父親は基本娘に甘い
まず何をするかだ。僕はもう冒険者になって魔王を! とかそう言う気持ちは全くない。何十年もこちらの世界にいれば、魔法なんて敵国の大統領と似た感覚だ。魔物と戦うのは戦争に行く感じと変わらない。
「となると……」
僕は人手不足と書かれた看板に目を映す。そこは見たところあまり繁盛はしていない、小さめの飲食店。前は身分証がないせいでまともなところじゃ働けなかったが、とりあえずここで資金調達をしよう。ただ僕はその時、なんとなくの違和感を感じていた。
「すいませーん」
僕がドアを開けるとベルの音がカーンと鳴る。大柄の大将がよくわからない食材を豪快に炒めながら、ちらりと僕を見ると声を上げた。
「そこら辺勝手に座りな!」
「あ、いえ、そのバイトのーー」
「声が小さくて聞こえねーよ!」
「働きに来ましたッ!!」
僕が本気で大声を出すと、大将はびっくりしたように硬直し、直後こちらに振り返ると声を荒げた。
「うっせえよバカやろう!」
「あ、すいません」
変なおっさんだ。
まあ金がもらえるならなんでもいいか。
そんなことを考えているうちに男は調理を終えたのか、僕の前に立つと威圧するみたいに僕を見た。
「お前、料理できんのか」
「一度もやったことはありません!」
僕は後ろで手を組み、軍隊での返事のように腹から声を出す。こういう系のおっさんにはとりあえず男気を見せないとね。すると男は一瞬考え込むみたいに難しい顔をすると、こちらを見る。
「うん、普通に無理だな」
「え?」
「まあ、料理経験ないなら無理だな」
その至極当然の回答に僕は口が開かず、その場で座り込み顎に手を添えて思考する。まあ当たり前だが別にキッチンだけとは書かれていなかったしな。仕方ない仕方ない。とりあえず接客の方で働かせてもらうか。
「自分、接客に関しては誰にも劣らぬ自信があります!」
僕はすっと立ち上がり、再び背中で腕を組む。
「うちはもう接客間に合ってんだ」
「そこをなんとか……」
僕は即座にかがみ、ゴマをするように手を擦り合わせるが、効果はなく敵対的な姿勢は揺るがない。
「さっきから騒いで〜どうしたんすか店長?」
その時、奥から休憩してたと思われる女性の従業員が顔を出した。
「こいつがここでどうしても働きたいっつうんだよ」
「ええ〜、いいじゃないすかっ」
女性の従業員はゆったりと僕に近づくと、体を下から上まで見定めるみたいに見る。そのまま振り返り、笑いながら男の肩をバンバンと叩く。
「個性豊かで面白いじゃないっすかぁ!」
「でもこいつ料理は一度もしたことないっつうだぜ?」
男は一瞬僕に視線を移して言った。すると女性はさらに腹を抱えて笑い出す。
「言い方っ、もっと誤魔化せば良いのにぃ〜」
「嘘はつけないので」
「店長〜真面目で良い子じゃないっすかぁ。私が面倒見るんでお願いっす!」
するとその女性は僕の頭を無理やり押さえつけ、ふざけたように自分も深く頭を下げる。あれ、なんか僕ペット扱いされてない? これ完全に子供が親に、捨て猫拾ってきたから飼いたい! っておねだりする時のセリフだよね。
「にゃー」
「あはは! ほらほらノリも結構良いですしぃ」
その女性のゴリ押し具合に店長も段々と頭を悩ませ始める。まあ無理だろうな。こんな頭が硬そうな人がノリとかなんとかで説き伏せられるわけもない。味方になってくれたことには素直に感謝するが、早く次の店にあたりたいから帰してほしいところだ。
「わかった……」
「は?」
「やったー!」
その女性はまるで最初から分かっていたかのように、嬉しそうに軽く飛び跳ねる。
「え、いいんですか?」
「まあな。可愛い娘の頼みだ」
可愛い娘……その言葉を聞いて僕は周りを見渡す。そして視界に入ったのは従業員の女。こいつか!
「これからよろしくねぇ」
「はいっ」
僕は後ろで腕を組み、はっきりと声を出して返事した。するとさらに笑われて、確実にいじられキャラになることが確定した。ついにまともな仕事につけた。これで資金調達をしてゆくゆくは政治関係のことにも関わっていきたいところだ。




