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好きになりたかったから

 この世界の移動手段は馬車だ。ある程度道は定められていて、それ以外は歩いていくか何か工夫するしかない。僕の行きたいところに馬車では行けない。しかも近くには魔物も盛りだくさんだ。僕は魔法も使えないし、スライム相手でも死ぬ可能性が十分にある。


 でも、そんな時は!


「冒険者ギルド!」


 冒険者ギルドと言えば、魔物討伐やらなんやらが最初に思い浮かぶだろう。だが実際は薬草集めに、雑草抜き、道案内なんていうものある。たまにあるだろう? 異世界転生もので護衛の依頼を受けてハプニング発生! そんな中ヒロインと仲を深め強くなっていく、みたいな展開がさ。それのモブ、依頼者側になるわけだ。


「あの、お姉さん」


 とりあえずギルドのお姉さんに話しかける。ギルドのことは詳しくは知らない。前はそんなこと考えてすらいられなかったからな。


「なんか、護衛の依頼? みたいのできますか」


「護衛の依頼ですね。どのような内容で?」


 特に変に見られることもなく、女は冷静に聞き返す。内容か……まあ場所は分かってるし、山登りになるからな。


「山登りとかもあって、地域名はない場所なんですがそこに探索は向かいたいんです」


「そうですね。魔物はどの程度出ますか?」


「そこまで危険ではないんですが、移動が大変です。2日ほどの依頼になります。冒険者ランクはC以上でお願いします」


 冒険者ランクは基本F〜Sまでで分けられて、ドラゴンを倒したり、魔王を倒したり大きなことをすると、特別な称号が与えられたりもする。Dまでは戦闘経験のない人でも頑張れば上がれる。だからお金欲しさで実力に見合わない仕事をとる奴もいる。だから安全をとってCにしておいた。


「わかりました。報酬はどのくらいつけますか?」


 報酬はつければつけるほど、早く仕事がとられるし強い冒険者も来やすい。だが、そこまでお金に余裕があるわけでもないので、ギリギリを狙っておこう。


「金貨20枚でお願いします」


「はいはい、金貨20枚ですと少々仕事がとられるのに、時間がかかる可能性がありますが大丈夫ですか?」


「大丈夫です」


 砂糖さえ手に入れば金は稼げる。とりあえずこの遠征で砂糖を大量に持ち帰る方法を考えなければ。


*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*


「ええー!?」


 後日、早速受けられてたりしないかなぁ? と軽い気持ちで見に行くと……。


「Sランク冒険者ですか!?」


 僕は思わず素っ頓狂な声を上げた。


 この国に数人しかいないSランク冒険者が、こんな雑用みたいな依頼を受けるなんて。


 僕が昨日の女性に駆け寄って聞いてみると、女性も呆気に取られたような表情で激しく頷いた。


「はい、私も驚いていますっ」


「これ……詐欺じゃないですよね」


 単純な話。こんな依頼をSランクの冒険者が受ける意味は全くない。なぜなら、この世界のSランクとは全員が魔王に匹敵すると言われるものたちだからだ。詐欺のようにしか思えない。


「温厚そうな女性でしたが、確かに様子はおかしかったかも……」


「おかしかった?」


「妙に興奮していたと言いますか、その依頼を見てすぐさま取っていったんです」


 僕の依頼そんなに好条件だったのだろうか。いや、職員さんの反応的にそれはないとしても、なんでだ? Sランクの冒険者は変わった人が多いと言う話は、本当なのだったようだ


「日は、日はいつですか!」


「ええっと、確か明日にも行きたいと」


 ええ……まじかよ。怖いんだけど。

 僕が魂が抜けたかのような表情をしていると、それを見てか女性は言う。


「Sランクの方なので一方的に断るのは難しいかと……」


「……はい」


 そんなこんなでめんどくさそうな冒険が幕を開けそうだ。でも正直、少し面白そうだな、なんて思ってしまっている自分がいる。だって僕はずっと冒険者になることが夢だったから。この世界をちゃんと見てみたかったから。汚れたところだけじゃなく、この世界の楽しいことを知りたかったから。

 

 そしてこの世界を好きになりたかったから。

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