表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《Liberty of Life》  作者: 魚島大
5章 Tactics are the case that everything exercises its power in one point/戦術とは、 一点に全ての力をふるうことである。
64/68

63話 An evening party/3人だけの勝利の宴

5ヶ月ぶりの投稿が5章最後のお話です。年内に投稿できたからセーフセーフ。

いや、お待たせして申しわけありませんでした。

 それから先はあっという間だった。


 一気に状況がひっくり返り、誰も彼もが興奮でわけのわからない状態になりながら、目の前の敵を倒していく。そんな狂乱が、たいした時間もかけずに悪魔の軍勢を駆逐していった。


 敵の軸となっていた『爵位持ち』が倒滅されてから、それまで破竹の勢いといえた悪魔軍は雨の日の蝋燭のように溶けて消えていった。ぼくやクリアミラは防衛戦で想像以上に魔力を消耗していたのもあり、そこまで派手な行動は起こせなかったが、ライディーンや増援でやってきた西の騎士団。戦力を残していたいくつかのクランが中心となって、やがて悪魔軍は全滅した。


 晴れ渡る空に、どこからか声が響く。


『おめでとう。諸君らは、人類の領域を守りきった。しばらくの間、休息をとることができるだろう。だが、魔王の攻勢はこれで終わりではない。だが、君たちは反撃という手段を手に入れたのだ』


 イベントの開始のときと同じように、どこから声が響き渡ると同時に、イベント終了の画面と今回のイベントで得た報酬のポップ画面が立ち上がる。大量のMPポーション(特大)や、ポーション(特大)、武器や防具に使える様々な素材、魔法の効果を高める魔法の発動体など、これまでぼくが見たこともなかったようなものまで多くある。ちょっとテンションが挙がって若干大変なことになりそうだが、そこは自制しないとだめだろう。敵もこれからどんどん強くなっていくだろうから、ちょうどいい。むしろ、そういう意味も含めて、運営が多くドロップをよこしたのかもしれない。


 もちろん、これはぼくだけのことじゃない。殊勲ともいえるライディーンの幹部クラスは、敵を倒した絶対数が多いからか、凄まじい量のドロップがあったようだし、なにやら特殊な武器までもドロップしていたようだった。それを使うかどうかはわからないが。とにかく、そんなすごい状態。この言葉が正しいのかどうかはまったくわからないが、ぼくも、クリアミラも、もちろんライディーンも。


 興奮の坩堝の中で、ぼくはルクレーシャ皇女を捜した。護衛だから、とあんな場所に2人きりになったあの女性を。NPCの親衛隊ではなく、彼女が頼ったのはリコネッタとぼく、その2人だったのだから。合わせ鏡のように、彼女のことが気になるのも、仕方のないことだろう。


 自身の鎧には無数の細かな傷がつき、一箇所は大きく裂けている。砂利と泥にまみれたこの格好は、皇女の前には相応しくないかもしれないけれど、なぜかぼくには、この格好の方がいいのだと思えた。恐らく、皇女はリコネッタとともにいるだろう。潰走した魔王軍がまだ城内にいるとは考えにくい。人型に近いような敵はいるにはいたし、だけれども決定的に人と異なるパーツがあったから、人間に偽装なんてしないだろうけれども、万が一ということもある。同性ならば私室まで入って警備をしても問題はないはずだ。──それに、あのリコネッタの気安さは警備担当という役職的なものではない。詰襟を開いて話し合ったようなものだろう。


 多分、安全な奥にいるだろう。常識的な判断だ。あの皇女の妙な茶目っ気さを考えれば、あの狂乱のお祭り騒ぎに出てきていてもおかしくはない。だけど、そうするともっと周りが騒然とするだろう。どこかに中心点が出来るはずだ。けれども、あのドンチャン騒ぎの中にはそれがなかった。ライディーンの大騒ぎに関してはもはやいつものことというような認識を僕以外も共有していたらしい。もしくは、隔絶した連中を遠巻きにするとでも言うべきか。


 片手にグラスだけを持って、宴を離れて奥へ歩く。あっという間に喧騒からは遠のき、まばらに警備兵が立つ以外には忙しそうに立ち働くNPCや、まだ戦争は終わっていないのだといわんばかりにモノを生み出していく生産プレイヤーがいる。その、更に奥。そこに、彼女の執務室があった。


 ノックを数回。


「どうぞ」という声に促され、ゆっくりとドアを開ける。少し薄暗いかと思える室内に、ルクレーシャ皇女と、秘書のように働くリコネッタがいた。


「あなたでしたか」


 NPCとでも思っていたのだろうか、皇女は少し目を瞠ったが、すぐに表情を平静に戻して、僅かに口元に笑みを浮かべた。


「あー、忙しいならば出直しますが」


 戦場にいたときと決定的に違う点がいくつか。戦争(イベント)の時には固く結ばれていた口元が柔らかく弧を描き、彼女の華奢な体には全くに合わなかった鎧ドレスが、繊細に織られた品のあるドレスに変わっていた。そして、その目元。ぼくが来るまで書類でも捌いていたのだろうか、彼女は眼鏡をかけていたのだ。四角くて、黒っぽいフレームの、そこだけとれば少し違和感のあるような。しかし、彼女に不思議と似合っていたと思うのだから、美人は本当に得だ。まったく。


 リコネッタは被っていたキャスケット帽がなくなってい、簡素にまとめられた金髪が頭の後ろで揺れていた。帽子が大きいから、ぼくは気づかなかったが、彼女の後頭部には、ちょこん、とかわいらしい尻尾があったのである。多分に小悪魔の尻尾かもしれないが。


