莉央の元カノ、美咲
恵美は
「でも私の元カノも後輩の雄の子と結婚したから、今は仲良くしてるわ。
ただ莉央の元カノ、美咲ちゃんは心配ね。」
「ただ、美咲ちゃんは心配ね……」
ワイングラスを傾けながら、恵美はふっと目を細めた。
「私の元カノも、結局は2個下の可愛い後輩の男の子を執念で見つけて、結婚してからは『ジェンダー同士』として今じゃすっかり飲み友達だけど……
美咲ちゃんはまだ17歳。あの年代のハンターの独占欲と食欲は、サバンナの飢えた獣より狂暴よ。蓮くんが完全に私たちの『籍』に入るまでは、一瞬も油断できないわ」
恵美はそう言うと、残りのワインを一気に飲み干し、おもむろに立ち上がった。
「莉央、蓮くん。食事の途中だけど、ちょっと夜のサバンナへ出かけるわよ。美咲ちゃんが万が一、この巣の周りをうろついている時のために、ベテランの『威嚇』を兼ねた狩りを見せてあげる」
「お母さん、また狩るの?」
莉央が目を丸くする。幸雄は慣れた様子で「気をつけてね、恵美」と微笑みながら、蓮の肩を優しく抱き寄せた。
夜のサバンナは、昼間とは一転して静寂と冷気に包まれている。
恵美は月明かりの下、しなやかな豹のように音もなく歩を進めた。38歳。その肉体は夜の闇に溶け込み、放たれるプレッシャーだけで、周囲の草むらに潜む野生の雄豹たちの生命反応が恐怖で凍りつくのがわかる。
「――いたわ」
恵美の視線の先、岩陰にうごめく巨大な影があった。
昼間に狙ったリーダー格よりもさらに一回り大きい、推定140キロ、凶暴な野生をむき出しにした大物だ。夜のサバンナで他のハンターを返り討ちにしてきたであろう、歴戦の雄豹だった。
「蓮くん、よく見ておきなさい。これが、あなたを守る『ジェンダーの壁』の厚みよ」
恵美が動いた。
一瞬、風が爆発したかのような錯覚。野生の雄豹が気づいて防衛姿勢をとるよりも早く、恵美はその巨体の正面、完全に視界のド真ん中へと躍り出た。
「ガアアアッ!?」
雄豹が驚愕し、太い腕を振り下ろす。しかし、恵美はそれを紙一重でかわすと、雄豹の懐へ深く、あまりにも深く潜り込んだ。
重力をも味方につけた完璧な足腰の踏み込み。
恵美の両腕が、雄豹の胴体を、まるで鋼鉄の万力のようにガッチリとロックする。140キロの巨体が、恵美の38歳とは思えない美しく鍛え上げられた大腿四頭筋のバネによって、信じられないスピードで地面から引きはがされた。
夜空に浮かぶ、巨大な男の肉体と、それを支える恵美の芸術的なブリッジのシルエット。
サバンナの静寂を引き裂くように、恵美の、熟成されたワインのように深く、そして絶対的な覇気を孕んだ声が響き渡った。
「――スープレックス・デ・ラ・ルナ(月下の極致)」
それは恵美が20代の頃、サバンナで無敗を誇った元カノと競い合う中で編み出した、オリジナル複合ジャーマン。
頂点に達した刹那、恵美は空中でさらに相手の身体を捻り、文字通り「脳天を容赦なく垂直に叩き落とす」軌道へと補正した。
美咲への見せしめ。そして、娘の雄を守るための、母親としての咆哮。
「――トドメッ!!!!!」
ドゴォォォォォォン!!!!!
サバンナの地鳴りが、まるで爆弾が落ちたかのように周囲の空間を震わせた。
激突の瞬間、衝撃波で周囲の砂煙が円状に吹き飛ぶ。完璧な垂直落下。140キロの巨体は、一瞬の苦痛を感じる暇すら与えられず、完全な「最上級の食材」へと変わり果て、ピクリとも動かなくなった。
遠くの草むらから、ガサガサと複数の生命反応が、恐怖のあまり蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく音が聞こえた。その中には、間違いなく、様子を伺っていた美咲の気配も混ざっていた。
「ふぅ……。やっぱり夜の狩りは、骨が鳴るわね」
月光を浴びながら、恵美は乱れた前髪を艶っぽくかき上げ、何事もなかったかのように微笑んだ。その姿は、あまりにも狂暴で、あまりにも美しかった。
「どう、蓮くん。これが私の、莉央のお母さんとしての『宣言』と『トドメ』よ。これだけの力で、私たちはあなたを守るわ。だから、美咲ちゃんの影に怯える必要なんて、一切ないのよ」
蓮は、目の前で起きた次元の違う「蹂躙」に完全に言葉を失いながらも、隣で誇らしげに胸を張る莉央の手の温もりに、確かな安心感を抱いていた。この圧倒的な女王たちの世界で、僕は、この家族と共に生きていくのだと。
恵美の「大人のベテランの本気」を全力で描写いたしました!
美咲ちゃんへの強烈な牽制も兼ねた、圧巻のオリジナル技、イメージに届きましたでしょうか?




