今後の予定
「それで?具合の方はどうなんだい?まだ傷は痛むのかい?」
鼻血を拭き取りつつ、フロウは尋ねる。
お前の方が随分と痛そうに見えるぞ。と、傷口に視線を向ける。
「・・・もう塞がってる。誰が治療してくれたんだ?」
「誰って・・・おいおい、ナナシ君。私に決まっているだろう?あの程度の傷、私の魔法にかかればチョチョイのポンだよ」
「チョチョイのポンって・・・。それにしても凄いな、傷口が完全に消えてる。ここまで完全に消せるもんなのか?凄いというよりも怖いんだけど」
「だろう?私を誰だと思っているのかね?魔女だよ?魔・女。もっと褒めて、崇めて、奉ってくれても構わないよ?」
自慢気な表情で胸を張る彼女を無視し、尋ねる。
「あぁ、そうだ。なぁ、フロウ?あの魔法って何だったんだ?前に使った時は剣が光るだけだったはずだろ?今回は何か違ったぞ?何て言うか・・・その・・・力が漲る?溢れる?そんな感じがしたんだけど」
「さて?何だろうね?」
途端に退屈そうな表情になり、彼女は足をバタつかせる。
え?
何だろうね?って・・・何言ってるんだこいつ?
お前が使えって言ったんじゃないか。
え?
何?
適当に言ったのか?
「・・・お前が『夜になったら使え』って言った記憶があるけど?」
「あぁ、言ったよ?前にも言ったじゃないか、『夜中の散歩には最適な道具だ』って。君が気分よく散歩できるように進言したつもりだったが、まさかあんな事になるとはね」
怖い怖い。と、彼女は肩を震わせる。
当然、嘘だという事はすぐにわかった。
だが、彼女が話したくない以上は聞く気も無い。
「・・・あ!もしかしたらあれかな?夜間に美女を見てしまったが故、興奮し性欲が溢れたとか?うん、そうだ。そうに違いない!いや~、ナナシ君。君が誰に欲情しても構わないが、節操というものをだね・・・」
こちらの気も知らないで好き勝手に言う彼女に溜息を吐く。
1人賑やかな彼女を見つめていると・・・ふと、夢の中の出来事を思い出す。
先程の卑猥な夢ではない。
戦闘中に見たあの夢・・・というか、記憶?
あの時、自分の目の前にいた女性は誰だったんだ?
金色の髪に漆黒の眼。
どことなく・・・フロウに似ていた。
それに、断片的に聞き取れたあの言葉。
『お前の・・・指令・・・『星月』の魔女・・・殺せ・・・』
本当に記憶だとしたら、俺のやるべき事は・・・
・・・駄目だ、分からない事が多すぎる。
『星月』の魔女は戦争を終わらせた英雄じゃないのか?
そいつを殺す?
何で?
どこにいるかも分からないし、そもそも生きているのか?
それにあの女性。
魔女を殺せという事は魔女ではないのか?
そもそも、あの女性と自分の関係は?
何故自分はあんなに畏まっていたのだ?
服装などを考えるに・・・どこかの王族か?
だとしたら自分はそこの兵士か何かか?
・・・こんなみすぼらしい恰好なのに?
記憶が正しければ、あの時の自分はもう少しちゃんとした格好をしていたぞ?
頭を悩ませていると、フロウの声で我に返る。
「・・・聞いているのかい?ナナシ君?」
「・・・ん?あぁ、悪い。何?」
「おいおい・・・しっかり聞いてくれたまえよ。それとも私の爆笑必死の小話の方がいいかい?」
「だったら聞かなくても問題ないだろ」
「これはこれは・・・随分と手厳しいねぇ」
肩をすくめ、本題に入る。
「今後の予定さ。どうするんだい?」
「どうするって・・・エルフの所に行くんだろ?前に言ったじゃないか」
「・・・やっぱりそうなるよねぇ」
明らかに嫌そうな顔をする彼女に首をかしげつつも、どうしても例の女性が気になり尋ねる。
「なぁ、フロウ。お前に姉妹っているのか?」
「はぁ?何だい?藪から棒に」
「あぁ、実は―――」
と、ここで扉が開く。
「ピヨッ!?ナナシさぁん!?」
「パルシィ?ひさし―――ぶっ!」
突然何かが腹部に直撃。
何だ・・・一体・・・
視線を向けるとそこには―――ドロワ。
彼女は泣きじゃくり、声にもならない声を上げている。
「よ”がっだぁ!!ナ”ナ”ジィ・・・本当に・・・よがったぁ・・・!」
「ド、ドロワ・・・あの・・・」
鼻水と涙で顔が酷い事になってるぞ?と、言いたいがそれを飲み込む。
そんな光景を見つつ、フロウは立ち上がる。
「やれやれ、お熱いじゃないか。邪魔者はこの辺で退散するとしようかな。私達は暫く戻らないから、楽しんでくれたまえ。・・・あ!でも、声は極力小さくした方がいいよ?」
「何の話してるんだ?お前?」
「あっはっは!さぁ、行こうかパルシィ君。今夜の宴の準備だ。新しい勝負下着を見繕うとしよう」
それだけを言い残し、フロウとパルシィは部屋を後にする。
・・・宴?
取り残された部屋の中には呆けるナナシと、泣き喚くドロワだけが取り残された。
その夜。
町では盛大な宴が催された。
本来であればすぐにでも行いたかったが、勝利の立役者のナナシが眠っていた為に自粛していた。
これまでに溜まっていた喜びを爆発させるかの如く―――町では至る所で歓喜の声が響き渡る。
とある一室。
フロウは夜空を眺めていた。
瞬く星と輝く月を肴に酒を飲む。
眼下で賑わう住民達を見ていると、不意に扉の開く音。
「こ、ここに・・・お、おられたんですね・・・」
「やぁ、シャルロット君」
おどおどと部屋に入ったシャルロットはドキリとした。
月明りに照らされたフロウの顔は僅かに紅潮しており、同性の自分ですら見とれてしまうほど官能的。
恥ずかしさで自分の顔が一気に赤くなるのが分かる。
どうかしたのかい?と、彼女の声で我に返り、辺りを見回し一呼吸。
「も、もう一度・・・そ、その・・・お礼がしたくて・・・」
「またかい?もういいじゃないか。それよりも「だ、駄目です!何度してもしきれません!!」
言葉を遮り、勢い良く頭を下げる。
「この国を・・・皆を守ってくださって・・・ありがとうございます―――『星月』様」
そんな彼女を見向きもせず・・・フロウは再び酒を口に運ぶ。
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