真の平和
(・・・またここかよ)
大きな溜息を吐いた。
周囲には白い靄が立ち込め、誰もいない。
これが現実でない事は知っている。
夢か幻。
途方に暮れつつも歩き出す。
行けども行けども風景は変わらない。
足を止め、考える。
確か自分は一度目を覚ましたはず。
辺りが暗かった記憶はあるが・・・それ以上は思い出せない。
・・・本当に夢だよな?
・・・あれ?
もしかして・・・俺は本当に死んだのか?
一抹の不安が頭を過った時・・・不意に背後から声が聞こえた。
自分の名を呼ぶ声。
この声を知っている。
だけど・・・
恐る恐る振り向き・・・予想通りの人物に唖然とした。
「・・・タレッセ」
「ナナシ、久しぶりね」
彼女は優しく微笑んだ。
瞬間―――全てを察した。
あぁ・・・俺死んだんだ。
深い絶望が心を支配する・・・が、次の瞬間には全てを受け入れいる自分がいる。
どの道死は覚悟していたのだ。
今更あがいても仕方ない。
頭を切り替え、久しぶりだな。と、彼女に歩み寄る。
だが・・・その身体は動かない。
まるで足がその場に固定されているかの様にピクリともしない。
それだけではない。
声すらも発する事が出来なくなっているではないか。
何だ?
どういう事だ?
パクパクと口を動かしている自分の姿はさぞ滑稽に見えているのだろう。
彼女は小さく笑い、踵を返す。
「村を・・・国を救ってくれてありがとう。でも、駄目よ?貴方はまだ駄目。私はお礼を言いに来ただけだから。こっちにきちゃ駄目。・・・それじゃあね。フロウにも伝えておいて。ありがとうって」
それだけを言い残し、彼女の姿は白い靄の中へと消えていく。
ちょっと待てよ!と、呼び止めようとした時・・・背後に気配。
誰だ・・・?
尚も身動きが取れないその背後で、こちらに歩み寄る足音だけが響き渡る。
嫌な汗が額に滲む。
呼吸も荒くなり、ゴクリと唾を飲み込む。
目の前に現れたその人物に・・・目を丸くした。
現れたのは―――フロウ。
流石に困惑した。
何でフロウがここに?
これ・・・夢だよな?
っていうか・・・後ろにいたのにタレッセは気付かなかったのか?
意味が分からず彼女を凝視し続け・・・違和感を感じる。
何でさっきから黙っているんだ?
自分の知っているフロウはこんなに静かな奴じゃないぞ?
それに・・・その表情は何だ?
不審に思うのも無理も無い。
目の前にいるフロウは顔を紅潮させ、官能的な笑みを浮かべているのだから。
流石に少し気味が悪い。
そんな気持ちを知ってか知らずか・・・彼女は徐に服に手をかける。
・・・は?
何やってんだこいつは?
頭でも打ったのか?
唖然とそれを眺め続けるが、止まる様子は無い。
徐々に彼女の肌が露わになり、流石にマズいと我に返る。
ちょっと待て!お前それ以上は・・・!
しかし、思いとは裏腹に声も出なければ身体も動かない。
最後の下着を投げ捨て、彼女は薄い笑みを浮かべたまま歩み寄る。
おいおいおいおい、待て待て待て待て!
冷やりとした手が・・・頬に触れる。
「―――待てっ!止めろっ!バカ!!」
「っぶ!!」
・・・ん?
身体が動き、声も出た。
だが・・・ここはどこだ?
周囲を確認し理解する。
ここは屋敷の部屋か?
見た事ある風景・・・間違いない。
自分がいるのはベットの上。
つまり・・・あれは夢か。
安堵すると共に、頭に痛みを感じる。
何かにぶつかったか?と、視線を下げると・・・そこには蹲っているフロウの姿。
「・・・何やってんだ?お前?」
「ず・・・随分とご、ご挨拶じゃないか・・・ナナシ君・・・。き、君は・・・起き抜けに・・・女性に・・・頭突きをかます・・・癖でも・・・あるのかい・・・?」
鼻血を流しながら悶える彼女を前に、本物だ。と、胸を撫で下ろす。
「・・・あ!そんな事よりあの魔女はどうした!?皆は大丈夫なのか!?」
「そんな・・・事・・・?お、おやおや・・・君は嬲るよりも・・・嬲られる方が好みだと思っていたが・・・違ったようだね・・・。いや、まぁ・・・確かに私は嬲られるのも嫌いじゃないが・・・。というか・・・私の鼻は大丈夫かい・・・?曲がってない?」
何言ってんだこいつ?
相も変わらず訳の分からない事を言う彼女に冷たい視線を向ける・・・が、一応謝罪はする。
心がこもってないねぇ。と、唇を尖らせつつも、彼女はこれまでの状況の説明をした。
『奪取』の撃破で勝敗は決した。
兵数は帝国の方が優勢ではあったが、魔女・処刑人形・魔獣の全てを失った彼等に勝ち目などは無い。
戦意は喪失。
逃げ出す事もせず、帝国兵達は武器を捨て降伏を申し出た。
国王もそれを受諾。
捕虜の解放を条件に国への永久的な不可侵条約を交渉。
帝国としてはこの様な条件を飲む訳にはいかない・・・が、そうも言ってはいられない事情もある。
帝国の敗北は瞬く間に世界に知れ渡り、王国やドワーフ・オークがこの機に乗じて進行を開始。
魔女という強大な戦力を1つ失い、更には明らかに格下の国への敗北による兵の士気の低下。
多方面の戦いを強いられ、悪戯に戦力を消耗させる事は愚策と判断し・・・帝国はこの条件を承諾。
その時をもって―――この国は本当の自由を手に入れた。
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