5. 空色の蝶のかえる場所(前編)
少しだけ空気が変わります。
「彩葉ちゃんも行こうよ」
「えー、ちょっと怖いなぁ」
「大丈夫だって、クラスの男子も聞いたって言ってたけど、それ以上は何もなかったみたいだし」
「……じゃあ、ちょっとだけ、行ってみようかな……」
夏も近づいてきた頃、近隣の小学校ではある噂、というよりは怪談話が流行していた。
地域にある大きな緑地公園で、姿の見えない男に怒鳴られる、というものである。
実際に経験した、していない、という話が膨らみ、いつのまにか一つの形に収束しているのは、学校の怪談としてはよくある現象だ。
『緑地公園で虫取りをしていると、男の幽霊に怒られる』
一ヶ月もすると地域の小学生はほぼ知っている話となっていた。教師やPTAも、「男の声」という内容から不審者を警戒し、緑地公園の見回りもしたが、特に怪しいところは見当たらない。
結局子供社会特有の流行で、発端は公園で叱られた子供がいた可能性はあるにせよ、今のところは問題がない、というのが大人の見立てであった。
§
「あれ、彩葉ちゃん?」
修理工場で出る廃棄バッテリーを専門業者に引き取ってもらった帰り、軽トラを運転していた恒一は、泣きながら自転車を押して歩いている女の子を見かけた。明らかに見覚えのある子だった。彼女の自宅からはやや離れた場所で一人、しかも泣いているのが気になって、慌てて車を寄せて停める。
停車してから確認すると、やはり知っている子だった。
寶積寺の檀家総代である服部さんの孫、彩葉ちゃん(小四)である。恒一が専門学校を卒業するまでは寶積寺への出入りが多かったため、総代とは知り合いで、その孫の彩葉とも顔見知りではある。
小学校の通学路上に鏃自動車工業があるため、学校帰りに挨拶をしてくる程度には、彩葉は恒一のことを認識しているはずだ。
「彩葉ちゃん、どうした?」
助手席の窓から声をかけた恒一に、びくりと体を震わせた彩葉は、顔を上げて恒一を見た途端、泣き濡れた顔にさらにボロボロと涙をこぼして泣き始めた。
「えっ? ちょ、大丈夫? なんかあった?」
慌てて車から降りて駆け寄るが、彩葉は泣きすぎてまともに答えられない。
「おいて、かれて、……怒鳴ら、れて、怖かっ……、」
しゃくりあげながら話す彩葉は、スカートから出ている膝を擦りむいていた。
理由はよくわからないが、少なくとも怪我をして泣いてるのは間違いない。本当は近くに公園でもあれば怪我を洗ってやりたいところだが、このご時世に小学生とはいえ女の子に無闇に触るのは憚られる。
「怪我してるし、家まで送るよ。自転車荷台に積むからちょっと、乗って待っててね」
泣きながらも頷いた彩葉に助手席のドアを開けてやり、乗り込むところまで見守ると、恒一は自転車を荷台に上げた。一応くくりつけてあるロープにひっかけてから運転席に戻る。
成人男性が小学生女子を車に連れ込んだとか言われないよな……と内心少し怯えながら、寶積寺から歩いても五分ほどの、檀家総代、この辺りの古い地主でもある服部家の自宅まで彩葉を届けたのだった。
§
翌日の昼、彩葉の母親がわざわざ地元の老舗和菓子屋の菓子折りを持って恒一の元を訪ねてきた。
「鏃さん、昨日は娘がお世話になりました」
「いえ、通りかかっただけですし……ちょっと待ってください」
菓子折りを受け取ろうにも、よりによってオイルフィルターの交換中だった恒一の手は油まみれのひどい状態だった。彩葉の母親に断りを入れ、慌てて手を洗いに行く。
