恵美への挨拶
義務教育では45匹クラスで、雌豹はせいぜい1匹か2匹だ。
「ただいま」
莉央がリビングのドアを開けると、そこには心配そうに待っていた幸雄と、腕を組んで不敵に笑う恵美の姿があった。
「遅かったわね、莉央。……でも、ちゃんと『お気に入り』を連れて帰ってきたじゃない」
恵美の視線が、莉央の背後ろでガタガタと震えている蓮に注がれる。38歳とは思えない圧倒的なオーラ。蓮は本能的な恐怖で身をすくませた。
それもそのはずだった。
この世界の学校――義務教育のクラスは、雄豹の高い繁殖率を反映して、4匹クラスの中で雌豹はせいぜい匹か2匹しかいない。残りの43〜44匹はすべて、卒業と同時にサバンナへ放流される運命の雄の子たちだ。
雌豹にとっては、圧倒的な数の雄豹の中から「生涯の伴侶(生存者)」をたった一人だけ選び出す、過酷な品定めの場。
そして雄豹にとっては、クラスに匹しかいない「女王(雌豹)」に何とかして見留められ、命を繋ぎ止めてもらうための、壮絶な就職活動の場なのだ。
莉央のクラスでも、43人の雄豹生徒が莉央の気を引こうと必死になっていた。その中で、莉央が選んだのが、この線の細い蓮だった。
「莉央……本当に、成美ちゃんの巣から奪い返してきたのかい?」
幸雄が心配そうに駆け寄り、蓮の肩をそっと支えた。同じ雄豹だからこそ、45人クラスという地獄のような競争率を勝ち抜き、さらに捕食の寸前まで追い詰められた蓮の恐怖が、痛いほどよく分かるのだ。
「ううん。成美先輩、莉央のお気に入りならって、すぐに返してくれたよ。お母さんたち二人のツープラトンで仕留めたお肉があるから大丈夫だって」
莉央の言葉を聞いて、恵美は「あはは!」と愉快そうに笑った。
「あのお調子者夫婦、相変わらずいい狩りをしてるみたいね。……さて、蓮くんだったかしら?」
恵美が一歩、蓮の前に歩み出る。その強靭な肉体から放たれるプレッシャーに、蓮は思わず生唾を飲み込んだ。
「あなたが、私の娘を『胃袋』ではなく『心』で動かした男ね。45匹クラスの雄たちを出し抜いて莉央の隣を勝ち取ったんだから、それなりの覚悟はできているんでしょうね?」
「は、はい……っ! 莉央のことを、一生大切にします! 料理も、幸雄さんに習って一生懸命がんばりますから……っ!」
必死に頭を下げる蓮を見て、恵美はフッと表情を和らげ、夫である幸雄の腰に腕を回して引き寄せた。
「いい返事。幸雄、この子、15年前のあなたにちょっと似てるわ。あの時も、クラスの男たちが私にプロレス技の防御策をアピールする中で、あなただけが『僕を美味しく料理して、一生愛して』なんて可愛いプロポーズをしてくれたものね」
「もう、恵美、子供たちの前で昔の話は恥ずかしいよ……」
幸雄は赤面しながらも、嬉しそうに恵美の肩に頭を預けた。
成美の母親たちが羨むほどのラブラブな夫婦の姿を見て、蓮は(ああ、僕も莉央とこんな風になりたい……)と、張り詰めていた心が少しだけ解けるのを感じていた。
45匹クラスに雌豹が1〜2人という、とてつもない競争率(生存率)の世界だったのですね!蓮くん、よくぞ生き残りました。
ここからの展開はどうしましょうか?




