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神の命にて 前編

 我に名は無い。それはこの部隊に志願した時に捨てた。

 

 ただ、それだと流石に、色々と不便だろうと、

 我等の直属、そして唯一の上官、

 そして、我等部隊が絶対の忠誠を誓ったこの国の王にして、


 あらゆる国や地域に伝わる、かつて、この世に蔓延る悪鬼羅刹を、たった一柱で駆逐したと云う、あの伝説の荒神の後継者…シヴァ様から簡単な呼び名を授かった。


 それぞれ簡単な呼び名では有るが、これこそ神から直接授かりし、我等の宝でも有る。


 与えられる名は、色や花の名、或いは体型だったり、見た目だったり…とにかく多岐に渡るが、大抵、ユーモラスなものが多く、


 初顔合わせで名乗り合う時に、思わず吹き出すような名もある。


 最初は皆、少し戸惑うのだが、これは緊張を緩和させる意味合いが強く、特に作戦終了時の点呼の際に、

 つい思わず笑みが出てしまう。

 その度に、まさにこれが狙いだったのかと、毎度感心しきりだ。


 そんな私に与えられし隊名は、チョッパーだ。


 かつて、別の隊で任務中に、少数で多勢の盗賊団に囲まれて、まさに絶体絶命の時だった。


 本当に偶然だったそうだが、丁度その場面に私が現在所属する、特殊作戦群の部隊が遭遇したのだった。

 盗賊団と私達以外には、周囲にはなんの気配も無かった。


 私達が立てこもった建屋の奥の部屋の、その扉が破られ、いよいよ賊に突入されたという時だった。

 飛び掛って来た賊と揉み合いになり、取っ組み合いの最中に、たまたま相手の脳天にチョップをしたのだが…

 実はその時既に、その賊は勿論、この部屋へ侵入した賊は全て絶命していたのだった。


 いつの間にそこに居たのかさえ、私達は一切分からなかったが、実は他にも居たのだ。

 

 だが、直ぐに察した。その侵入した兵士の格好…帝国の見慣れた軍服では無いが、そこに間違い無く、帝国軍の装備も所持しているのがハッキリと見えた、つまりコイツらは帝国軍、味方なのだと。


 だが、そいつらの違和感が尋常では無かった…

 

 見たことの無い兵装…まるで外の草むらが動いているのかと見まごうフード付きのマントを着ている、

 そして見たことのない武器…


 何より、その中の一人だ…

 普通の…どう見ても一般人で若く、この場にはそぐわない空気を醸していた。

 そして…

 「お前…見事な良いチョップだったな?まあ…あとほんのちょっとだけ、遅かったけどな…」


 飄々としたその男こそ、我等の神だった。

 内から固く閉ざした扉を、壁をすり抜けなんとうち側から開けた張本人でもある。


 賊は部屋の外で倒すことも出来ただろうが、

 状況の解らないこちらは中でひたすら困惑する、場合によっては最悪、中で絶望からの自害だって、充分にあり得る。

 なのであえて、私達の眼の前で処理したと…


 一般人にしか見えない男が、いかにもって連中にテキパキと指示を出していた。

 それがずっと感じている違和感の正体なのだが…


 私は或る事を思い出していた。

 公式には存在しないが、実は存在していると云う極秘の部隊、

 それは王の直轄、直属の部隊であり、全ての軍部の枠組みの外にあるが、

 帝国軍の中でも、その順位は何処よりも高く、全てに於いて優先的に行動すると云う。


 そして…仮に入りたいと思っても、そもそも募集などは一切されていない。

 この部隊の上官以上の推薦が無ければ、入隊のその資格さえ無いのだ。


 あらゆる場所に突如現れ、そして一切の痕跡も残さずに消える幻の部隊…

 