「お仕事中にすみません」
「とんでもないです、わざわざお気遣いいただいてかえって申し訳ないくらいです」
顔見知りではあるがさほど親しくない間柄の、微妙にぎこちないやり取りのあと、彩葉の母が軽トラに落とし物がなかったかを尋ねてきた。
「昨日彩葉が付けていた、蝶の形の髪飾りが見当たらないんです。どこかで落ちてしまったと思うのですが、念のため探していただけないかと思いまして」
短い時間だから可能性は低いけど、大事なものなのでお願いしますと頭を下げられる。恒一に否やはない。昨日、彩葉の頭に髪飾りがあったかどうか、残念ながら記憶にはなかった。
「もちろん。ご覧になりますか? 俺も後で探しますけど、すみません、作業を終わらせなければいけないので」
軽トラの鍵だけを開けると、頭を下げて作業に戻る。
しばらくして、彩葉の母が見つかりませんでした、忙しいところありがとうございましたと頭を下げて帰っていった。
その後、職業柄「物が入り込みやすく見つかりにくい場所」を理解している恒一が探しても、髪飾りは見つからなかった。
やはり恒一が保護をする前に落としたのだろうか。
夕方になる頃、作業を終えて片付けていた恒一の元へ彩葉がやってきた。
「あの、昨日はありがとう」
ぺこりと頭を下げる彩葉に、恒一は笑顔で答える。
「どういたしまして。怪我は大丈夫だった?」
「うん。……あの、それで」
やや言い淀んだ彩葉は、意を決したように恒一を見上げて言った。
「髪飾りを探しに行きたいの。おじさん、連れていって!」
「おじさん……」
「お嬢ちゃん、おじさんってのは俺みたいなのをいうんだ、そっちはまだ兄ちゃんだなぁ」
軽くショックを受ける恒一に、打金からすかさずフォローが入る。彩葉とは挨拶こそするが、ちゃんと会話したことがなかった。二十代半ばにきて初めてのおじさん呼ばわりである。打金の声に笑いが含まれてるのがわかって、虚しい。
「あっ、ごめんなさい」
「いや、大丈夫。小学生から見たら大人はみんなおじさんだよなぁ」
やや遠い目で彩葉の謝罪を受け取り、恒一は本題に入ることにした。
「で、髪飾りを探しに行くの? もう家に帰る時間だよね?」
先ほど防災無線から、子どもの帰宅を促す音楽が響いたところだ。まだ明るいとはいえ、勝手に連れて行くわけにもいかない。家族には、と聞くと明日にしなさいと言われたそうだ。
「だけど、探さないと、なくなっちゃう。きっとあの時落としたんだと思うから……」
ここで初めて恒一は、小学校で流行っている怪談を知ったのだった。子供達は噂を確かめるというよりは、軽い野次馬根性で見に行っているらしい。
「それで、友達が蝶々捕まえたら、声が聞こえたの。『カエセ、オイテイケ』って、変な声で、でも誰もいなくて」
怒鳴られるような声だったにも関わらず、怒鳴られたことよりもその声の響きが怖かった、と彩葉は言った。
それで友達もみんな怖くなって逃げ出した時、彩葉は転んでしまったそうだ。怖くて立ち上がるのにも時間がかかり、必死で逃げて自転車置き場に着いた時には、誰もいなかった。
痛くて自転車を漕ぐのも辛くて押して歩いていたところに通りかかったのが恒一だった。
恒一は思わず天を仰いだ。見えたのは工場の鉄骨だったけど。
いやまて、なんでまたこんな話に巻き込まれてるんだよ?
