが悪かった」
なんでもできる『創世神』相手にそんなことを聞いたって、できるに決まっているだろう。
それならば、カナタのすることは、
「見て覚えるか」
ただそう呟き、黒い瞳を後ろに向ける。
なぜなら既に、この世界で最強の魔法使いの『魔導師』に順番が回ってきたのだから。




