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《Liberty of Life》  作者: 魚島大
5章 Tactics are the case that everything exercises its power in one point/戦術とは、 一点に全ての力をふるうことである。
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閑話 ハヤトの困惑/あるいは、蜘蛛の罠

新年初更新。

閑話です。

三人称です。

わりとハヤトメインです。

 ハヤトにとっては、それはある意味必然だった。自身の幼馴染が、優しげな顔立ちに似合わず、一度決めたら鉄の意志、といわんばかりの頑固者であることを。もちろん、それはいい意味でだが。最初の手助けをしてやって、後は本人のペース(ただし基準はハヤト自身)でやらせれば、自然と自分に追いついてくるだろうという、幼馴染だからこその信頼と感覚だった。あえてハヤト自身を基準にしてハイペースでレベル上げをさせたから、それをLoLの全体のペースであると勘違いさせることに成功した、というべきだろうか。明らかなパワーレベリングに気づかなかったのは、幼馴染の信頼ゆえか、それとも本人がそこまで気づいていなかったのか。パワーレベリングを終えて、とりあえず放っておいたら、見目麗しい女子を引っ掛けていたのにはさすがに苦笑をしていたが。


 しかも美しい容姿に見合わず苛烈も苛烈。笑い上戸だし、それでいて幼馴染との呼吸はばっちり。ハヤト自身が嫉妬するほど、戦闘での息が合っていた。


 学校でも、自己主張をしない──のんべんだらりとしている──幼馴染が、美少女といっていい人と普通に会話をしているというこの状況。本人をよく知っているからこそ大混乱を起こしかけたが、そこは烈火と渾名されるだけあって、すぐに自分を取り戻した。その混乱を隠すために、わざと大仰な仕草を取って自己紹介したし、一部の幹部連中はそんな団長の困惑を隠そうとする仕草に乗ってくれ、その場を凌ぐことは出来た。いつものように、自分の行動にあきれ果てたような表情をする幼馴染に、代わらない信頼を感じて、ハヤトは混乱から立ち直っていた。


 トップクラスのクランである以上、イベントで重きを置かれるだろう、というのがハヤトの予測で、それはメンバーも同様だった。自分たちがいる地域はアグボンラオール皇国で、トップの皇女様とは会ったことはないが、恐らく、(匿名ではあったが)彼女からであろう高レベルの依頼を受けたこともある仲である。掲示板や、攻略サイトの評判から、人となりはなんとなく理解していたはずだ。実際には会ったことがないが。


 実際に見かけてみると、どえらい美人。幼馴染の連れているエルフもそれはそれは美人だが、まだ人間味がある。それなりに女性との付き合いもあった自身が茫然自失とする、そな美貌である。絶世の佳人とはこのことか。人形めいた硬質な美貌を眺めながら、ハヤトはそう思ったのである。エアリスのクソデカため息で皆が意識を取り戻したが、そうでなければ、幼馴染も含めて美貌のVIPの大鑑賞会が開かれていたに違いなかった。


「どう思う?」


 自身の幼馴染に、ハヤトはそう問いかける。いつでものんびり屋の自身の幼馴染が、あそこまで呆然としていたのだから、なにかしらのアクションがあるのだろう、そう思っていたが、彼の瞳は相変わらず、穏やかな光を湛えているだけであった。あれ? 俺の予想間違った? とこの時ハヤトは凹んでいた。だからこそ、あの襲撃に気づかなかったのかもしれない。皇女に対する襲撃のとき、ド派手に動いた朋友を見て、ハヤトはある意味安心したのかもしれない。


「なにが?」


 あそこまでぼーっと皇女を見つめていて、さらには本人らしくないような行動まで起こしたというのに、幼馴染の瞳は変わらないままだった。大抵の場合、興奮なりなんなりで瞳に熱があるのが普通なのだが、彼の場合はそういうわけではないらしい。自分と違って。


「いや、いい。なんでもない……」


 幼馴染の鈍さに若干頭を抱えることになったハヤトだったが、転機はすぐに訪れたのだ。──皇女からの呼び出し。さすがの本人も目をかっ開いておどろいていたようだったし、純粋にレベル、クラン共に上といえるハヤトにすらそういう話がなかったのだから、ハヤト自身もかなり驚いている。呼び出されたのが一番目立っていたのが幼馴染であるスヴェンであることは間違いなかったし、局所的に掲示板で盛り上がっていたことにも違いはなかった。


