好きになりたかったから
この世界の移動手段は馬車だ。ある程度道は定められていて、それ以外は歩いていくか何か工夫するしかない。僕の行きたいところに馬車では行けない。しかも近くには魔物も盛りだくさんだ。僕は魔法も使えないし、スライム相手でも死ぬ可能性が十分にある。
でも、そんな時は!
「冒険者ギルド!」
冒険者ギルドと言えば、魔物討伐やらなんやらが最初に思い浮かぶだろう。だが実際は薬草集めに、雑草抜き、道案内なんていうものある。たまにあるだろう? 異世界転生もので護衛の依頼を受けてハプニング発生! そんな中ヒロインと仲を深め強くなっていく、みたいな展開がさ。それのモブ、依頼者側になるわけだ。
「あの、お姉さん」
とりあえずギルドのお姉さんに話しかける。ギルドのことは詳しくは知らない。前はそんなこと考えてすらいられなかったからな。
「なんか、護衛の依頼? みたいのできますか」
「護衛の依頼ですね。どのような内容で?」
特に変に見られることもなく、女は冷静に聞き返す。内容か……まあ場所は分かってるし、山登りになるからな。
「山登りとかもあって、地域名はない場所なんですがそこに探索は向かいたいんです」
「そうですね。魔物はどの程度出ますか?」
「そこまで危険ではないんですが、移動が大変です。2日ほどの依頼になります。冒険者ランクはC以上でお願いします」
冒険者ランクは基本F〜Sまでで分けられて、ドラゴンを倒したり、魔王を倒したり大きなことをすると、特別な称号が与えられたりもする。Dまでは戦闘経験のない人でも頑張れば上がれる。だからお金欲しさで実力に見合わない仕事をとる奴もいる。だから安全をとってCにしておいた。
「わかりました。報酬はどのくらいつけますか?」
報酬はつければつけるほど、早く仕事がとられるし強い冒険者も来やすい。だが、そこまでお金に余裕があるわけでもないので、ギリギリを狙っておこう。
「金貨20枚でお願いします」
「はいはい、金貨20枚ですと少々仕事がとられるのに、時間がかかる可能性がありますが大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
砂糖さえ手に入れば金は稼げる。とりあえずこの遠征で砂糖を大量に持ち帰る方法を考えなければ。
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「ええー!?」
後日、早速受けられてたりしないかなぁ? と軽い気持ちで見に行くと……。
「Sランク冒険者ですか!?」
僕は思わず素っ頓狂な声を上げた。
この国に数人しかいないSランク冒険者が、こんな雑用みたいな依頼を受けるなんて。
僕が昨日の女性に駆け寄って聞いてみると、女性も呆気に取られたような表情で激しく頷いた。
「はい、私も驚いていますっ」
「これ……詐欺じゃないですよね」
単純な話。こんな依頼をSランクの冒険者が受ける意味は全くない。なぜなら、この世界のSランクとは全員が魔王に匹敵すると言われるものたちだからだ。詐欺のようにしか思えない。
「温厚そうな女性でしたが、確かに様子はおかしかったかも……」
「おかしかった?」
「妙に興奮していたと言いますか、その依頼を見てすぐさま取っていったんです」
僕の依頼そんなに好条件だったのだろうか。いや、職員さんの反応的にそれはないとしても、なんでだ? Sランクの冒険者は変わった人が多いと言う話は、本当なのだったようだ
「日は、日はいつですか!」
「ええっと、確か明日にも行きたいと」
ええ……まじかよ。怖いんだけど。
僕が魂が抜けたかのような表情をしていると、それを見てか女性は言う。
「Sランクの方なので一方的に断るのは難しいかと……」
「……はい」
そんなこんなでめんどくさそうな冒険が幕を開けそうだ。でも正直、少し面白そうだな、なんて思ってしまっている自分がいる。だって僕はずっと冒険者になることが夢だったから。この世界をちゃんと見てみたかったから。汚れたところだけじゃなく、この世界の楽しいことを知りたかったから。
そしてこの世界を好きになりたかったから。