 その中の一人と目があった。驚いたが、それは向こうもだった…

 昔同じ部隊にいた先輩兵士…私の指導もしてくれた男…だがある日突然居なくなった、

 他国で作戦遂行中に事故で殉職したと聞いていた。


 私がその名を呼ぼうとした瞬間口を塞がれた。

 「お前の知ってる男はもうとっくに死んでるんだ。俺はもう、そいつじゃあ無いんだ…」…そう言ってウインクをした。

 言葉に詰まった。だが同時に理解した。この部隊に入る為に、殉職と云う形で部隊を去ったのだと。

 そうか、生きていたんだ…


 その時、あの場違い男が声を掛けてきた…

 『なんだ…チョビの知り合いなのか?』


 …チョビ?犬系の獣人のその先輩には、確かに鼻に下に特徴的な毛の模様が有ったが…

 そんなあだ名で呼ばれて居るのだろうか?フフッ… 

『お?チョビ、笑ってもらえたぞ?』

「ハハ…はい、これでまた、生存確率が上がりましたね、縁起が良いっすね…」


 『で?…この兄ちゃんは優秀なのか?』

 「ええ、そうですね、そこそこヤれると…多分うちでもいけるんじゃ無いかと…」

 『ほお…イイね。じゃ、そこのチョップの兄ちゃんよ、君さあ、一回死んでみる気は有るか?』


 え?…し、死ぬ…?せっかく助けてくれたのに?


 『そう、世間的には死ぬの、でも、実は死んでないって感じ?このチョビも、確かそうだったよな?』

 「はい、その通りですね…」


 ああ、そうか!!…私は勧誘されてるんだ…この幻の部隊に…

 特に迷いは無く、その場で死にますと答えた…


 

 『そうか、じゃ早速、お前はチョップ…いや、チョッパーかな?チョッパーよ、おめでとう、ようこそうちの、特殊作戦群へ、歓迎しよう』

 は、はい、ありがとうございます…


 『まあ…当然、チョビがそいつのお守りだな…』

 「御意!!」



 そしてそこから今日まで、私はココに居る。

 名前は捨てたが、字名は頂いた。

 

 現在、我が隊が、ここアーラント国内にて逃走中の複数の貴族の捜索と確保、並びに治安維持活動を行っている。

 そこに緊急の知らせが入った。

 テンヨリ、ヒカリガサシタ、シロ、トリデ ムラ 以上だった。勿論暗号だが、天が指すのはたった一人…

 そう、この作戦群の総指揮官であり、国王であり、神が、

 今まさに、我等の元へとお越しなのだと。


 特に急ぎが無ければ、我等は直ちに集結する。

 城と砦、ココからなら

 我等が神に迷惑をかける者を全てを事前に排除し、その行動の全てを補佐し、必ず無事で無傷で、お帰り頂くまでの間、護衛として随行する。


 

 この位置なら、村か?村…我等の王が行く宛の有る村…

 そうか、前国王を移送した集落が有ったな…成る程。


 

 全員傾聴!!只今より、天啓の導きに従い、全速で移動を開始する、直ちに準備しろ!

 「「了解!!」」


 

 最大速度で、最短のルートで移動を開始する。

 幸い、ココから集落までは通常なら二時間くらいだが、当然一時間以内には到着したい。

 さもなければ、我等の神は脚が速い…下手をすれば、もう帰ったあと、なんて事になりかねない。

 皆も理解している。


 すぐさま戦闘と云う事態も考慮し、一度だけ短めの休憩を挟む。

 駆けつけたは良いが、役に立たない…そんな事は、決して有ってはならないからな。



 そして、目標地点に辿り着く。


 息を整えつつ、各自が配置につく。私の守護獣が、既に神が建物内に居ることを教えてくれる。

 周囲の警戒と索敵も急ぎ完了させた。



 

 これがいつもの仕事であり、最も名誉な王の護衛という役割、

 決して気を抜いたりはしない。

 絶対に死守だ…

 

 

 辺りは平穏そのものだった…余計な物音も殆ど聞こえない分、守る側としてはやり易い。



 ん?


 動きがあった…


 扉が開き、王と大臣、そして王の秘書が出てきた。


 

 王が指笛を鳴らす。集合の合図だ。

 すぐさま駆けつけると、リストが手渡された。



 王命が下った。リストの人物の査定…


 この瞬間、我等は左腕に濃紺の布を巻く、それが王から直接最優先の命を受けた証であり、

 あらゆる作戦からも除外、そして常に最大の協力を得る。



 そうそう、もう一つ有ったな…


 まさか温泉か…まあ王命だからな。ありがたく従わせて頂く。

 

 

 

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