 さすがに、日も落ちかけの時間帯だからか、ノースリーブの服の上にショールをかけていて、なにやら本棚の方で作業をしている。脚はむき出しのままだが、そこは女性のアピールポイントだろうか。まぁいいや。活動的な印象の彼女がそんな格好をしているものだから、ぼくは自分が急に場違いな格好をしているのではないかと不安に襲われる。鎧の脱ぎ着ぐらいはしておくべきだったろうか。この下に着ているのは道具屋で買った数打ち物のシャツだけれど。


「出直すよりはリコネッタちゃんを手伝ってくれると嬉しいな! なにせ皇女サマにこき使われる悲しい立場だもの!」


 ぼくの言葉をしっかり聞き取っていたな。こいつ。……とはいえ、女の子に重たそうなハードカバーを持たせるというのは、なんとなく気分が悪い。ぼくはいわゆる男性的肉体の保持者ではないけれど、さすがに小柄な女の子よりは重いものを持てるはずだ。


「ま、フツーに道具を使って天才プリチーなリコネッタちゃんは……あれれー!?」


 リコネッタはそのまま独語を続けながら、変わらず腰につけていたポーチから何か道具を取り出そうとして、そこで手伝いを始めたぼくに気づいたらしい。大げさなまでに表情を変えてからこっちに駆け寄ってきた。


「まさか、本当に手伝ってくれるとは……Mr.自己犠牲じゃなくてMr.手伝い、だね」


「おいおい……」


 彼女の軽口に呆れたような雰囲気だけ出しつつ、あっち、こっち、と指示を出す皇女に従って本を選り分けた。


「ありがとうございます、スヴェン」


 微笑んで、僅かに頭を下げた皇女。硬質な美貌だが、笑うとその硬質さが嘘のようにやわらかくなる。打ち込みが全く入っていない絹の生地のようだ。ぼくは、その彼女の笑みより、彼女の眼を飾る眼鏡に目がいっていた。……駄洒落じゃないぞ。イベント前に感じていたデジャヴュ、というものだろうか。眼鏡をかけた皇女の顔が、ぼくの知っている誰かに見えた。


「なんだかんだ男の子、頼りになるよね〜!」


 ニコッ、と快活な印象そのままに笑うリコネッタ。小柄な彼女だけど、エネルギッシュさのほうが先立って、小柄、という彼女の印象は後からついてくるのだ。


 ぼくとしては、ちょっとした手伝いでここまで感謝を示されるとは全く思っていなかったから、若干の困惑とともにそれを受け止める。


「そんな大げさなことじゃないんだけれども……」と照れたように頭をかいた。いや、そうじゃなくて、実際に照れているんだろうけど。なんとなく、気恥ずかしい。美少女2人を前にしているから、ということもあるだろうが、第一陣と戦いの際に、感情のままに激した、というところがあるからかもしれない。ハヤトらに見られていたら黒歴史確定である。まとめて死ぬならぼくだけでいいだろう、という破滅的ヒロイズムに任せて、「俺に任せて先に行け」ムーヴをしようとしていたのだから。ラート氏も合わせた3人がかりで止められたけれども。


「2人とも、少し大げさじゃないかな。ぼくがやったのは、ちょっとした手伝いだったのに……」


「いいえ。LoLだけに、なかなかこういう細かい作業を自発的に報酬なしで手伝ってくれる人はなかなかいないのです。ゲームゆえの弊害、というものでしょうか」


「そうだよねー。報酬なんて発生しないレベルの手伝いとか、落とした荷物を拾ってくれたりとか、そういう現実だとやってくれるちょっとした親切はしてくれない人がねー。リコネッタちゃん困っちゃうー」


 ふーん。正直言ってPCとのかかわりが薄いぼくからすれば、あまり実感の湧かない感想だった。まぁ、「親切をしない」側の気持ちもなんともわからんでもない。多分、現実である程度気を回しているからこそ、こういう遊びの場では自分勝手にふるまう人が多いのだろう。あくまでぼくの推測だが。


「このイベントが終わると、なかなか会う事はないかもしれませんが、私は、貴方に最大限の感謝をしているのです。依頼だって出しますから、私の依頼を見かけたら、受けてくださいね?」


 片目を瞑って、魅力的なウインクにぐらつかない男がいるだろうか、いやいない。そういえば、ほとんどランクを確認していなかったが、今のぼくのランクはどうなっているのだろうか。


「皇女サマの依頼を受ける前に、アタシを手伝ってよね、そのMr.自己犠牲っぷりを叩きなおしてやるわ!」


 そういえば、言ってたな。「終わったらこき使ってやる」って。


「もちろん、迷惑をかけた自覚はあるから、それくらいならいくらでも」


 リコネッタはぼくが素直にOKをするとは思っていなかったのだろうか、喉の奥で猫のようなみょうちきりんな唸り声を上げながら黙り込んでしまった。


「ぐにゅにゅ……。まさか笑いながら素直にOK出してくるとは……。アタシが一瞬キュンと来るなんて……」


 なに言ってるんだこいつは、というぼくの半目の視線に、ころころと笑う皇女。わずか3人だけだったけれど、表の飲めや歌えやの騒ぎに負けず劣らず、雰囲気は楽しそうだったのかもしれない。


ここまでお読みいただきありがとうございました。年内の更新はこれで最後です。閑話と、5章終了時点での登場人物紹介を挟んで、6章に入りたいと思います。また多少投稿間隔が開くかもしれませんが、伏してご容赦お願い申し上げます。

それでは次回閑話でお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