前夜祭が始まったのです
一難去ってまた一難…
緊急事態での避難に際して、一部の楽団の方数人に、なんと怪我人が出たそうです。
困りました…
いえ…なんなら演奏が中止されるのでは?
…甘かったです。
王様が神器を出され、それを使用するそうです…
更に?九郎様の能力で、王様の神器に入ってる人の声だけを打ち消し、
ミュー様の魔法で、空気をより強力に振動させ、音自体をよりハッキリと遠くまで届くような魔法を使うのだと。
とんでもない事になってしまいましたね…
あの神器の音楽は、途轍もなく複雑です。
様々な音が混ざった…まさに耳の為の宝石と言っても過言では無く…
そこに私の声など…
完全に…ビビってしまいました。
膝が笑ってますよ?
さっきの爆弾騒ぎが、なんだか些事にさえ思えてきましたが?
ですがもう…逃げることは出来そうに有りませんよね。
とにかく、必死に落ち着こうと落ち着こうと…
ひたすら深呼吸を繰り返しますよ。
ヘンリエッタ様も一緒に。
いよいよ、イベントが始まりました。
そして?予定には無かったのですが、
急遽、王様がザジ様…雇われ王様と共に登壇しました。
なぜかホントの王様は、ザジ様の護衛の様な格好をしていますが…
先程有った騒ぎ…つまり事件の詳細が語られました。
目的はこの会場を狙ったと思われる、爆弾テロ…
それを未然に発見し、防いだ英雄がここに居るのだと。
ザジ様が、大変大きな声で民衆に語ります…
当然ですが、そりゃ大騒ぎです。
「英雄エトラン…こちらへ…」
…?
はい?
ザジ様から、急に私の名が呼ばれました。
ヘンリエッタ様が私の背中を突き飛ばしまして…
オタオタと、気付けば舞台の真ん中です。
なぜか会場から、エトランコールが巻き起こってますが、
ザジ様から離れ、真の王様が私の手を引き、
舞台の先端まで引っ張って下さって、
耳元で小さく、『皆に手を振れっと、そう言われて…
違う、笑顔だ、笑顔!』
…手を振りました。笑ってはみましたが、出来てるなどと到底思えませんよ…
そして再び真の王様が私の手を引き、ザジ様の元へ。
そこで真の王様はサササッと後方へ消え、
ザジ様からは大きな大きな勲章を授与されました。
「この者は国を救った。我らの恩人である…」
ワアアアアアア…っと、
割れんばかりの大歓声ですけど…
えーーっと?
確かに発見はしましたが、それだけですよ…?
だって、実際に探してらっしゃったのは王様と白組の方々で、
なんなら爆発しましたし、
それを真の王様が全て消し去って下さっただけで、
実は私って、なにもしてないのですが?
ザジ様と王様から、取り敢えず笑ってと、強くそう言われて…
引きつった笑顔を振りまきました。
『どうだ、これでむしろ落ち着いただろ?』
真の王様の、お声だけが私の耳に届きました。
そういえば、あまりにも急展開すぎて、
緊張もなにも、感情がわやくちゃでした。
膝の震えももう無いですね。
なる程…これって真の王様のアドリブなんですね。
私の緊張を和らげる為に。
「あら多分、王様はあなたの顔や姿を、皆に見せたのだと思うわよ?
だってこれで誰も、あなたの顔を忘れないでしょうからね…」
え?…
「うちの神様ってね、昔から良く、こんな逆境を、あっという間に逆手に取っちゃうのよ?そういうの、すごく上手いのよ…」
……はあ…?
「ほらごらんなさい。どこの誰かも分からない娘から、
今や誰もが知る、救国の英雄に格上げされたのよ?すごくない?」
え?ああ…まあそう…ですね?
でも、私…なにもして無いんですよ?
爆弾探してたのも、爆弾処理をしたのも、全部王様ですから…
「良いのよ、そんな細かい話は。だって王様がエトランを皆に紹介したかったって事だと、そう思いなさいな」
は、はあ…ついで?
「爆弾なんてついでよ、ついで…それよりも、もうすぐだからね?」
武闘会出場者のくじ引きが始まり、
ヘンリエッタ様と私は、第一騎士団の応援で、
まさかの、最後の最後、オオトリになってしまいました。
くじの結果には、ヘンリエッタ様が膝から崩れ落ちましたね…
「第一騎士団…来月の給料大幅カットね…」
怖い発言が出ましたが、私はなにも聞いていません。
私は偶然、横にいただけです。
私は一切無関係です…
第一騎士団の方には、それだけは是非伝えたいですね…
トップバッターはなんと、エルドン騎士長でした。
全く緊張の様子も有りません。なんなら余裕の笑顔のようです。
聞けばエルドン騎士長は幼少からあの神器に合わせて、皆で歌っていたそうで、むしろ神器のほうが好都合だと。
この会場の出演者で唯一、満面の笑顔ですね…
そしてなる程…お上手です。
思わず聞き惚れそうな美声で、しかも、音楽にもバチッと合ってます。
こ、ここまでお上手だとは思いませんでした…失礼ながら…
まさかトップバッターがこれとは…
完全に心が折られた気分です。
続いてはアーデ将軍です。
え?………ってくらい、悪意はないですが、到底獣人などと思えない程、これまたお上手です。驚きました。
「元々、リズム感だけは異様に良かったからねえ〜、
しかもあの渋い地声も良いしね。アーデもちびっ子らと一緒に、良く歌っていたから…」
ヘンリエッタ様がぼやいています…
どんどんと、ハードルの高さが跳ね上がっています…
良くない流れですよ?
うーーーん、もうちょっと…
もうちょっと、ゆるい感じになって欲しいですよね?
上手すぎるなんてずるいですよね。
お次はシレン様ですね?
ちょっと…
うわああ、最悪ですよ?
めっちゃお上手ですけど?
「まあ、シレン君も歌うの好きだったからね、昔から…」
また一段と、ハードルが上がりましたか。
良く無いですね。
これは良く無いです。
絶対絶命だと…
「もう一回…誰か爆弾仕掛けてくれないかしら?」
先ほどから、ヘンリエッタ様の冗談がきついですけど…
…冗談ですよね?