ひとまず、彩葉には家の人の許可がないと連れて行けないと言って家に帰し、どうしたものかと思い悩む恒一であった。
「なんだぁ、俺ん時にもあったなぁ」
悩む恒一をよそに、打金がのんびりと言う。
「小学生って怖い話好きだよなぁ。墓場に肝試し行ってしこたま怒られたもんだよ」
「ああ、確かに、俺のときもあった」
恒一は子供だけで肝試しはしたことがない。暗くなってから子供だけで出かけることに対する扱いは時代の差がありそうだ。昭和すごい。
「テケテケとか口裂け女とか流行ったもんなぁ」
「口裂け女は知ってるがテケテケは知らねぇ」
「え、知らないのか!?」
「口裂け女はすっげえ流行ってた。で、お嬢ちゃんの髪飾り、見に行ってやるか? 帰り道だから寄ってやるよ」
打金さんは少し離れた地域から軽自動車で通勤してきている。緑地公園はここから幹線道路に出る時に必ず通る道の脇なので、帰り道ではあるのだが。
「そこまですることなくねぇ?」
「孫が困ってたら助けんだよ、じいちゃんは」
「いつから彩葉ちゃん、打金さんの孫になったんだよ」
打金にも孫がいるので、困っている彩葉ちゃんと被ったのかもしれないが、ずいぶんとお人よしな提案だ。
「それに、なんか変な声が聞こえるって、ヤバいんじゃねえの?」
この世には人ならざる物がいる。だいたいが元人間で、しかもものすごく小さな理由で成仏してないだけだったりするようだが、でもなんかいる。それを知っている恒一は、迂闊に子供の話だからと一蹴できない。しかし、打金は違った。
「子供の話真に受けてんのか? どうせ同級生の悪戯だろ、俺もやったことあるしなぁ」
「何やってんの打金さん」
「ガキの頃の話だよ」
あっけらかんと笑う打金を見ていると、そうかもしれないとも思えてくる。そもそも子供は集団暗示にかかりやすいとなんかで読んだことがある。世界が狭い子供は誰かが「聞こえた、見えた」と言えば、実際に見えたり聞こえたりしてなくても「そう」と信じやすい、らしい。
万が一。何か変なモノがいた場合。打金を関わらせるのはよくないだろう。自分も良くないのだが、色々とツテがあるだけ打金よりはマシだ。
「いや、俺が行くよ。そもそも彩葉ちゃん、お寺関係だからこっちでなんとかするのが筋だろ」
「恒ちゃんは真面目だなぁ」
そう言って笑いながらも、打金はあっさり引き下がった。
あれ? そもそも俺も行く必要なんかなくね?
恒一がそのことに気が付いたのは、軽トラのハンドルを握って緑地公園に向かっている途中だった。
日は傾いているが、まだ暗くはなっていない公園を、恒一はのんびりと歩いてみた。この地域で育った恒一にとっては珍しくない場所ではあるが、来たのは久しぶりであった。
周囲の住宅地を拒むように生い茂る鬱蒼とした木々が、傾いた西日を遮って大きな影を落としている。
ときおり犬の散歩をしている人とすれ違ったり、ランニングをしている人に追い抜かれたりする以外、特に何事もなく進んでいく。一応、駐輪場を経由してからここまで、地面を気にしながら歩いてきたが、髪飾りは落ちていなかった。
彩葉の話で、場所が遊歩道の途中に設けられた休憩所のあたりで道を逸れた奥と聞いていたので、恒一もその通りに動く。休憩所はリニューアルされていて、恒一がよく来ていた小学生の頃より綺麗になっていた。
自動販売機の脇を抜け、木々の間を雑草を踏み締めて奥の方に進んだ時、ふと視界のどこかで何かが光った気がした。
低くなっている太陽は直接見れば眩しいが、むしろその逆方向だ。恒一がもう一度、光ったと思う方向をよく見ると、視線の先の大きな木の途中でまた何かがチカッと反射した。
近づいてみると、くぬぎが何かの木の、下から2mほど、恒一の背丈よりも上に大きめのウロがあり、そこから何か金属のような物がはみ出して見えた。
「なんであんなところに。カラスかなんかか?」
それが探し物がどうかはわからないが、手を伸ばせば届くので、ひょいとつまんで取ってみた。
出てきたのは鮮やかな青と水色のグラデーションの翅を持つ蝶だった。金具が付いているので、これが髪飾りなのだろう。
「ああ、これかぁ」
やはりカラスかなんかが見つけてここに隠したのかな、と思った時。
『……カエセ、カエセェェエエ』
恒一の頭上から、ひび割れた声が降ってきた。
ドクン、と心臓が跳ねた。
視界がいつもよりクリアになる。髪飾りの蝶がぐわん、と揺れた。
考えるよりも先に体が反応し、恒一は駆け出していた。
遊歩道に出ると一直線に駐車場まで駆け戻る。
軽トラに辿り着くと、恒一はドアに手をついて息を整えた。
なんだ?
恒一は、自分の行動に強烈な違和感を覚えた。
俺、どうやってここまで戻った?
