その季節がやって来たと…前編
ようやく?日常らしい日常が帰って来たと思ってたのも束の間…
ヘンリエッタ様が、大きな溜め息と一緒に、ボソッと仰いました。
「そろそろ…なのよねえ…」っと。
え?
急にどうされたのですか、そんな大きな溜め息なんか…?
そして、そろそろとは一体?
「まずは秋祭りつりね…その中の色々…頭が痛いのは、特に武闘大会と、その前夜祭ね…」
…は、ハア?
詳しくお聞きしたところ…
なんと前夜祭には、この国の上層部による、
応援の為の、歌唱コンクールが有って…
三大天に六大将軍…その他上位の為政者による、いわゆるカラオケ大会があるのだそうで…
ヘンリエッタ様はお歌が苦手なので、とても憂鬱なんだとか…あらあら大変だな…とか思っていたらば、
どうやら私も、そのメンツに数えられているそうです…
アレ?…私は一切、なにも事前に聞いていませんが?
「ああ…そういえば、仕事以外のことだったから、ヤダ、すっかり忘れてたわ~、ごめんね?エトラン…」
武闘大会は事前の予選を勝ち抜いた十二のチームによる対抗戦と、
チームから選ばれた代表者による個人戦が行われるそうで、
雇われ国王様に、大臣や将軍様らが、
その各チームの応援団長という立場になるらしく…
そのチームを鼓舞する為に歌うのだそうです…
応援するチームは、当日にくじ引きで決まるそうで…
勝てば良いのですが…負ければ何を言われるか…判ったもんじゃないという…なんとも恐ろしいお役目なのだそうです。
まあ…上位の為政者の顔見せの意味合いが強いそうですが…
私?
なぜ私が?別に政治には、ただの一切関与しておりませんし、
なにより…私如きが皆様と同列に並ぶなど…
この田舎貴族の小娘である私は、そんな厚顔無恥の振る舞いなど…断じて認めませんよ?
「だって…あなたは便宜上、将軍級の立場だからね…決して逃げられやしないわよ?」
……………は?
満面の笑顔で微笑むヘンリエッタ様…
どうやら、強制参加を余儀なくされている様ですね…
えーーっと?
ちょっと待ってくださいよ?
十二組…なのですよね?
三大天が三人、六大将軍が六人、騎士長は二名に、そこに王様だと、十二人ですから…やはり私如きは御暇させて頂き…
泣きそうなお顔のヘンリエッタ様がすがりついて来ました。見捨てないでと…
うーーーん困ります…流石に私如きはちょっと…
ヘンリエッタ様の泣き落し作戦にまんまと負けました…
なんとヘンリエッタ様と、デュエットする羽目になってしまうとは…
王城のとある一角には、軍の楽団や騎士団の楽団の練習場が有り、
この季節が来ると、国の偉い人が密かに練習されるのが、ある種の風物詩なのだとか。
私もその?…風物詩の一部になるのですね。
既に、シレン様、バルタ様、アインゴル様、
軍の三将軍が仕事を放置してまで?まさに練習の真っ最中です。
コンクールとは言え?優勝社を決めるような事では無いそうで、
お互いの実力を、丁度いい感じに揃えるのが目的だそうで…
変に差が有れば…任務や指揮に影響が出るのだと…
完全に出来レースだと…思ったのは認めますが、皆様の必死さを見れば、相当にご苦労されておられるのだと…
そう理解しました。
歌はある程度のレベルで、合わせに行くそうですが…
武闘会の実戦では、一切遠慮なくおやりになるそうです。
お歌は本職では無いから…皆様口を揃えてそう仰います。
ちなみに肝心の歌ですが…
真の王様の魔道具に、不思議な音楽を奏でる道具があるそうで、
その音楽を参考に、帝国の言語にあう様に作られた歌を歌います。
既に、民間でも歌われる様な歌も有れば、全く初出しの歌もあるそうで、
その年の、或いはその時の状況や気運なんかを加味して、皆様でお決めになるそうです。今回は初出しの歌だそうで…なる程、あの必死さを見ればご苦労が伺えます。
ですが…判っています。それは決して他人事では無いのだと…
まずは楽団の方から、発声の仕方や、声の高さ等を調べて頂き、
私とヘンリエッタ様が歌って、丁度よい感じになりそうな歌を、いくつか選んで頂くのですが、
どれも難しそうです。しかも…ハモるパートまで有りますが、私もヘンリエッタ様も…決して器用なタイプではございません。
曲の選考には、随分と難儀しました。
そういえば?
真の王様はお歌いになられないのですか?
寧ろ、あの方こそ皆の前でお歌いになられた方が宜しいのでは?
「それはダメだ!」アインゴル様がそう仰ったあとに、
「そんな事になったら、地獄だぞ?」皆様が頷きながら続きます。
ヘンリエッタ様曰く、王様って、お歌が凄まじくお上手なんだそうです…
歌うこと自体もお好きだそうで…いつでも歌うけど?って話だそうですが…
皆様が一斉に固辞されるのだとか。
「万が一…神様のあとに歌う羽目になってみろ…絶望して、いっそ殺してくれって、そんな気分になるぞ?」
シレン様が苦笑しながらそう仰ったのですが?…
そ、そこまでですか?
「そうよ、神様はダメなの、あの方だけ、とびぬけてうますぎるのよ、とにかく、危険なのよ…下手に巻き込まれたら大事故よ?良いエトラン…注意するのよ?」
お聞きはしませんでしたが、多分皆様…心を折られた哀しい過去がお有りなのだと…察しました。
なぜこんな事をって話ですが…偉くなって緊張や練習を忘れない為に…だそうで、
実際、皆様相当に偉い人なのに、必死ですものね…確かに、王様の思惑通り…ですかね。
敢えて道化を装って、その後で、本気で心を折りにくると…
それが王様の、調子に乗った人間に対する時の常套手段だと…そういえば、以前エルドン騎士長から聞いた事が有りましたね。
なる程…これは恐ろしいお役目だったと…再認識しました。
きっと茶目っ気タップリに…私も心を粉砕されるのでしょうね。
うわ、ヤダ、
…トリハダが出ました。
頑張って、練習しましょう。
戦場では絶対に感じない様な、不思議な恐ろしい緊張感が有りますね。
三人の将軍様らも、必死なのですから、私も必死に頑張ろうと思います。




