その季節がやって来たと… 後編
本番までの期間は、わずか十日程だと…さっきお聞きしましたが、
もっと事前に判っていれば充分に準備も出来たのでは?
…と、いう最もな私の質問に対し、ヘンリエッタ様がお答えになったのは、
「この辺の時期は皆、仕事がかなり立て込むのよ…」、っと。
そう言われたならば、返す言葉はございません。
現実を素直に受けいれ、残されたわずかな時間を有効に使いましょう。
横から聞こえてくる将軍様らの歌声も、当初よりも洗練されておられるようですし、
コッチも負けちゃあおられませんよね、ヘンリエッタ様?
「そ、そうね…グズグズはしてられないものね…」
音楽隊の方からの意見が色々と告げられ、
幾つかの歌の候補が挙げられました。
唯一の女声なので、そこを全面に推したいという、出来れば壮大かつ慈愛に満ちた曲を…と、熱く語る音楽隊の方と、
なるべく簡単で、なる程べく短い曲を熱望する、ヘンリエッタ様と私…
そこには大きな隔たりが有りますね。
なるべく早く決めて、なるべく早く練習に移らねば…
ですが?
流石にそれは無理でしょう?って、そんな曲ばかりオススメされてます。
ヘンリエッタ様のお顔が険しいです…
色々な候補を、次から次へと聞いて行きますが…気のせいか?どんどんと危険な方向へと向かっている気がしてます…
ここらで…手を打ったほうが宜しいのでは?
選曲には、結局丸一日を費やしてしまいました。
そして選ばれた曲は、「未来へ」という曲で、原曲も女声の方が歌われていたという、王様の前にいた世界の曲を、
王様主導でこちらの言語に変換された、曲のリズムに合うよう別の歌詞をつけ直した曲ですね…
新しい歌詞も、基本的には原曲を周到していますが、
今回は特に、応援の意味合いが強く、それに合わせて、更に一部を書き換えています。
元々の原曲を、王様の魔道具を使って聞かせて頂きました。
言語が全く違うので、聞いてすぐには意味を理解出来ませんが、
愛情を注いでくれた母親の元を離れ、一人で歩き始めた主人公が、
やがて迷い、傷つき、
そんな時に母の優しさや言葉を思い出し、
自分の足元を見つめ、そこには、自分の歩む道が有るのだと…そう気付くのだと…
そう言う様な歌だそうです。
そして、闘う兵士の心を鼓舞するよう、
ヘンリエッタ様と私が歌うのだと…?
ヘンリエッタ様と目が合いましたが…
どうやらお互い、気持ちは一つでした。
逃げだしたい…
しかし…これは国を挙げての行事であり、大変名誉な事だと…
なんとか気持ちを高め、いよいよ練習を開始する、さあってタイミングで、
本日は時間切れと、相成りました。
ダメ人間の、ただの言い訳みたいに聞こえると思いますが…前途多難ですが、
明日から、頑張ろうと思います。
そして翌日より、本格的な練習が始まりました。
二人で歌うという利点を生かして、ハモるという、高等な技術を駆使し、
将軍様らは勿論ですが、なんなら王様のド肝も抜いてやろうという…
私達の先生となった音楽隊のミゲール様が、
それは熱く語っているのですが…
私達には到底、そのような高度な技術を使いこなすなど、そもそも不可能では?
「良いですか、練習は決して、貴方方を裏切りませんよ?」
知ってる…この言葉、王様が良く仰ってるやつですよね?
こんなトコまで王様の魔の手が?
流石は深謀遠慮と言われることはあ…
あ、すいません!ミゲール様、聞いてます、ちゃんと聞いてます。
おっといけない…集中集中。
この際ハモるって技術ですが、本来のリズムを歌う側も、
音をずらして歌う側も…
強烈に、自分以外のパートに引っ張られます。
慣れて居ないのですから仕方が無いと思うのですが、
どうやらヘンリエッタ様も私も…特別不器用であると…
残念ながら、どうやらそう言う事の様ですね…
ですが練習です。そんな時にこそ練習有るのみです。
練習は決して私達を裏切りません…
王様がそういうのであれば、きっとそうなのでしょう。
まずはヘンリエッタ様と私は、一旦別れて練習し、ある程度落ち着いたら合わせましょうと、そういう方向性で練習を重ねましたが、
いざ合わせると、面白いくらいに、お互い引っ張られますね…
もう笑ってしまいますよね~フフフ…
…ってすいません、真面目にやります。
だからミゲール様…その絶望したお顔を、どうかおやめください…
頑張ろう。つよい心で歌い上げれば、そう簡単には引っ張られ無いはず…
はずだと思ったんだけどな…引っ張られてますね…お互い。
まあ…たった一日で事を成そうなど、そもそも甘い考えなのですよ、
よおしっ、もっともっと頑張ろう…
でも、今日はもう遅いので、
明日から…
曲はキロロさんの「未来へ」です。異世界都合により、著作権等々のお話は、主人公以下、全ての関係者の意識にも有りません。
ですが?書いてる本人は、なるべく深く干渉しないようにギリギリセーフで進行したいと思っております。
あしからずご了承下さい。