さほど暑くもないのに、びっしょりと汗をかいている。
記憶がないわけではない。自分の足で走って戻ったことはわかっている。なのに違和感がある。それを、自分自身にすらうまく説明ができない。
ふと、髪飾りを握ったままだと思い出して確認し、再び視界が揺れた。
「……っ」
ぎゅっと目を瞑り、深呼吸をする。
もう一度手の中をみたが、今度は異常はなかった。
幸い、握りつぶせそうなほど華奢な髪飾りは手の中で無事に形を保っていた。
§
恒一が事務所に置きっぱなしだった菓子折りを持って二階の居間の扉を開けた瞬間、湊が珍しく飛び起きた。
「えっ? 恒一、何か持ってんの!?」
なぜか焦った声の湊に、恒一は紙袋を掲げて見せる。
「服部さんからの頂きも——」
「そっちじゃない!」
湊は立ち上がって恒一に詰め寄ると、胸ポケットから蝶の形をした髪飾りを取り出した。
「何これ、誰にもらった!?」
「なんで俺怒られてんの」
一度、カップルで来た客が、車の中から派手なヘアゴムが出てきて恒一の目の前で修羅場を広げたことがある。今の湊はその時の女性を彷彿とさせるが、濡れ衣だしそもそも湊が怒ることでもない。
「だって、これ……ああ、もう!」
湊はそのまま居間から出て階段を降りていく。
自分から外に出ることがない湊の行動に一瞬呆気に取られた恒一は、慌てて追いかけた。
「どこいくんだよ?」
「お寺。炊き上げるのが手っ取り早い」
「ダメだ、それ彩葉ちゃんのだろ!」
「その彩葉って女が呪物をよこしたのか?」
「呪物!? なんでそんな物騒な話になるんだよ!?」
「僕は物に憑いた呪いは苦手なんだよ。これは蓮さんの仕事」
「蓮兄!? 金取られるなら無理だぞ!」
言い合っているうちに寶積コンサルティングの裏口に着いた湊は、生体認証で鍵を開けると、ドアの隙間を開けて中を覗き込んだ。
「すっげえ不審者」
「うるさい」
隙間から覗いて他人がいないことを確認してから事務所に入る。湊のいつもの行動だった。裏口から別室に直接行けない構造が悪い、と湊は思っている。
「湊、何くっつけて来てるのかな」
「蓮兄も俺の扱い酷くね?」
「恒一のことじゃない」
事務所にはまだ蓮も衣縫も残っていた。この事務所、扱っている内容が内容だけに夜に稼働していることも多い。
「恒一がどっかの女から呪物貰ってきた」
「何から何まで違うから、とりあえず話を聞いてくれ」
どっかの女、小学四年生。さすがに不本意すぎる疑いを晴らすことが急務な恒一だった。
「緑地公園か」
自分のデスクではなく応接セットに腰掛けた蓮が呟く。
一通り経緯を話してようやく恒一は疑いを晴らしたが、蓮も湊も浮かない顔だった。
「依代は? 公園にある?」
「蝶が関係してることは間違いない。衣縫さん」
「はい」
「緑地公園と蝶が関係する情報をまとめておいてくれ。こっちで突き合わせたいから印刷を出して欲しい」
「かしこまりました」
恒一を置いてけぼりにして、事務所内で勝手に話が進んでいく。帰ろうかなと思ったところで勝手知ったる湊がコーヒーを恒一の前に置いた。自分の分はカフェオレになっている。多分砂糖多めだ。
「それはどうする? 焼く?」
蝶の髪飾りを示して聞く湊に、蓮はかぶりを振った。
「総代のお孫さんの大切なものならそういうわけにはいかない。その程度ならこちらで剥がせるから安心しなさい」
最後のセリフは恒一に向けたものだった。
「よくわかんないんだけど、なんかヤバいのか?」
表情がやや引き攣り気味になるのは許して欲しいと思いながら恒一が聞く。
「間違いなく『悪霊化』している。放置するほどまずいことになる」
「まずいことって……なんだよ」
「残念ながら、ケースバイケースだ」
場合による。なんて当てにならない。
「だいたい、なんで一人で行ったんだよ。怖いくせに」
「なんか打金さんと話してたらそういう流れになってた」
「なにそれ。意味わかんない」
不服そうに睨みつけてくる湊をスルーしてコーヒーを飲む。さすがいい豆置いてるんだなぁ、うちのインスタントとは違う。
「あんまり怖くなかったんだよなぁ。なんか、自分じゃないみたいな感覚になったけど」
なんか変だったな、と思い出しながら呟いた恒一の言葉に、湊と蓮は動きを止めた。
「は?」
「何?」
「え?」
突然真剣な顔で見つめてくる二人に恒一の方が戸惑った声を上げる。湊は恒一に近づくと、両手で顔を挟み込んで、その目を覗き込んできた。
