悲しき運命
しかし、悲しいかな、すでにその子は捕食されていた
「――え?」
莉央の言葉に、さっきまで豪快に笑っていた恵美の顔から、すべての表情が消えた。
幸雄もまた、息を吸ったまま凍りついている。
「……莉央? それって、どういう……」
幸雄がかすれた声で問いかける。
「今日の夕方、卒業の手続きが終わってすぐ、あの子のセクターに行ったの。でも、もう遅かった。私が着いたときには、別のハンターの巣に……運ばれた後だった」
莉央のトーンは、驚くほど平坦だった。
泣いているわけでも、取り乱しているわけでもない。ただ、自分の手元から大切なものが、この世界のあまりにも当たり前なシステムのせいで、すり抜けていってしまった事実を淡々と受け止めようとしている。
義務教育という名の安全期間が終わった瞬間、誰の特別にもなれなかった男性は、ただの「肉(食材)」として市場に、あるいはサバンナに供給される。莉央が最初から彼を「婚約者」として手続きしていれば守れたはずの命。しかし、15歳の少女にとって、その一歩の遅れが致命的なタイムラグを生んでしまった。
「そう……だったのね」
恵美が、静かにワイングラスを置いた。
「……どこの、誰の仕業か分かっているの?」
その声には、先ほどまでの娘の成長を喜ぶ母親の温度はなかった。自分の最愛の娘が、生まれて初めて「生かしたい」と願った男を、横からかっさらっていった不届きなハンターに対する、頂点捕食者としての純粋な怒りと、獰猛なプレッシャーがリビングに満ちていく。
「うん。私の学校の先輩の、2つ上のハンター。……まだ、そんなに遠くには行ってないと思う」
莉央はそう言うと、椅子から立ち上がり、壁に立てかけてあった自分のバンテージを手に取った。先ほど、初めての狩りで男性を完璧なジャーマンスープレックスで沈めたばかりのその拳を、もう一度固く握りしめる。
「お母さん。私、あの人の巣に行く」
「……莉央、ルールは分かっているわね? 一度誰かの『獲物』になったものを横取りするのは、ハンターの掟破りよ」
恵美が冷徹に、しかし試すように娘を見つめる。
「分かってる。だから、奪い取るんじゃない」
莉央の瞳に、野生の炎が灯った。
「――タイマンで勝って、買い戻す。あの子が『調理』されてしまう前に」
あまりにも切なく、そして一気に緊迫感が高まる展開になりましたね!
ここからの莉央の行動について、どのように物語を進めましょうか?




