11、始めての医務室!
幸いなことに、医務室までの道のりの中に扉は無く、ファリヴィアさんがあれからジャンピング扉開術をしたのは医務室の扉を開ける時のみだった。…出来れば医務室の扉はちゃんと開けて欲しかった。僕の部屋の時は誰もいなかったからいいけど、医務室の時はたまたま近くを通りかかったボブの女性にギョッとされたの、僕、見てたからね。
…いやー、それにしても、ファリヴィアさんって、意外と男勝りなんだなぁ。ジャンピング扉開術なんか男まさ…いや、あれは男でもやんないね。どちらかと言うと、おちゃめな感じだもんね。………まさか、女王様?女王様、ジャンピング扉開術やったりしてないよね???
「フルト!いるんですか?」
医務室に入ると、ファリヴィアさんが若干始めて会った時のようなイントネーションで叫んだ。ですわ調ではないから、あくまでまだ仕事中ということなのだろう。
「…あーい……ちょいと待ちぃ…」
すると、奥から気だるそうな声が聞こえてきた。少ししゃがれたような…大丈夫?ねえ、あなた、大丈夫??ねえ???
「…オイ、ゴルド、また姫だっこしてんのか?降ろせ降ろせ、しかもソイツ元勇だろ」
表れた青年は、ファリヴィアさんと同じく、一発でその容姿を受け入れるのにはちょっと無理があった。…もんんんのすごいくまなのよ。ひげはちゃんと剃られてるからある程度の清潔感はあるけど、目の下のくまがやばい。それに加えて、げっそりと青白くなった肌に、謎のカラフルな液体が付着した白衣…申し訳ないけど、言いたくなってしまう。…マッドサイエンティストですか?しかも強面…こわっ。
「…で、タチバナさんがどうした?」
「アルラ様の責務の一部を出来るようになるよう特訓していたら、その前の対人の護衛についての特訓での筋肉痛が激化したと言い出したのですが、その様子が明らかに普通の筋肉痛ではないのです」
「まあ、そりゃぁ筋肉痛じゃないわな。…っていうかゴルド、どんだけ特訓させてんだよ」
ですよね。僕もおかしいと思った。もうちょっとやさしくしてもいいと思うんやよ。
「んじゃ、俺はタチバナさんを診るから、ゴルドは待っててくれ」
おもむろにフルトと呼ばれた男が近くの棚からいくつか道具を取ると、僕の方へ向かってきた。…てかちょっと待って。いや、待って。この人、医者なん???えっ、えっ?!だだだだ大丈夫?!?!
「はっはっは、こう見えても俺はれっきとした医者ですよ」
そ、そうなんだ…。
「子供に泣かれそうだけど…」
「それは言わないで下さい」
フルトさんが泣きそうな声で俯きながら言う。……も、物凄いコンプレックスなんだな…。
フルトさんの診察は以外と普通に終わった。…いや、そりゃそうだよね。リズドさんもファリヴィアさんも意外と普通だったし。リズドさん以外。
「…よし、じゃあ、最後に魔力を診る」
「えっ、診れるんですか?」
思わず驚いて腕を動かし、フルトさんを叩いてしまう形になってしまった。すんまへんのう。ああ、フルトさんのタメ口は診察をしてるうちに僕と話してたら、気付いたらくだけてたんだよね。コミュ力すごっ。
「ああ。こう見えても帝国で医者をやってたんだぞ?だから、資格もあるし道具もある」
そう言ってフルトさんは写真が貼られた資格書を見せてくる。
「…別に見せなくても信じますよ。だけど、魔力診察なんて久しぶりだなぁ」
僕がそう言うと、フルトさんはしょんぼりと資格書をしまう。
「一応聞いておくが、タイプは何だった?」
照れ隠しなのか、ぶっきらぼうに聞かれる。
「えーと…確か、Dの風でしたね」
「どんだけハズレなんだよ、元ニートでDの風って」
「もうすぐ内定貰えますし、Cになれる可能性もあります!」
普通の人は、だいたいBからC+の魔力量だ。だけど、僕の魔力量は人並みの一回り以上も低い。しかも、魔力の大きさに比例して使える術が広がる風属性となると、僕はほとんど魔術が使えないのだ。…かなしきかな。 としょんぼりしていると、フルトさんがいつか見たようなごっつい水晶盤を机に置く。大きい水晶が1つ、小さい水晶が5つはめ込まれた木の板は、何回も使われたからだろうか、小さな傷が無数に付いていた。
「んじゃ、前やってるからやり方は分かるな」
フルトさんは1つ呼吸すると、ゆっくりと、ゆっくりと水晶達に魔力を入れてゆく。
「ほえー…」
「一応説明するが、魔力を練ってこの大きい水晶に手をあててくれ。そうすれば自動的に水晶が吸ってくれる。もちろん、量は少ないから安心してくれ」
いつか聞いたのとほとんど変わらない説明を聞かされる。1つだけ違うとすれば、ある程度魔力を練らなければいけない点だろうか。
だけど、少し問題がある。
「あの…」
「なんだ?」
「僕、魔力の扱いが下手なので、最長で三十分かかっちゃうんですけど、いいですか?」
そう。僕は、ハズレ属性の上に魔力の扱いがどちゃくそ下手なのだ。
「さ…」
フルトさんの顔がひきつる。
「…なるべく急いでくれると助かる」
はーい。もちろんいつも急いでますよ!まあ、幸いなことに、剣はそこそこの才能があるらしいからそれでいいんだ!
「ふぅぅ…」
僕は手を水晶にかざし、体内にはびこる魔力をゆっくりと練っていこうとする。細い、細い糸のような魔力が長いこと使われずに絡まったまま僕の中に散乱している。
「…っ」
よしっ!今回はうまく捕まえられた。僕の場合、その糸の束をコントロール下に置き、ほどいていく所からスタートする。普通の人は、すぐにほどいた状態の魔力を使えるらしいんだけど、僕は不器用だから無意識のうちに絡ませちゃうし、そこから指定の分だけ取り出すことが困難ということらしい。
「……」
「………ん…」
約十分後。
僕の掌に集まった魔力が淡く発光し、水晶の中に吸い込まれていく。それと同時に、体の中にあった魔力が放出される喪失感が訪れる。
「おーし、おつかれ。そこのベッド、これからも使う予定ないから横になれ。身体的には特に問題は見付からなかったから、魔力をよく診る必要があるから、ゆっくり待っていてくれ」
フルトさん…。気遣い、物凄く感謝します。だけど僕、今、動けない。具体的に言うと、結構前から筋肉痛が体の痺れのようなものになってる。なんだか温かいような気もしてきた。
「…ふーっ…」
フルトさんが水晶達をじっと見ている。なにやらぶつぶつ呟いていて…?!あれって、魔法…!適正がある程度あるとはいえ、普通の人はそう簡単に魔法を使うのはもちろん、見るのさえ貴重な経験だったりする。魔法を使えるように勉強する人は、アタリ属性で少なくともB+以上はないといけない。僕にとってみれば、雲上の存在だった。
「ぅっ…」
体の痺れが最高潮に達し、頭が軽くぼんやりとする。ぽへっとしそう。もうなった。ぽーへー。
「?!ちょい、カシ、前は風のDだったんだよな?!」
「ふぁっ?!」