「恒一、大丈夫? 僕がわかる?」
「なんだよ、近いって。意味わかんねえ、湊がわかんないわけないだろ?」
「落ち着け、湊」
蓮に嗜められ、湊は渋々と恒一を離した。説明を求めて蓮に顔を向けると、彼は一息吐き出してから説明をする。
「悪霊に当てられると、記憶の混濁や認識に障害が残ることがある。今の恒一にそういった症状は見られないし、今回呪われてもいない」
「安心すればいいのか怖がればいいのかわからない」
「今のところ安心材料しかないのだが」
「その説明でそれを分かれと言われても困る」
「心配しなくてもいい……ああ、ありがとう、衣縫さん」
こちらの騒ぎは無視してパソコンに向かっていた衣縫が、いつのまにか印刷されていた書類を整えて差し出してきた。
「他に何か」
蓮はパラパラと書類を確認すると、衣縫に微笑みを向けた。
「今のところは大丈夫だ。宮原様の請求書は」
「送付済みです」
「昨日の件は」
「すでに揃えてあります、あとでご確認を」
「ありがとう、もういいよ」
「かしこまりました」
淡々としたやりとりを終えて、蓮は印刷された書類のうちの一枚を差し出した。
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都市に残された緑地で「超特急進化」か
市内の蝶、100年で独自亜種へと変化の兆し
市内在住の愛好家が発見
市内の緑地公園に生息する昆虫が、わずか100年ほどの間に独自の進化を遂げている可能性が浮き彫りになった。
市内在住の会社員で昆虫愛好家の浅葱創太さん(42)と、県立大学大学院の共同研究チームは18日までに、市内緑地公園に生息する蝶の遺伝子および形態に、市外の個体群とは明確に異なる独自の変異が生じていると発表した。周囲を住宅地にに囲まれた「陸の孤島」で、独自の亜種化が急速に進む「都市型進化」の決定的な証拠として、国内外の分類学者から驚きの声が上がっている。
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地方新聞の、二十年ほど前の市内ローカル記事のアーカイブだった。すでにネット上に記事が上がっている時代のもので、蝶の差がわかるカラー写真も付いている。
「この写真……」
「髪飾りと似てるね」
思わず呟いた恒一の声を、蓮が拾った。
「通常より青みが強く、構造色の面積が有意に広い、だそうだ。それで、発見者の浅葱さんだが」
蓮は別の紙を提示した。
同じくニュース記事のアーカイブで、前回より一年ほど後のものだ。「市内緑地公園の蝶、国際誌で正式認定 学名は発見者の名から『ソータ』」。
記事内には、亜種名とて「sotai」と付けられたと書かれていたが、その後の記述を蓮は指差していた。
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アマチュア研究家として、自身の名前が世界の学名に刻まれる最高の名誉を手にした浅葱さん。しかし、残念ながら、彼はそのニュースを聞く前に亡くなっていた。浅葱さんのご家族は……
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「そういうわけだから」
蓮は湊を見た。
「一人で行けるな?」
「無理」
湊の即答。湊は原付すら免許を持っていない。教習所にも試験場にも行けないからだ。引きこもりには必要がないと開き直っている。
かといって公共交通機関も使えない。ここから緑地公園までは小学生が自転車でもいくような距離だ。自転車は多分、乗れる。しかし、それ以前に一人で出かけること自体が無理。
蓮もわかってて一応提案しただけのようだ。
「今日はこの後仕事がある。明日の夕方対処に行く。支度をしておきなさい」
「総代からお金取れるの?」
「俺を何だと思っている?」
「守銭奴」
「あのさ」
軽口なのか喧嘩なのかわからないやり取りに恒一が口を挟むと、二人の顔がぐりんと恒一に向いた。ちょっと怖い。
「俺はどうすれば……」
「留守番だ」
「来ちゃだめ」
「あ、そうですか……」
俺なんでここにいるんだっけ。ちょっとそんな感想を持った恒一だった。コーヒーが美味しいなぁ。
新聞記事の記述に、一部AI直接使用の部分があります。




