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こんなに美しいから

 朝起きて、すぐに向かうは冒険者ギルド。このフレーズだけ聞けば、日本人が憧れる異世界物語のようだが実際は詐欺してくるかもよくわからん人に会いに行くだけ。全然夢がない。

 僕はギルドの扉の前で一呼吸おいて、覚悟を決めて勢いよくドアを開けた。


「こんにちは!」


 その先に待っていたのは特に武装もしていない少女と、昨日のギルドのお姉さんだけ。あれ、まだ来てないのか。


「少し早かったですか?」


「はい?」


「だってまだSランクの方が来ていないようだし」


 僕はそう言いながら全体を見渡すように視線を動かす。

 すると、ギルドのお姉さんが返事をするより先に僕の方に手が乗る。僕は思わず振り返る。


「挑発しているのかい?」


 振り返ればそこにいたのはニヤリと笑った15歳くらいの少女。なんだこいつ。


「なんですか急に?」


 僕は少女を威嚇するように睨む。若い子でも異世界にはヤバい奴はたくさんいるからな。するとギルドのお姉さんが気まずそうに声をかけてくる。


「あ、あの、その方がSランクの……」


「え!?」


 こいつが!? まあ確かにランクに年齢は関係ないが。


「うひひひ、愉快愉快。その顔いいじゃないか」


 なんとも言えない癖の強さで、とりあえずまともな奴でないことはわかった。紫の髪に紫の目。全体的に悪魔のような奴だ。


「私はディアラ。君の護衛担当だよ」


 色々と違和感がすごい。いかにも純粋な少女のような見た目なのに、実際喋ってみると魔女みたい。


「へ、へえ」


 僕はそのキャラクター性に圧倒されて、しょぼくれた返事を返した。


「さあさあ、さっそく向かおうじゃないか」


 僕は背中を押されながらギルドを後にした。


*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*                                                

「すごい荷物だね君」


 前を歩くディアラは突然背中を後ろに曲げて一瞬僕を見ると、そんなことを言ってきた。似合わね〜、行動全部似合わねー。


「素材を回収しに行くので、持って帰れるだけ持って帰りたいんです」


 僕は回答を聞くと背中を戻し、今度はノールックで僕に問いかけてくる。


「ほうほう、つまりそのカバンの中身は器なのかな?」


「いえ、皮袋です。持って帰りたいのは砂糖なので」


 僕の言葉でディアラはピタリと立ち止まる。そして今度は普通に振り向いて、心の底を覗くみたいに僕を見る。正直何一つも話したくないのだが、相手はSランクな上に一緒に行くのだから隠すなんてほぼ無理だ。


「砂糖?」


「不思議な場所なんです」


「ほう。砂糖が取れる場所があるとは……面白い」


 するとディアラは考え込むように顎に手を添えて、そんなことを呟く。あれ、別に砂糖が取れるとは言ってないはずだけど。僕が不思議そうな顔をしてるとディアラはそれを見ると言った。


「私は察しがいいんだ」


 話をしているうちに、いつの間にか森の深部へと到達していた。今のところ魔物が出る気配はなく、安全に散歩することができている。そろそろ歩くのにも疲れてきたな。何より……。


「暑い……」


「もう疲れたのかい?」


「はい……」


 するとディアラは止まって急にこちらに手をかざす。そして何かを詠唱し始めた。


「神なる力は祝福なり、自然の摂理に抗えし力を我に、クリエイトストーン」


 詠唱が終わると、何もないはずのところから突然石が現れ、それはどんどん椅子の形になってゆく。こ、これは魔法だ! しかもこんな高度な魔法を当然のように。魔法を見るのは初めてじゃないが、見てるだけでもワクワクが抑えられない。


「そんなに嬉しそうにされると、少しばかり照れ臭いな」


「座っていい!」


「ああ」


 僕は荷物を床に放り投げて勢いよく椅子に座る。固い……でもこれが魔法でできた椅子と考えると、かっこよくて仕方ない! 僕も魔法が使いたい。ただ虚しくなるだけだとわかっていても、それでも僕は魔法を諦められない。

 だってこんなにかっこよくて、こんなに楽しそうで、こんなに美しいから。

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