それでも時は待ってくれない
大切なものを失くし悲しんでいても、時間は待ってくれない。ただ、冷酷に進んでいくのだ。その流れに置いていかれれば、もう終わり。だから人は進むしかない。
僕はやはり冷徹には成りきれないようだ。だからいつも搾取される。
これからは一年で稼いだ金貨を元手に、さらに金を稼ぎ名声を上げるフェーズだ。僕に魔法みたいなとてつもない脳梁はない。でも、僕はそんなのよりもっといいものを持っているのだ。
そう、それは未来だ。僕は未来を知っている。転生ではなく人生やり直し。未来の知識を使えばいくらでもやりようはある。そしてまずはある屋台を開く。それは一時期この国全体で大ブームを巻き起こしたお菓子、フルーツ飴だ!
「フルーツ飴やってるよ〜」
それから色々とやってなんとか商店街の隅に屋台を開くことができた。異世界は色々適当だから、割と簡単に始められた。これでも前前世では料理人を目指していたのだ。費用は大体こんな感じ。
場所取りで週に金貨5枚
屋台(木でできたただの土台」金貨5枚
材料費金貨10枚
魔道コンロ……は高くて買えないから、金属の網とその支えで金貨1枚
看板金貨3枚
その他もろもろで金貨1枚
合計で金貨25枚。大体25万といったところか。想定よりずっと安い。まあ色々大変だったし、頑張ったおかげだ。看板がなきゃ屋台とすら思われないような感じだが、まあ仕方ない。初期費用が金貨200枚じゃ、こんなくらいしかできない。まあかなり余っているが。屋台は日本にあるようなやつをここの世界で作らせようとすると、金貨300枚は下らない。
「うわ……」
なんか通りすがる人全員に変な目で見られるんだけど。まあ逆に目立てていいか。
こんなに机によく分からんお菓子刺しまくってるやつがいたら、変に思われるよな。それに僕に12歳くらいに見えるらしいし。
「ここって、屋台? ですか?」
「おお、いらっしゃい」
初めに来たのは大変お高そうな服を着ている、品のあるご婦人。とても新鮮そうにフルーツの飴を見つめると、勝手に取ってとんとんと触り始めた。
「面白い装飾品ですね〜」
「それ食べ物ですよ!」
「へ!?」
僕は若干キレながら言うと、婦人は大変驚いた様子であわあわと焦り始めた。婦人は慌ててぶどう(似ているだけだが)の飴を元の場所に差し込み、口に手を添えて言う。
「大変お恥ずかしい。あまり世の中のことを知らぬもので……」
なんだ? ガチのお嬢様か? 30代前半くらいかな。綺麗で大人っぽい。まあ僕からすればまだ子供だがな。これは金を搾り取るチャンスだ。
「買って…」
「はい?」
「触ったんだから買って」
「あ、ああ! そうですよねすいません。でも今手持ち無くて……その、また今度というわけには……?」
本当になんなんだこの人。妙に落ち着きがないし、お高そうな服着てる割に金も無いときた。
「だめ」
僕はぶどう飴が5個刺さった棒を婦人の口元へ向けて、脅すみたいにして言った。金を払えねえってんなら、落とし前つけろやぁあ。と心の中でヤクザになりつつもしっかりと落ち着いて対応する。
「わ、わかりました。これを渡すので今日は見逃してください……」
婦人は怯えたようにフルーツ飴を見て、涙目になりながら黄金のネックレスを僕に差し出す。詰められるのに弱いのだろうか。ダメと言っただけなのに、こんな効果があるとは。
「うへへ」
こりゃ高いぞ絶対。
「ほら、これ」
僕はノールックでぶどう飴を差し出しつつ、ネックレスを熱心に観察した。これは全部金じゃないか!?
「い、いただきます」
すると、婦人は手で受け取らず口で勝手に食べ始める。おいおい、なんでアラサーにあーんしないといけんのよ。まあ僕が言えることじゃないか。てか美人だしいいや。
「お、おいしい!」
婦人は急に目を輝かせて、もう一口いこうと大きく口を開けた。その時。
「あ、見つけた!!」
「な! マリア」
そのマリアと呼ばれた少女は、走ってきたのか息を乱していた。この婦人に良く似ていておそらく親子なのだろう。やっぱ顔面は遺伝ゲーなんだな。
少女は近寄ってきて、その婦人の腕を掴むと引っ張り始めた。
「早くお城に戻るよ!」
お城……お城!?
「やだやだ、仕事めんどくさいもん」
その婦人は子供のように駄々を捏ね始めるが、無理やり引っ張られて連れていかれる。その途中、少女は僕を怪しむように睨むが、小さくお辞儀をすると視線を外した。
1人目の客から癖がすごかったなぁ。