 実際に近くで会ってみると、その美貌がよくわかる。美貌というよりは光芒、というべきだろうか。光り輝くような、という形容詞がここまで似合うとは恐ろしい女性である、とハヤトは思った。彼も含め、この部屋の顔面偏差値はとんでもないものがある。ルクレーシャ皇女は言うまでもなく、スヴェンの相棒クリアミラも、自身が左腕と頼みにするエリアスも、自身の相棒ラートも、顔立ちは整っている。スヴェンは、一級品のイケメンというわけではない。自身と比べると顔立ちも整っているわけではないが、さりげない優しさと、利他的なところが、人気が出る要素だと考えている。自己犠牲とも言い換えることが出来るかもしれない。


「それでは、よろしくおねがいしますね。うんうん」


 直接依頼。なかなかビックな事態になってきたぞ、というのがハヤトとその愉快な仲間達の感想だった。団長たるハヤトは、遠目に見たときから感じる違和感がより強くなり、首をかしげる。そう、違和感というよりは、既視感というべきだろうか。どこかで見たような気がするという感覚である。


 そして、イベント前。凛とした態度で集まったライディーンのメンバーや冒険者達に堂々と説明するのを見て、ハヤトはまたルクレーシャ皇女の別の一面を発見した思いになる。幼馴染は、目の前で作戦をぶち上げている皇女を、態度からはあきらかに気になっているというのに、穏やか過ぎる凪いだ瞳で見つめていた。


「はぁ……」と周囲に気づかれないようにため息をつく。スヴェンは自分の感情すら自覚していないらしい。穏やか過ぎるのも考えものだ。むしろ、控えめだからこそ、自分の感情に蓋をしているのかもしれない。


「どうした、ハヤト」


 目ざとくため息に気がついたラートがハヤトへ小声で話しかけてくる。いいタイミングだった。ちょうど作戦説明が終わったところで、それぞれで作戦を踏まえてまとめを始めている。?1と?2が話し込んでいても、作戦会議にしか見えないだろう。


「いや、スヴェンが、どうもあのお姫様を気にしているようだからな」


「お前もじゃないのか?」


 ラートはハヤトの心の中にある僅かなデジャヴを一瞬で見抜いて見せた。ハヤトは目の前の美丈夫のことを鋭すぎるとまで評価していたが、彼はその評価をさらに上方修正することになった。


「俺とあいつは違うよ……。俺のはこう、なんて言うんだっけ……。そう! とにかく見覚えがあるんだ」


「ほぉー?」


 面白いものを見た、というように片眉をあげて、ラートは相槌を打つ。


「あんな美人と知り合いとは、団長様は恐ろしいな」


「違う。さすがにあんな美人が現実にいたら……んん?」


 現実。その言葉に急速に意識が戻ってくる。そう、自分がデジャヴを覚えたのは、彼女が喋っているときだ。喋り方、口調。そこハヤトは覚えがあったのだ。しかも、かなり近く。そう、自分の近くというよりは、幼馴染の近くに。


「いやいやいや……まさかな」


「おいおい、1人で納得するなよ」


 1人で考え込み始めた団長に苦笑すると、ラートは話の続きを促した。


「多分だけど、あの皇女様、リアルの知り合いだわ。俺じゃなくて、スヴェンのな」


 冷静沈着で知られるラートもこれには度肝を抜かれたようで、まるで埴輪のように目と口をぼけっと開いていた。


「そんな馬鹿な……いや、待て。だったら、スヴェン君を呼び出したのも頷けるし、お前がなんとなく既視感を覚えるのも納得がいく。だが、内政プレイヤーがそこまでのえこひいきはできんだろう」


 そんなラートの言葉に、ハヤトはにやりと笑う。


「えこひいきじゃないさ。命を助けられているわけだし、その縁が出来ているんだ。義理堅いことで有名なアグボンラオール皇国皇女なら、まったくおかしくない。それに、スヴェンが来てくれれば、幼馴染の俺もついてくることぐらい、あの人(・・・・)なら余裕でやってのける」


「おいおいまさか、そこまで計算に入れて襲撃を甘んじて受けたってのか!? あきらかに偶然の要素が強すぎやしないか──そうか、現実で知り合いならば、ゲームの会話でどうする、なんてことを知っていてもおかしくない」


「そうだ。スヴェン本人が話していても全く違和感はない。ゲーム内での事件と現実の会話を結びつけることなんて、あいつはしないさ。多分、知らないんだろうし」


 そこまで話して、2人は戦慄した。スヴェンと、その周りを戦力化するために蜘蛛の糸よりもさらに細かく、まったく罠のつもりもなく、善意と恩と気持ちだけでここまでを絡め取ってしまったルクレーシャ皇女という女性に。


 そしてハヤトは、大体の予想がついているあの人に。


「ってことは、俺の心配はいらなそうだな」


「何か言ったか?」


 ラートにも聞こえないよう、口元だけに乗せた音は、乾いた空気の中に溶けていった。


ここまでお読みいただきありがとうございました。まだ閑話が続きます。

それでは次回の閑話でお目にかかりましょう。

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